履くと飾るを両立させる
いまや全世界的にコレクターが多いスニーカー。クラムボンのミトもそのひとりで、リリースされたニュートラック「ピリオドとプレリュード」のMVでも、お気に入りのエアジョーダン4を履いて出演するほどのスニーカーフリークだ。
そして彼がコレクターとして卓越しているのは、その所有モデルに対する愛着とこだわりにある。ファッションアイテムとして手に入れたモデルは履くことを信条としているが、同時に観賞用としても両立させるための努力を怠らない。たとえば、履いたスニーカーは脱ぐ度にクリーニングし、新品同様のコンディションを保って専用のクリアケースに飾っている。
「履いた日は必ず洗面所で徹底的にクリーニングします。ソールの裏なんて新品同様に戻るまで洗いますよ。部屋で飲む時にテーブルの上に並べて酒の肴に眺めたりするんですが、ソールをきれいにしておかないと嫌じゃないですか(笑)。飾っているスニーカーは新品? とよく聞かれますけど、ほぼすべてを履いています」
そもそもミトがスニーカーにハマったのは2018年頃とわりと最近のこと。まさに大人の趣味として始まった。
「きっかけは雑誌で見たコーディネートでしたね。モデルが誰だったか覚えていないんですけど、真っ白のセットアップに、 白いたぶんエアフォース1じゃなかったかな…コーデに取り入れていて、なんか決めすぎない不思議なバランスで成り立っているのを見てすごくカッコいいなと。それで他のスニーカーを合わせたスタイルに興味をもって調べてみると、またカッコいい。
それまでは、たとえばエアマックスが流行っていた時に周囲は盛り上がっていたんですけど、当時は音楽を始めたばかりでお金もなかったから、その輪に入ったら負けだなと思っていたんですよ(笑)。最近になって、ある程度楽器などのエクイップメントもまとまってきて、周囲の環境が落ち着いてきたら、ある時それこそ、ふとハマってしまったんです」
現代風アレンジの復刻モデルも魅力
青年時代、横目にスニーカーブームを眺めていたミト。多くの昭和50年男たちがそうであるように、彼のコレクションも90年代カルチャーへのノスタルジーがその原動力だ。
「やはり若い時代にドンピシャでヒップホップ全盛期を過ごしているんで、ストリートカルチャーの影響はどこかしら確実に ありますね。またこの年齢になって、自分のスタイルも当時に戻ってきたというか…。それに加えて、今だから買えるような、 ちょっとだけハイブランドのアクセントを入れる余裕というか遊べる年齢になったというのもありますし。なんか若い頃に満たされなかったものを補完して、大人になった今だからこその遊びを楽しんでいるというような不思議な感覚がありますね」
そうしたわけでコレクションするスニーカーは、90年代近辺の復刻モデルが多い。だが単にオリジナルの復刻にはこだわらない。むしろ、同世代のブランドデザイナーたちがアレンジしたコラボレーションモデルにこそ、その価値を見出している。
「たとえば、ア・マ・マニエールが手がけたエアジョーダン1(以下、AJ1)なんて見ると、彼ら本当にオリジナルが好きで、当時これくらい贅沢な一足だったんだなという憧憬が感じられるんです。アレンジする人たちが若い頃、手が届かなかったスニーカーを、大人になった今だからこそ、理想や夢で描いていたことをデザインとしてブラッシュアップした。そんな気概がいいなと感じるんですよね」
またその趣向はディテールだけにこだわらず、モデルの成り立ちにまで及んでいる。
「AJ1は横からみて、オリジナルのシルエットだとかかとのところが垂直だったんですけど、最近のモデルはヒールカップを 少し丸くして、かかとが浮きにくいようにシルエットを変えたりしているんです。それが嫌だという人もいますけど、僕は履 けていいものになっているから、全然理解できるんですよね。それでもインソールを変えたり少しでも履きやすくする試行錯誤をしたりもするんですが、そういうのもまたおもしろいんです」
履いて楽しみ、飾って楽しむ。スニーカーは、今やミトの生活の一部になっている。
「スニーカーは、飾って眺めるのもそれはそれで好きなんですけど、自分のスタイルにフィットして初めて機能するものなのかなと考えています。だから自分のコーディネートは確実にスニーカー中心ですね。まず靴があって、上物はほぼ最後に決めていますね。だから午後から雨が降るだろうなんて聞くと、どのスニーカーを履いてどういうコーディネートにして外に出ようかとか相当悩んだり(笑)。当然、雨用のスニーカーは決まっていますし、そのバリエーションをどう拡大しようかなと思案中だったりします」
スニーカーをめぐる 環境も進化している
ミトのコレクションはナイキとニューバランスを中心に、アディダス、アシックスとバリエーションが幅広い。またファッションに合わせやすいシンプルデザインばかりかというと、アンダースン・ベル×アシックスやSBダンク“ワット・ザ・ポール”などの超個性派モデルもしっかり加わっている。
「コーディネートルールも、最近だいぶ柔軟になってきていますよね。モダンなスタイルにトレイルランニングモデルを合わせる流行があったり、あえて外しというか、着くずすポイントとしてスニーカーがコミットしてきていると思います。逆に上物は派手にできないけど、スニーカーだけ『ん?』と思わせるようなスタイルとか、大人の嗜み感としては逆にありかなと」
そんな熱意ゆえか、自分のアンテナに引っかかるモデルが発売されると聞けば、ネット抽選はもちろん、発売日に開店前のショップの行列に並ぶのも全く厭わないという。
「発売日は普通に並んでいますよ(笑)。最近はリテラシーも高くなって並んでいる時の手順や環境も変わってきましたし、何 よりイベント感があるんですよね。好きな人たちが集まるから待っている間もウキウキした会話をするとか、普段とはまた違 う話ができてそれが楽しい」
好きなモノ同士のコミュニティで得られる新しい発見。SNS時代になってその可能性も大きく広がったとミトは言う。
「たとえばスニーカーの宿命である加水分解の話でも、それこそメーカーの作り手から悩んでいるみんなまで、どうやって遅 らせようか、ケアしようかと話し合っているんですよ。そんななかで誰かが何かを発見すれば、SNSだとものすごい勢いで拡散しますよね。そして1ヶ月もすると最適解ができ上がる。そんな情報を共有するのも、またおもしろいと感じますよね」
クリエイターらしく趣味でもその道をとことん突き詰めるミト。そこで得た深い知識とこだわりで、彼のコレクションはいつまでもおろしたての輝きを放ち続けていくことだろう。
美麗! まるで新品コンディションをキープしたミト コレクションから10足紹介!
1.Nike Air Jordan 1 High OG × A Ma Maniére”Sail and Burgandy”
「アメリカ・アトランタのセレクトショップが手がけたラグジュアリーなAJ1。贅沢な作りというより、ノスタルジーやテーゼが感じられて最高」
2.Nike Air Jordan 1 High OG “White Cement”
「AJは自分にとってNo.1の存在。最近出たモデルのなかでいちばん気に入っています。セメント柄は意外とコーディネートを邪魔せず合わせやすい」
3.Nike Air Jordan 1 Mid SE “Elephant Toe”
好きなデザインなら、オリジナルハイカットにこだわりません 。こちらは黒ベースでつま先のみセメント柄なのが、いい味出してるんですよね」
4.Nike Air Jordan 1 Low “Travis Scott × Fragment”
「先日来日したラッパー、トラヴィス・スコットと藤原ヒロシさんの最強コラボ。抽選当選の賞状みたいな存在なので、もう履かなくてもいい(笑)」
5.Nike SB Air Jordan 1 Low “Desert Ore/Royal Blue”
「これはAJ1のスケーターモデルで、コーデュロイを破ると、下のカラーが出てくる仕組み。しかも左右ベースカラーが違う“バカ履き”を再現」
6.Nike Air Jordan 4 Retro “Fossil”
「AJ4も自分的No.1の双璧ですね 。ウィメンズの大きいサイズを奇跡的に抽選で入手。朝岡周くんのブランドシューレースで色合わせしました」
7.Nike Air Jordan 4 Retro “Canyon Purple”
「トラヴィスのAJ4がインパクトあったんで、紫のAJ4もいいなと購入しました。ファンの間では『エヴァ』モデルとして有名なカラーウェイ」
8.Nike Air Jordan 11 “Cool Grey”
「AJ11のオリジナルが出た時は衝撃でした。クールグレーもすごく品のあるカラーだと思います。エナメルなので、履く時には気を使います」
9.Nike Dunk Low Retro “North Carolina”
「知り合いの奥さんに特別にヴィンテージ加工してもらった一足です。このテイストの具合を演出できるなんて世の中にはすごい人がいるなと」
10.Nike Dunk Low SP “Syracuse”
「こちらは最初に復刻したモデルで、抽選に当たった時は大感激しました。僕にとってオレンジはコーネリアス小山田圭吾さん。大好きな色です」
(出典/「昭和50年男 2023年5月号 Vol.022」)
取材・文:石原洋道(CINQ) 撮影:鬼澤礼門
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