CDへの以降時期がアナログレコード収集のきっかけ
和モノ公式MIX CD『ヤバ歌謡』を手がけるなど、歌謡曲やアニソンなどのDJとして活躍中のDJフクタケ。「昭和50年男」連載「謎の円盤POP」を担当しているとおり、レコードのコレクターとしても知られる存在だ。 昭和49年生まれということは、10代の頃はちょうどアナログレコードからCDに移行していく時期だったと思うが、なぜアナログレコードの収集を行うようになったのだろうか。まずはそのきっかけから聞いてみた。
「まさしくCDに移行していた頃でした。中学生の頃はおこづかい制なのでCDをたくさん買うことはできなくて、レンタルショップを利用していました。ちょうど音楽への興味の幅が広がっていく時期でもあって、インディーズブームの後のバンドブームの流れで、ニューウェイブの影響を受けたバンドがデビューしてきた頃でもありました。
僕は富山出身なんですが、地方在住の学生もそういうものに興味をもつような状況ができていました。僕が住んでいた街は大学のある学生街で、学生向けのレンタルレコード店があって、レコードからCDに棚を入れ替えるためにアナログ盤を安く放出していたんです」
このようにレンタル店での棚の移し替えというのは、80年代後半によく見られたことだった。そういう時期だからこそ、コレクションを始めるのに、うってつけだったという。
「自分がニューウェイブやテクノポップあたりの音楽に興味をもち始めていて、そういったアーティストのLPが200円くらいで放出されていたんです。シングルレコードは50円くらいだったので、『これはレンタルするより安いじゃん!』って。家にレコードの再生環境もありましたので、いろんな音楽に触れたいという欲求を安く叶えられるということでアナログ盤に手を出したんです。これがきっかけでしたね。1、2年ずれていたらレンタル店もCDへの移行が終わっていたと思うので、自分にとってはすごくいいタイミングだったと思っています」
レコードとの出会いは一期一会
DJフクタケのコレクションのジャンルは幅が広い。どういう経緯で音楽のジャンルの興味が広がっていったのかも語ってもらった。
「最初はゲームミュージックとか、シンセサイザーを使った電子音を多用した音楽にすごく興味を引かれました。もともとゲームが好きだったというのもありますが、ゲームミュージックを通って、YMOとかを聴くようになっていきました。当時、ラジオで大槻ケンヂさん(筋肉少女帯)の『オールナイトニッポン』とか、ナゴムレコード系の方々がメディアで自分たちが影響を受けた音楽の話をされているのを聴いたりしたので、そこで得た情報をもとに掘っていって、『これ好きだな』っていうふうに自分の好きなアーティストやジャンルを広げていきました。
1枚アルバムを買ったら、そこに参加しているアーティストやミュージシャンの作品を聴いてみたり、探り探りの状態でしたけど、自分で発見したりするのがすごく楽しかったのを覚えています」
最初は“いろんな音楽に触れたい”という音楽自体に対する興味、好奇心から始まったアナログレコード収集だったが、集め始めてから、アナログならではの魅力にも気づいたという。
「A面とB面があって、それをひっくり返して聴くのは、手間がかかると言えばそうなんですけど、それ自体も儀式的な感じで楽しんです。それとジャケットCDと比べてジャケットのサイズが大きいですから、ジャケットのアートワークを愛でる喜びも大きかったりします」
またプロモーション用に制作されたアナログ盤もコレクションのなかに存在する。
「ピチカート・ファイヴのシングルとかがそうなんですが、アナログからCDへの移行時期はプロモーション用のサンプル盤はまだアナログで作られることも多かったようです。そのジャケットにはアーティストや楽曲のキャッチコピーなどが書かれていて、プロモーション目的だけに端的で特徴などがわかりやすかったりするんです」
アナログレコードの収集における楽しさと大変さは背中合わせだったりするようだ。
「プロモーション盤も含めてですが、CDと違ってどんどん追加生産されるわけではないので、レコードとの出会いは一期一会だと思っています。“その時お金がなかった”とか“なんとなく気乗りしなかったので買わなかった”とか、いろんな理由があって、また次に買えばいいやって思っていたら、それ以降全然出会わなかったりするんですよね。“あの時買っておけばよかった”って後悔して夢にまで出てきたこともあります(笑)」
レコードショップをめぐっていくうちに、経験値を積み、希少価値のあるレコード、数の少ないレコードというのがわかってきて買い逃しの回数はどんどん減っていったとも話してくれた。
「今はネットを使って探すこともできますし、海外から取り寄せることもしています。日本ではシングルになっていないものが、なぜか海外ではシングル化されているとか…海外でしか手に入らないものはネットを利用しています」
CDをメインに聴いてきたユーザーや今主流となっているサブスクや配信をメインに聴いている人たちにとって、針を落として聴くアナログレコードは繊細で、扱い方が難しいんじゃないかと思ってしまうが。
「傷つけてしまうと音が飛んだりしてしまいますし、修復が難しいのでそう思う方も多いと思います。儚さもレコードの魅力だと思いますが、すごく状態のいいものを求められるコレクターの方もいらっしゃいます。でも、僕はDJをやっているので、 そこまで繊細に扱っているわけではありません。キレイに保存されてる方から見たら、『ふざけんなよ! そんな扱いして』って思われるかもしれないんですけど(笑)、あの世に持っていくこともできませんから、DJとしては現場でレコードをかけることでいろんな人に曲のよさを知ってもらえたり、楽しさを感じてもらえたりするのであれば、多少傷んだとしてもやる意義があるのかなって思っています。
完品として残すことで継承されていくものもありますので、そういうコレクターの方を僕は尊重しますし、自分のようなタイプも必要だと思っています。それぞれコレクターとして背負っている役割が違うんじゃないかと思いますから」
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