故郷の福島県白河市に 自分たちが欲しかった店。
福島県白河市のロードサイドに30年以上続くバッティングセンターがある。そのすぐ隣。「カキン」と打撃音が聞こえる場に建つのが『カフェ・マンデー』だ。
やさしい暖色系のライトを灯らす店内、並んだパイプとビニールレザーのイス、おすすめメニューがオムライスやソーダフロート……と、隣に負けず劣らずレトロ調。なのに、この店はスタイリッシュさとフレッシュさも身に纏う。
なぜか?
つくった2人の存在が大きい。鈴木英生さんと相棒の鈴木拓央さん。小学校からの幼馴染の彼らは大学を出たばかりの24歳。彼らが去年に立ち上げた店なのだ。
「白河で生まれ育ち、ずっとこういう店が欲しかったんです。カッコいいけど入りやすく誰しも和める。真のファミリーレストランみたいな店を」(英生さん・以下同)
ドキュメンタリー番組が、 今に続くトリガーになる。
きっかけは7年前。高校生だった英生さんは偶然みたNHKの『プロフェッショナル〜仕事の流儀』に小さく背中を押された。
「旧い建物をリノベーションしてカフェなどにつくりかえる建築家を追った回で、街の賑わいにもつなげていた。素敵だなと感じた」 進路がおぼろげに定まった。『建築の仕事がしたい』『白河の町をもっとよくしたい』。 そう考え、空間デザインを学ぶため東京工科大に進学した。キャンパスは蒲田、3駅となりの新丸子駅で一人暮らしをはじめた。
買い物も食事も、カフェチェーンでのアルバイトも。のんびりした白河から出てきた18歳にはすべてが垢抜けて見え、刺激的だった。ただだからこそ、ふと疲れる瞬間もあった。そのせいか授業とバイトを終えたある夜の帰り道、新丸子の商店街で眩しいほどに輝く一軒の店に吸い込まれた。『ビッグベイビーアイスクリーム』。吉田康太郎さんがオーナーを務めるクラフトアイスの名店だった。
「ダイナーみたいな店で質の高いアイスを出す。しかもスタッフがフレンドリーなのが理想的で」
バイト帰り、理想の店に立ち寄るのがルーティンとした。「こういう店が地元にもあったらいいのに」「自分もこんな店をつくってみたい」。ピスタチオアイスとコーヒーを前に、カウンター越しの吉田さんに夜中まで話した。
ただルーティンは1年ちょっとで強制終了する。2020年、コロナ禍で大学の授業がリモート化したからだ。上京者の多くが実家に戻った。英生さんもその一人だった。だからって、じっとしているのはゴメンだった。
3つ上の兄と近所の元倉庫を借りて那須のアンティークショップや雑貨店、あるいは近隣の農家に声がけ。委託販売でそれらを売る「朝市」を主催したのだ。
「近隣の人がおもしろがって結構来てくれた。嬉しかったですね。『活気ある場を当事者としてつくりたい』思いがここで固まった」
そして1年が経ったころ、1本の電話が入る。「うちで働かないか?」。兼ねてから働きたいと憧れていた『ビッグベイビーアイスクリーム』の吉田さんだった。「自分の店をつくるノウハウを学べる!」。2つ返事でイエスと答えた。再び上京。今度はカウンターの向こう側に立ち、アイスを売り、常連客とのトークに花を咲かせた。
間もなく拓央さんもスタッフとして誘って同僚になる。上京後、友人たちと、都内のカフェ巡りをしていた仲間のひとりでもあった。「この店いいね」「雰囲気が好きだ」なんて評価をするセンスが不思議といつも一致したからだ。 「白河に店をつくるなら拓央くんとだなと。彼は料理も好きだったし、町への思いも強かったし」
2年間、『ビッグベイビー〜』で働いて、2人の思いはさらに強まった。機会をみては白河へ戻った。いい店舗物件が出ないか探すためだ。ただ気に入る物件は見つからない。考えてみたら資金もなかった。ところが幸運が訪れる。
バッティングセンターの横に 家族の新たな賑わいを。
『元ゲームセンターの物件がある。ココで店をやってみないか?』
地元で会社経営をする従兄弟が声をかけてきた。「白河で何かしたい」。そんな英生さんの思いを知り、バッティングセンター横の物件を購入、託してくれたのだ。
「ありがたい話でしたし、即座に決めました。元ゲーセンをリノベーションするのも何か良かった」
『ビッグベイビー〜』のようなおしゃれな店づくりは“らしくない”かな、と感じた。白河の町と距離が出すぎるのも避けたかった。
「そこで旧い喫茶店をイメージしました。白河や那須で僕が行った良い店って喫茶店だったから」
メニューも気取り過ぎず、バーガーやオムライスなどの馴染み深いものを推した。店名の『カフェ・マンデー』は学校や職場に憂鬱な顔して行きがちな月曜日のことだ。寄ってくれるだけで少し心が晴れる。そんな場にしたかった。
2023年7月。こうして『カフェ・マンデー』は誕生した。
「洒落た店ができたね」「グルメバーガーが美味しいらしい」。噂が広まり、老若男女がすぐに来てくれた。ただ最も嬉しいのは「ひとりで行っても落ち着く」「ムダ話にも付き合ってくれる」「あそこに行けば、カウンター越しにあの2人がいる」なんて評価だ。
「僕らが『ビッグベイビー〜』にぐっときた感覚。そういう場所にしたくてはじまっていますから。フランクに話しかけやすく、オープンな雰囲気を心がけています」
格好つけ過ぎず心地よさを意識して。今日も明日も月曜日も、2人はカウンターの向こうに立つ。それこそが2人の仕事の流儀だ。
どこか懐かしく、しっかり美味い、2人が生み出す極上ファミレス・メニュー。
ハンバーガーからオムライスまで、『CAFE monday』が提供するのは、老若男女が満足できる食事&ドリンクメニュー。あの名店やあのレストランからインスパイアされた絶品レシピも2人が再現している。普段使いに最高だけど、わざわざ出かける価値もありあり、なんです。
HOMEMADE BACON CHEESEBURGER
HONEY MUSTARD CHICKEN
ICECREAM PANCAKE
【DATA】
CAFE monday
福島県白河市明戸168
TEL080-2366-0729、11時~22時 水曜休
Instagram:@cafemonday_
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2024年10月号 Vol.366」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
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