ハマーが転生したらEV(電気自動車)だったって件、知ってた?

アメリカ車の中でも軍用で開発されたハマーは、戦地で必要なスペックを詰め込んで公道での使用を度外視した巨大なボディを持った異色のアメリカ車だった。もちろんそれを普段使いにしている人もアメリカではいるけれど、日本の道路事情にはまったく向かないクルマであったというのが逆に魅力でもあった。でもそんなハマーは今はGMCブランドからEVとして出てるって知ってた? 日本には正規輸入されていないけれど、アメリカでは新生ハマーが新車で買えるのだ。

10年の沈黙を経て蘇ったハマーは高い環境性能と1000馬力を得た。

新たに生まれ変わったハマーはブランドをGMCに移してEVとして転生した。リスタートはピックアップモデルがまずは販売された。インフィニティルーフと呼ばれるルーフパネルが取り外し可能でオープンになるのも特徴。ピックアップモデルは9万6550ドルから。Photo by General Motors

ハマーといえば湾岸戦争時などには、当時の映像で砂漠地帯を走る姿を見ることができた軍用車。もともとはアメリカのAMゼネラルというメーカーが軍用で開発したHMMWV(ハンヴィ、High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)というモデルで、その走破性の高さと軍用に特化したスパルタンなスタイルを普段使いで所有したいというコアなユーザーの要望が高まったことが知名度を高めたモデル。そんな声に呼応して民生版として販売されたのが1992年。その後、GM(ゼネラルモータース)がAMゼネラルから販売権を得て1999年からハマーH1として販売され、2006年に販売が終了したという歴史がある。

さらには派生モデルとして、同じくGMから乗用車ベースのH2(シボレータホがベース)やH3(シボレー・コロラドがベース)といったハマーの弟分モデルも生まれ、日本にも多くの個体が輸入されアメリカンSUV人気を支えていたけれど2010年にハマーブランド自体が消滅していた。

H2やH3は今でも中古車として、かつて日本も輸入されたモデルをわずかながら見かけることはあるモデルだけど、実は本国アメリカでは10年以上の沈黙を破りハマーの名前は復活しているのだ。

ハマーといえばワイルドで豪快なディーゼルエンジンを搭載したH1のイメージが今でも強く残っているけれど、2021年にGMの持つブランドのひとつであるGMCからEVとして生まれ変わって販売されている。

EVといってもフロントにひとつ、リアに2つ搭載するモーターによって1000馬力をたたき出すという力持ち。往年の悪路走破性はさらに高めた仕様になっている。

おもしろいのはSUVモデルにオプションで搭載できるクラブウォークという機能。クラブとは蟹のことで、ステアリングを回すと4輪が同じ方向を向いてほぼ平行移動を可能にするという4輪操舵システムである。

そんな刷新された新世代ハマーはアメリカで発売されたピックアップのエディション1の限定モデルは10分で売り切れたという注目度であった。

当初はピックアップボディのみの販売だったけど、2024年モデルからはSUVボディも登場する。現代のハマーは戦場に行かない環境第一のモデルへと転生し、GMCが言うところのスーパーピックアップとしての新たな歴史を歩み出した。

SUV仕様も2024年モデルから投入される。

車体後部のオープンベッドをクローズドにしたSUVモデルが2024年モデルから追加され、こりゃGMCも本気だぞと思わせるハマーの新ラインナップとなる。それまでは既存のSUVやピックアップトラックの派生モデル的なイメージが強かったけれど、ハマーとしての歴史をしっかりと継続させていこうという意志を感じる。環境問題にセンシティブなアクティブ層にはうってつけのモデルになりそう。もはやドロドロとV8エンジンの咆哮を轟かせるばかりがアメリカ車ではないのだ。往年のV8を積んだクラシックなアメリカ車は週末の楽しみに、ウイークデイはEVのハマーで軽やかに走るなんていうライフスタイルも可能になった。

2024年モデルに追加されたハマーEVのSUV。ピックアップトラックから先に販売されるのがアメリカらしい。スタイリングはどことなく先代のH2の進化版のようなデザイン。価格は9万7175ドルから。もはや1500万円の高級モデルである。Photo by General Motors
SUVモデルのサイドビュー。気になるサイズは全長5250x全幅2196x全高1976mm。アメリカンフルサイズカーの標準的なサイズ感。EVというとコンパクトな車格をイメージしがちだけど、そこはハマー、堂々たるプロポーション。日本ではもちろん大きな車格だけど、アメリカ車に乗り慣れている人であれば驚かない大きさ。Photo by General Motors
かつては丸目のジープを思わせるフロントマスクだったけど、新世代はHをイメージしたヘッドライトがデザインされてシャープな顔つきに。グリルにはトヨタやポルシェでもお馴染みの昨今の流行でもある車名のアルファベットロゴを配置。Photo by General Motors
リアゲートは横開きタイプってのがこれまたアメリカ車っぽくてよろしい。シートは2列の5人乗りで2列目のシートの後ろにあるラゲッジスペースも広大。Photo by General Motors
計器類はモニターによるデジタル表示になるインストルメンタルパネルだけでなく、中央にも巨大なモニターが標準装備。昨今のクルマは視界はモニターになるというのがお約束。近代的なクルマのコクピットである。Photo by General Motors
この記事を書いた人
ラーメン小池
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ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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