まずはVWトランスポーターの歴史を知る。
1950-1967 Transporter T1
フロントウインドーが二分割となるためスプリットウインドーやアーリーバスなどと呼ばれる。また窓の数で呼ばれることもあり、その場合、フロントウインドーを数えずに残りの枚数で呼称する。ちなみに写真はデラックスマイクロバスで、”21Window”となる
1968-1979 Transporter T2
’68年に初の大きなモデルチェンジを行い、フロントウインドーは湾曲した一枚になった。そのためベイウインドーとも呼ばれる。デザインはかなり変化したが、基本的なボディの大きさは変わらなかった。
1979-1992 Transporter T3
’79年のモデルチェンジでは、ボディがひとまわり大型化。エンジンは引き続きリアに水平対向4気筒を搭載していたが、’83年からはヘッドやシリンダーを水冷化。日本ではカラべル、北米ではバナゴンと呼ばれた。
1990-2003 Transporter T4
ついにT4モデルからはFFレイアウトとなり、よりモダンになった。前期モデルのみ日本に正規輸入されたが、その後日本での取り扱いはなくなってしまった。
2003-2015 Transporter T5
T4モデルの途中から生産がVW商用車部門に移管したことに伴い、日本やアメリカへの輸出が行われなくなった。そのため日本には並行輸入車のみが輸入されている。
2015- Transporter T6
15年のモデルチェンジで6代目となったトランスポーター。外装に関してはT5のデザインを継承しつつ、ドライブトレインは大幅にアップデートされた。
愛くるしいスタイルで世界中で愛されるタイプ2。
ワーゲンバスやタイプ2と呼ばれるVWトランスポーターは、VWの工場が’49年に連合国である英国統治下からドイツに返還された直後に登場する。’50年には一般に販売が開始され、それまで軍用車を除くとビートルと呼ばれたタイプ1のみだったVW社の新たなラインナップとなったのだ。以降、商業車としてはもちろん、小型のバスとして、さらにはレジャービークルとして、世界中で愛されることとなる。
ワーゲンバスはアメリカに多く輸出されていたため、ビートル同様、ドイツ車にもかかわらずアメリカ文化の象徴するクルマとして広く認知されている。特にアメリカでヒッピー文化が全盛期を迎える’60年台後半にT1モデルの最盛期を迎えるだけに、ヒッピーの象徴としても、しばし登場している。自由の象徴としてフロントのVWマークがピースサインになってるサイケデリックなペイントが施されたトランスポーターの資料映像などを目にしたことも多いはず。
もちろんアメリカだけでなく、多くの国に輸出された。ビートル同様アフリカからアジア、オセアニアに至るまで、トランスポーターが走っていない国を探す方が難しいと形容されるほど、世界中で愛されたのだ。
ひとりのディーラーマンのスケッチから誕生した。
そんなトランスポーター誕生には、ひとりのオランダ人が大きく関与している。当時オランダで自動車の輸入ディーラーを営んでいた、ベン・ポンという人物だ。戦後、英国占領下のVW工場を訪ね、ビートルの輸入を開始しようとしていたベンは、構内で荷物の輸送用にビートルを改造した運搬車を目にして、「こんな商用の車両がオランダにも必要だ」と考える。
当初はその構内車の輸入を試みるが、安全面の問題からそのまま輸入することは叶わなかった。そこで占領下の英国人将校に直談判し、商用車の必要性を説き、開発を依頼した。その時に手帳に描いた走り書きが現在のトランスポーターの原型となっているのだ。
すでにシンプルで性能が高いと評価されていたビートルのシャシーに荷物を積載しやすい四角いボディを搭載。さらに強度を増すために補強を施した専用シャシーとボディは溶接されるモノコック方式を採用。こうして荷物や人をたくさん運べるトランスポーターは、戦後復興で物資輸送の需要が大きく増加していたドイツで大いにヒットしたのだ。
ボディバリエーションは貨物用のパネルバンと常用のマイクロバスに加えて、貨客両用のコンビ、荷台を持つピックアップ、さらにキャンピングカーや救急車、ハシゴ車といった特装車両など非常に多く、人気のワンボックスカーとしてだけでなく、働くクルマとしてドイツ各地で活躍したのだ。
モデルチェンジを繰り返し今なお活躍中。
50年に登場すると瞬く間に大ヒットとなったトランスポーターは、すぐさま世界中に輸出されることとなる。写真はファクトリーから次々出荷されていく風景。 photo courtesy of VOLKSWAGEN AGトランスポーターは’50年の登場以来、細かなモデルチェンジを繰り返し、時代にマッチした進化を遂げてきた。基本的なリアエンジン、リア駆動という機構を変えることなく、外観に大きく関わるフルモデルチェンジを、’68年と’79年に行っている。最初のモデルをT1、’68年以降のモデルをT2、’79年以降のモデルをT3と呼び区別されている。
その後’90年のT4モデル登場によってそれまでの伝統だったRRレイアウトは廃止され、サイズも大きくなった。ちなみに現在販売されているトランスポーターは、T6と呼ばれる6代目モデルで、乗用車部門ではなく、商用車を販
売しているVWN(Volkswagen Nutzfahrzeuge)から発売されている。
日本やアメリカでは正規販売されていないため、日本ではなじみが薄いかもしれないが、ヨーロッパではフリーウェイを走っていると数分に1台は見かけるほどのヨーロッパを代表するコマーシャルビークルとして活躍している。
専門店に聞いたTYPE-2の魅力とは?
藤沢市の国道一号線沿いにショップを構える「フラワーオート」。毎年春に大磯ロングビーチで行われるFLASH BUGS MEETINGを主催していることでも有名な同ショップは、’81年創業の老舗だ。空冷VW専門店として、ビートルとともにアーリーモデルから、T3バナゴンまで幅広いタイプ2を取り扱っている。
代表の齊(さい)さんは、近年のアーリーバスの高騰ぶりをこう語る。「過去10年で価格はかなり上がりましたね。現存台数に限りがあるのに世界的な人気が続いているから、当然品薄になります。だから今後も価格はどんどん上昇すると思います。ここ数年はいい状態の車両を探すのもかなり大変で、タイプ2を探してきても、店頭に並ぶ前に売れちゃうことが多いですね」
ちなみに同じタイプ2でも窓の多いデラックスマイクロバスが最もポピュラーとなるなど、モデルによって価格差があるそう。またアーリーバスは、新車時から最低でも50年が経過している。当然ボディの状態は一台一台異なるので、できる限り過去の素性がわかっているクルマを選んだ方が良いと齊さんは語る。
今でも各部のパーツは入手可能なので、ベースの状態が良ければ、ボディはもちろん、内装、エンジン、足まわりまで修理は可能なのだ。
【DATA】
FLOWER AUTO
神奈川県藤沢市大鋸1240-1
TEL0466-81-5550
営業/10:00 〜20:00
休み/なし
http://www.flowerauto.com
これだけは知っておきたい、TYPE-2バリエーション。
デラックス マイクロバス
リアのカーゴ部分まで側面は全て窓が装着されるほか、ルーフに天窓が備わるデラックスマイクロバス。ツートンカラーのボディの塗り分けラインにアルミ製のモールディングが備わるのが大きな特徴。
コンビ
マイクロバスと同じ窓数ながら、カーゴスペースのシートが容易に脱着でき、荷物も詰める貨客両用車のコンビ。内装はマイクロバスより簡素で、ボディカラーもワントーンが標準となる。
マイクロバス
側面の窓のうち、一番後ろのカーゴスペースの窓やデラックスには備わっていた天窓やスライディングルーフ、アルミ製モールが備わらないのが大きな特徴。ボディカラーはツートンが標準となる。
パネルバン
カーゴスペースに窓が備わらないパネルバン。基本的には荷物を運ぶため、リアシートは備わらない。ボディカラーはワントーンで、カーゴスペースは鉄板剥き出しで内装も備わらない。
キャンプモビール
コンビをベースにWESTFALIA(ウェストファリア)社が架装を行ったVW社純正のキャンピングカー。コンビ同様ワントーンで内装も簡素だが、カーゴルームはWESTFALIA独自の内装となる。
シングルピックアップ
キャビン部分を残してカーゴルームが全て荷台となっているシングルピックアップ。のちにセカンドシートが備わり、その後ろが荷台となるクルーキャブと呼ばれるダブルピックアップが追加された。
▼バンについて詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック!
仕事の相棒として活躍する’58 年式タイプ2。
ルーフラックに旧い木材を積んでバイアスタイヤのまま走り回るカサカサボディのタイプ2。まるで過去からタイムスリップしてきたような旧いクルマで日々東奔西走しているのは、「BulliYard(ブリヤード)」のりゅうじろうさん。仕事現場への移動や資材の運搬に’58年式のタイプ2を愛用している。
ブリヤードでは、リクレイムドウッドと呼ばれる旧いアメリカの納屋などに使われていた100年以上前の古材を使用して、内装の施工や家具制作などを行っている。当然表面は傷ついたり割れたりしているが、そんな素材を使った彼の作品は、まさに一点もの。新しく作られたにも関わらず、時代を感じさせる風合いが宿るためファンも多い。
りゅうじろうさんは、作業場で作業をすることもあるが、実際に現場に赴いて施工することも多く、完成した家具や長い木材を現場に運ぶこともしばしば。そのためルーフラックはフルレングスと呼ばれるタイプ2の広い屋根全体にかかる巨大なものを装着している。
「もちろん現代のクルマと比べたら、大変なことはたくさんありますよ。でもこれで現場に行くと確実に覚えてくれるし、クルマの評判もいいんです。いい意味でこのクルマが看板になってくれているので、多少お金かけて修理しても、もう一台所有するよりも全然メリットはあります。それに自分の好きなクルマに毎日乗れるんだから、楽しいじゃないですか」
彼が扱うリクレイムドウッドと毎日活躍するタイプ2。どちらも旧いものを大事にし飾るだけでなくしっかりと活用している点で共通している。それゆえ仕事のイメージとオーバーラップすることで、広告効果も大きいようだ。
そんな話の終盤「最近もう一台クルマを買ったんです」というりゅうじろうさん。ようやく使い勝手の良い現代車を購入か? と思いきや、なんと同じ年式のタイプ2ピックアップを増車したのだという。早くも荷台にどうやって木材を載せるかを考える日々も楽しいのだとか。
1958 VW Kombi
58年式コンビをベースにアメリカでカリフォルニアロードランナーキャンパーの内装を架装した個体。カサカサなボディは、たまにサンドペーパーでサビ落としが必要なんだとか。
このタイプ2のオーナーであるしゅうじろうさんは、リクレイムドウッドを使用した家具の制作や店舗内装のプロデュース、ディスプレイなどを行なっている。また一点モノの細かなアートピースや、写真や絵画に合わせてオーダーできるアートフレームなどの制作も得意としているので、ぜひチェックしてみてほしい。
【問い合わせ】
Bulli Yard
埼玉県越谷市大成町7-98
instagram @bulliyard
気になるTYPE-2 の市場相場と販売情報。
1967 TYPE-2 Deluxe Microbus ¥2,890,000
赤と白のツートンカラーが眩しいマイクロバスは、ガソリン燃焼式ヒーターを装着し、真冬でも快適。エンジンは1500㏄。(Loire Motors http://www.loire-motors.com)
1967 VW TYPE-2 Kombi ¥3,480,000
若干車高を下げたグレーのコンビは、3列シートの9人乗り。1641㏄にボアアップしたエンジンを搭載し、さらにガソリン燃焼式ヒーター装着。(Flower Auto http://www.flowerauto.com)
1959 TYPE-2 Panelvan ¥3,780,000
BOGARTアルミホイールを装着し、適度にロワードしたボディに、ステンレス製のルーフキャリアを装着したパネルバン。エンジンは1600㏄。(Loire Motors http://www.loire-motors.com)
1967 VW TYPE-2 Westfalia Camper ¥4,380,000
ルーフの一部がポップアップするWESTFALIA製のSO42キャンパー。エンジンは1600㏄に換装済みで、内装も非
常にキレイに仕上げている。(Flower Auto http://www.flowerauto.com)
1967 VW TYPE-2 Microbus ¥4,580,000
ニューペイント、ニューインテリアで仕上げられた’67年のマイクロバス。ラバー類も新品になっているので、まるで新車同様だ。(Toa Inrternational http://www.toajp.com)
1965 VW TYPE-2 Deluxe Microbus ¥5,180,000
天窓とスライディングルーフがないデラックスマイクロバス。この車両もフルレストアを受け、新たにペイントされ、インテリアも一新している。(Toa Inrternational http://www.toajp.com)
1963 VW TYPE-2 Kombi ¥4,680,000
ダブルバンパーを装着した北米仕様のコンビをベースに、新たにペイントが施され、内装も張り替え済みのフルレストア車両。(Toa Inrternational http://www.toajp.com)
1958 VW TYPE-2 Microbus ¥7,980,000
数年前に内外装ともにオリジナルに忠実にレストアされたマイクロバス。9人乗りの北米仕様で、サファリウインドーも備わる1 台。(Garage Vintage http://www.garage-vintage.com/)
1964 VW TYPE-2 Deluxe Microbus ¥2,780.000
適度にエイジングした外装はそのままに、内装のみリフレッシュしたデラックスマイクロバス。3列シートの9人乗りで、クーラーを装着した快適仕様。(Garage Vintage http://www.garage-vintage.com/)
※すべて取材時の情報です。現在取り扱いがない場合があります。
ワーゲンバス? タイプ2? 世界で異なるニックネーム。
VW社ではデビュー当初から「Transporter(トランスポルター)」と呼んでいたが、これは「貨物輸送車」の意味で使われた一般名詞で車両の名称ではなかったようだ。また当時から社内ではブルドッグを意味する「Bulli(ブリ)」と呼ばれたが、こちらもあくまでニックネーム。
ちなみに「TYPE-2(タイプ2)」も、型式が「2」からはじまることに由来しているが、これも正式な名称ではない。他にも北米では「BUS(バス)」、南米では「Kombi(コンビ)」など、さまざまな呼び方があるが、どれも正解であり、不正解。VW社が正式な名称をつけなかったために、逆にお国柄が現れた親しみやすいニックネームがつけられる結果となったのだ。
▼バンについて詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック!
(出典/「Lightning 2018年4月号 Vol.288」)
Text&Photo/D.Katsumura 勝村大輔 illustration/Marvin S.Hiroyuki
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