ファッションに精通した「グラウンド・デポ」成山明宏さんは、趣味の釣りをきっかけに魚柄アイテムに心惹かれたという。一様に鮮やかで美しいデザインが目を引くが魚柄だがそのテイストはさまざま。スローガンからスラングまで表現力に富んだ多彩なメッセージが詰め込まれている。
僕にとって“バンドシャツ”みたいなモノです。
いま、大阪のキャンパーがこぞって来訪する店がある。1Fは大阪を代表する老舗セレクトショップ「グラウンド・デポ(大阪・南堀江にあるライフスタイルセレクトショップ)」であり、国内外からセレクトされた感度の高いファッションウエアが揃う。その2階に昨年春オープンし、いまや西のアウトドアシーンには欠かせない存在となっているのが「グラウンド・デポ201」だ。
フロントマンである成山さんは大手セレクトショップのバイヤーまで務めた人物。ファッション畑のエリートコースを歩んできており、モノに対するこだわりも並外れている。そんな成山さんの趣味は釣り。もっぱらバスか渓流で、休日にはルアーフィッシングやフライフィッシングのタックルを携え釣りに興じる。そんなライフスタイルを彩るアイテムが「魚柄」のアイテムだという。
フィッシングウエアといえば、機能性に富んだジャケットや個性的なスタイルでいまやファッションシーンでも人気を博すベストといった蘊蓄たっぷりな花形アイテムが数多くある。しかし、そこではなくあえてバスやトラウトがプリント、刺繍されたアナログなアイテムを選ぶところに、返って強い偏愛っぷりが感じられる。その点に対する成山さんの答えは明確だ。
魚柄といってもこれが結構奥深いんです。
「音楽のライブに行くとき、Tシャツやパーカなど、そのアーティストグッズを身につけて気分を高めるじゃないですか? それと同じです。僕にとってバンドTシャツみたいなものなんです。例えば1.スウェットシャツは1938年にバージニア州で創業した老舗TULTEX社のボディを使っています。そういう“有りものボディ”(プリントTシャツなどギのベースとなるボディ。ブランド名で呼ばれることが多くアンヴィルやギルダンなどが筆頭)を使っているところなんかもすごくバンドTっぽいでしょ?」とのこと。
コレクションは40点近くにものぼるそうで、主に町田のバックストリートやドアマンストア(アウトドア系のアイテムを扱うオンライン限定のヴィンテージショップ)で購入しているというが、フィッシングモチーフだからといって闇雲に買うワケではない。
「メッセージ性があったり、ビジュアル的に優れていたりするものを好んで買っています。例えば2.イラストTシャツはフィッシングをテーマにしたアーティストEN.Evansのイラストで、ブラックジョークというか風刺的な絵柄が特徴です。
一方で3.エル・エル・ビーンのTシャツは完全にブランドとハーバーサイドグラフィックス(エル・エル・ビーンをはじめとする一部のアウトドアブランドにグラフィックを提供していたデザイン会社。90年代後半に消滅)のプリントが素晴らしく購入。いまやコレクターズアイテムになっています。
でもってメッセージ性とデザイン性の双方を兼備するのが4.ヌードフライフィッシングTシャツ。その筋では有名なレイトロール(アメリカの海洋学者兼アーティスト。生物をテーマにしたメッセージ性のあるアートを特徴とする)の作品で、全裸フィッシングの危険性を説いた絵柄がプリントされています(笑)。あとは純粋にデザインが良くて買ってしまうものも結構あって、いわば『ジャケ買い』ですね。5.オールドタックルのプリントTシャツや6.キャップがそうです」
基本的にはデザイン性、メッセージ性の高いものを選んでいるというなか7.キャップは少し異色だ。
「これはアラスカのアウトドアベースとなる宿泊施設のスーべニアです。一度ツアーを調べたのですが、6日間で100万くらいかかりますね。なのでこのキャップをかぶって釣りをするとき、気持ちだけはアラスカにいます(笑)」
またプリントではなく刺繍モノだと「DUMBASS=マヌケ」という意味のスラングが効いた8.キャップと「世界一の釣り人」と刺繍された9.スウェットが目立つ。
「自分の釣りのレベルを揶揄するものって結構多くて、自画自賛する調子乗り系や反対に実力を卑下するものなど、独特な雰囲気を持っています。あとは 10.エル・エル・ビーンのコットンセーターもトラウトとフライタックルが胸にワンポイントで刺繍されていて純粋にお洒落。振り幅がスゴいですよね」
魚柄という切り口で古着にフォーカスすると、それに関連するものも含め実に多様なデザインがあり、しかもそのいずれにも意味やメッセージが含まれているなど、なんとも奥が深い。しかし最後に、これらのアイテムには実は大きな共通点があると成山さんは教えてくれた。
「ここにあるアイテムのほぼすべてが90年代以降のアイテムなんです。それ以前はシンプルなものがほとんどで。おそらくエンターテイメント性を伴ったフィッシングスタイルの成熟や環境意識の高まりが要因だと思いますが、11.と12.のプリントTのような目を見張るような色使いや、“ヘタクソ!”といった意味の絵柄をドラスティックに描くことで環境への警鐘も鳴らす13.レイトロールTシャツなどは象徴的ですね」
(出典/「2nd 2023年3月号 Vol.192」)
Photo/Satoshi Ohmura, Nanako Hidaka, Akane Matsumoto Text/Okamoto 546, Shinsuke Isomura
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