歴史に裏打ちされた最古にして最高のシャツ。
シャツのビスポークを請け負う専門店は多い。しかし大和屋シャツ店でビスポークすることに特別な意味を見出す服好きは後を絶たない。理由は同店の深く、長い歴史にある。
時は1873年。異文化の坩堝となっていた横浜で、ある青年が西洋人から白いシャツを譲り受けた。その際“white shirts”を“ワイシャツ”と聞き違えたことで、日本に“ワイシャツ”という言葉が浸透することとなった。その青年こそが同店を創業した二代目石川清右衛門(下写真)。
彼は入手した複数枚のシャツを解体しては縫い直し、また解体しては縫い直しという作業を繰り返して構造を分析。ワイシャツを自作することに成功し、1876年に関内の弁天通りで日本初のオーダーワイシャツ店「大和屋ワイシャツ店」を開業するに至った。
やがて海外にも進出し、数々の世界博覧会で一流の技術と称賛され、小泉八雲や第32代米国大統領フランクリン・ルーズベルトなど、錚々たる偉人たちが顧客として名を連ねた。しかし第二次世界大戦によって状況は一変。店舗も工場も焼失してしまったが、時間をかけて再興し、銀座に場所を移して現在に至る。
このあまりに長い歴史を経ても「物作りの精神は変わらない」と、六代目店主の石川さんは力を込める。好みや用途を細やかにヒヤリングし、正確に採寸する。生地も部材も豊富に揃え、裁断や縫製を担う職人とも密に連携する。あらゆる要望に応える土壌を完璧に整えているのだ。最古の店で仕立てるシャツには歴史に裏打ちされた格も宿る。
伝統の採寸術と信頼する職人たちとの連携で“大和屋のオーダーワイシャツ”を仕立てる。
同店にはかつて大正天皇からオーダーを請け負った際、職人が採寸に伺ったものの、直接採寸することは許されず、3メートルほど離れた位置から目分量で測定した、という逸話が残る。そして現在の同店には、その逸話に匹敵するほど卓越した採寸術を駆使する、35年以上のキャリアを誇るスタッフが複数在籍している。
さらに顧客のイメージを掻き立てる助力になるよう、常時数百種類以上の生地を反で陳列。衿やカフスの型も豊富な選択肢が用意されているほか、存在感と耐久性を考慮して作られた、3.5mm厚の白蝶貝ボタンをオリジナルで製作するなど、副資材にもこだわり抜いている。
オーダー後の作業を担う裁断・縫製職人たちとも密な関係を構築。1インチに24針の糸を落とし、本縫いで仕立てられたシャツは、息を飲む美しさがある。「大和屋紳士録」に名を連ねる顧客が後を絶たない理由は、無二の歴史と精緻な仕立ての双方にあるのだ。
屋号の由来は不明。だがロゴには翼が生えた鐘と日の出が描かれていることから、“日出る大和の国”という意味を込めたのではないかと推察される。このロゴが備えられるのも服好きには堪らないはずだ。仕様や受注状況もによって異なるが、納期は約1か月半。3万3000円~。
【DATA】
大和屋シャツ 銀座本店
東京都中央区銀座6-7-8
TEL03-3571-3482
営業/11:00~19:30(日曜・祝祭日は~18:30)
休み/不定休
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「2nd 2023年2月号 Vol.191」)
Photo/Koki Marueki(BOIL) Text/Masato Kurosawa
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