なお、ライターとしてでなく、メディア編集者として見ると、Vision Proの記事は思ったほどPVが伸びない。多くの人は『自分には高価すぎる』『VRはnot for meだ』と今のところ考えているのだろう。AUGMのようなアップルファンの多い場所でも『買う予定の人』と聞いてもあまり手は挙がらない(たぶん1〜2割)。普及に時間はかかるかもしれないが、しばらくは『特別な体験』でいられそうだ。
笑顔がその体験を物語る
奇しくもMacが発売されてから、ちょうどほぼ40年。iPhone登場から17年。iPadから14年。Apple Watchから9年。
新しいデバイスが発売されるたびに「これは何に使うんだ?」「普及するのか?」論はあるが、おそらくある程度は普及すると思う。『何に?』『どのくらい?』というのには議論の余地があるとは思うが。
USでVision Proを初体験した人は、一様に途方もなくうれしそうだし、「これまでにない体験!」だと言っている。
米国内では東海岸から順に発売になったので、ティム・クックは、ニューヨークのApple 5th Avenueに行って、その発売を祝った模様。
Seeing people’s reactions to trying Apple Vision Pro for the first time today was wonderful. Some people had tears in their eyes! Our mission is to enrich people’s lives, and I could feel that happening in real time. What a day! pic.twitter.com/VOOVBgrEbo
— Tim Cook (@tim_cook) February 3, 2024
この、ティム・クックが重要なポイントに現れて一般ユーザーと交歓するのも定番の行事になった。私も何ヶ所かでお会いしたことがある(もちろん、体格のいいセキュリティの人も近くにいます)。
第一陣として購入に行った人はもう手にしているのだけど、あまり情報が上がって来ないのは、体験取材に忙しいのか、語意を失っているのか? 筆者が初体験した時には、写真NGだったので言葉だけで伝えるのに大変苦労したが、写真がOKになったところで、Vision Proの体験は体験した当人だけのものなので、記事や動画で伝えるのは難しい。みなさん当分苦労することだろう。
(昨年6月にVision Proを初体験した時の、動画レポート)
「Oculus Quest 3やXREALと比べてどうなの?」という質問は受けるが、まったく違うものなので、比較することにあまり意味はない。一種のVRゴーグルとして理解しようとしている人は、残念ながら理解が違う方向に行ってしまう。値段も違うし。
筆者のVision Proは今週の木曜日にUSで受け取ってもらうので、到着は再来週になる予定。待ち遠しい。
おそらく最初の体験は、まさにこのとおり
アップルが『First-Timer』という動画を公開している。これはVision Proの様子をよく伝えている。
スクリーンを、自分の目の前の空間に浮かべて、思い通りのところに、思い通りのサイズで表示できる。
これまで、他のAR系のディスプレイで『200インチ級のディスプレイ』と言われてもそうは見えなかったのは、解像度の問題もあるし、現実空間とのリンクがしっかりできていなかったこともあるだろう。Vision Proの場合、ご覧のように現実空間がちゃんと見えているので、サイズ感がしっかり感じられるのだ。
ソファーに寝転がって、上の方にディスプレイを表示して映画を見るのは安楽だろうなぁ……。
この映像で、キッチンに女性がいるのも重要なポイントだ。Vision Proは現実世界を見ながらそこにコンピュータの情報を浮かべようとしているプロダクトだ。主役の彼が映画を見ていても、視界の端には家族が見える。これがアップルにとって重要なことなのだと思う。
筆者も家族がいるので、VRで完全にコミュニケーションを遮断してしまうのが怖い(VR Chatとかしていると30分経ったのか、3時間経ったのか分からなくなることがある)。
40年を経たアップルの『夢』
初代Macintoshの時代から、アップルはユーザーに『ディスプレイだけを見せたい』と願い、『入力機器はできるだけ少なく』することを目指してきた。
Vision Proの『仮想的にそれを実現する』という方向性は正しいのかどうか分からないが、MRのように現実の視界に付加的に情報を表示する(たとえば、HUDや、エプソンのMOVERIO、Google Glassのような)方法には限界があると感じたのだろう。たしかに、2017年(7年前!)のWWDCの頃から、現実空間の映像の上に映像を重ねるデモをしきりに行うようになった。
おそらく、その頃にはもう、アップルはVision Proの開発を着々と進めていたのだろう。実際に装着してみると分かるが、この技術は並大抵ではないのだ。
空間コンピューティングの活用方法とは?
アップルは、ARともVRとも言わず『空間コンピューティング(Spatial computing)』と言ってる。
初代Macintosh登場以来、ずっとディスプレイだけをユーザーに見せたい……と願ってきたアップルが空間それ自体を表示領域として、7年以上の期間をかけて開発したデバイスは、いったい何に使えるのだろう。
まず、単純にスクリーンとして、自由なサイズのディスプレイを空間に表示できるコンピュータとして便利。
映像や、写真を見るのに最高のデバイスであることも言うまでもないだろう。
実際に『空間』連動として有用なのは、ここに出てくるような鍋ごとに別のタイマーを設置する……っていうようなシチュエーションがいい例。
たとえば、アイデア出しをする時に、実際に机の上の空間に付箋を貼って回ったり、立体的なマインドマップを作ったり……というような使い方も出てくるだろう。
あと、こういう使い方も出てくると思う。
Spatial Vacuuming – Never miss a spot again [shitpost]
byu/VirtualTelephone2579 inVisionPro
あとは実際にもう、Holoeyesの杉本先生がやってらっしゃるように、医療において実際に立体構造で身体の中を見るとか(たとえば、これを見ながら手術ができる。肝臓の裏の血管などはひとそれぞれだから、実際の3Dデータを見ながら手術をすると、血管を傷つけずに済むのだそうだ)。
Apple Vision Pro for Medicine.
Holoeyes releases “Holoeyes Body,” a spatial human anatomy app available on Apple Vision Pro. #AVP #Holoeyes
Using #AppleVisionPro‘s spatial computing technology, 3D organs from CT images used in clinical practice appear in front of your eyes,… pic.twitter.com/uG33tucebd— 杉本真樹 Maki Sugimoto MD PhD ProfⓂ️ (@MakiSugimotoMD) February 2, 2024
もちろん、デスクの上に実際の地図や建築物を再現して、都市計画や建築プランを立てるようなこともできると思う。
しかしながら、こればっかりは実際に手にして、使ってみないといろいろ実際的な活用方法は出てこないことだろう。
すでに、テスラの自動運転中にVision Proを装着して逮捕された人がいるとか、落として外側のガラス割った人がいるとか、戸外の横断歩道を歩いて渡ってる人がいるとか、お騒がせな人のtweetも挙がっているが、アテンション目当ての残念な人がいるものだなぁとはあ思う。パススルーの映像だから、デバイスがフリーズしたら急に何も見えなくなる。クルマの運転はもちろん、屋外のクルマが通る場所などを装着して歩く……というような行動も避けたい。
40分間装着したままのライブがそのまま答え
いつも、アップルのUS取材でご一緒する石川温さんや、西田宗千佳さんは、もうハワイで手に入れて、動画配信でレポートされていたりする。
何をおっしゃっているかは、動画を見ていただければ……なのだが、おふたりが、こうやって40分間普通に装着したまま話せているということが多くを語ってると思う。
装着したままなら、セリフのカンペを見たり、ブラウザで調べモノをしたり、配信しているYou Tubeライブのコメント欄を見たりできるというワケだ。
このふたりが、配信の間、ずっと被っている……というところにこそ、Vision Proの見せてくれる未来の世界があると思うのだ。
というわけで、筆者はまだ10日ほど待たねばならない。出遅れた感著しいので、こんな原稿を(まだ旧来の物理ディスプレイを見ながら)書いているわけだが、ひたすら到着が待ち遠しい。
(村上タクタ)
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