筆者は、NCCをはじめ、いろいろイベントのレポート記事などを書いてはいるが、全体的には『理解は出来ていない』というのが正直なところ。理解は出来ていないけれど、冷笑的のも違うと思う。
でも、まずは『分からない』っていうのが、正直なところだと思うのだ。まずは現時点では正直ベースで『分からない』っていうところから入るのが大事かな、と思うのだ。
「NFTは胡散くさい」と、言い切るフェイズはそろそろ終わり
今回、New Context Conference 2022 Fall(以下、NCC2022Fall)で伊藤穣一さんが語られたことの中にも、「(自分たちも含めて)先鋭的な人たちが過度に盛り上がり過ぎ、煽り過ぎたがために「NFTは胡散くさい」「お金もうけの手段でしょ?」っていう風に見られてしまっている部分がある。あらためてその価値を見直して、リブランディングが必要だ」というような意味の発言があった。
NFTで書いた絵が何十億円になったとか、ビットコインが値上がりしたとか(暴落したとか)、他人のお金設けの話を聞かされても、そこに我々庶民の幸せがあるような気はしない。
DAOにしても、普通の組織でもなんでも『これからはDAOです』なんていうことになったが、ために『DAO(笑)』なんていう話になってしまう。
いわゆるガートナーのハイプサイクルにおいても、web3関連は『過度な期待のピーク期』に分類されているのだそうだ。そして、この後に来るのは『幻滅期』だ。
テクノロジーへの期待値というのは、いつも黎明期から、期待のバブルがやってきて、それが暴落してから本当の普及がやってくる。だから、今のうちにweb3関連のテクノロジーを(バブルの色眼鏡を外して)理解しておくのは大切なことだと思う。
『web3なんて意味が分からない』と投げ出しちゃいけないし、『DAO(笑)』なんていう風に冷笑的になっちゃいけないし、『NFTなんてバブリーな金設けの話』と切り捨てちゃいけない。今はそういうフェイズかもしれないが、実際的に役に立つ技術に発展する部分もたくさんあると思う。
とりあえず、分かりやすく解説
というわけで、web3関連の用語について、筆者の分かる範囲で、一般の方に分かるように解説しておこう。
まず、一番根幹をなしているのが、『ブロックチェーン』という技術だ。これは過去の取引履歴が鎖のように繋がって暗号化され改竄できないようになっているもので、これをネットワーク上に分散管理することで、非中央集権的な情報管理が可能な仕組み。
これがいわゆる暗号通貨(クリプトカレンシー)であるビットコインやイーサリアムを支える技術ということ。そしてこの技術を使う非中央集権的金融のことをDeFiと言う。
このブロックチェーン技術をデータの真贋性の保証に使ったのが『NFT』(Non-Fungible Token=代替不可能トークン)だ。これはビットコインのような経済活動に使う通貨のような存在ではなく、あるデータの代替不可能性を保証するために使われる。つまり、絵画に施されたサインのような存在だ。
また、同じくブロックチェーン技術で運用されるガバナンストークンの有無によって運営される、非中央集権的組織がDAO。
そして、これらのブロックチェーンを根幹技術として、生み出される非中央集権的なインターネットの世界をweb3と言う。
web3=インターネット、3度目の夢
Web 1.0の世界は、数少ない人が情報発信(主にテキストで)していた世界で読む(Read)世界。黎明期には、やはりこれで世の中が自由で、平等になると多くの人が夢見ていた世界だった。そして、実際インターネットは多くの自由を我々にもたらしたが、実際に自由で平等が実現したかといえば、かならずしもそうではなかった。
Web 2.0の世界は、我々が情報発信できる(Write)ようになった世界。Twitterが生れ、Facebookが生れ、YouTubeが生れ、我々誰もが情報発信できるようになったインターネット。これで真の自由と平等がやってくるかと思ったら、まったく逆で、Facebookや、Googleが我々の個人情報をガッチリ押さえてマーケティングデータとして膨大な収益を上げる、テックジャイアントだけが豊かになる世界がやってきた。ある意味、国家以上に強大な支配者を産んでしまったともいえる。
そこで、『非中央集権的なweb3』の世界を我々は夢見るわけだ。
しかし、ここまでの歴史を見ても分かるように、何度も夢は打ち破られてきた。
会場で、GoogleからNianticに転職し、今はNIanticを離れてサバティカルな1年を過ごされている山崎富美さんにお会いしたのだが、彼女は以前たまたまインターネットを作り上げた十数人の人たちと出会うことがあったそうなのだが、そこで彼らは「あの時にもっとこうしていれば、もっとインターネットを良く出来たのに!」と悔やんで議論をしていたのだそうだ。
おそらく、TwitterやGoogleを作った人たちだって、そう思っているに違いない。もはやタイムマシンに乗って『より良いWeb 1.0や2.0』を作ることはできない。しかし、少なくとも現時点で我々は『より良いweb3』を作るために努力することはできると思うのだ。
『より良いweb3』とは?
というところで、前提の話がとても長くなってしまったが、今回のNew Context Conference 2022 Fallで話されたのは、この『より良いweb3』のための議論だったように思う。
伊藤穣一さんが今回の基調講演で語った話もそう。NCC2002Fallのロゴデザインは、『紫色のサイバーパンクで尖ったデザイン』ではなく、『秩序立った、規則正しい、変化に富んで、発展性のあるデザイン』を意識したという。デザインの力はすごい。デジタルガレージさんの意図の伝わるデザインだと思う。
web3が切り開く未来には、こんな可能性がある
たとえば今回登壇された、原麻由美さんが取り組んだのは、『国宝を扱うような伝統工芸職人の収入が極端に少なく、持続不可能になってる』という課題。
しかし、世界には、日本の伝統工芸や文化財に興味がある人がたくさんいる。そういう人の力を集める『Temples DAO』というコミュニティを作り、伝統工芸職人の方にサポートが集まるようにする。
Temples DAO
https://temples.clubs.stakes.social/
特典として、お寺の特別なイベントへの招待や、NFTのプライベートオークションへの参加、職人による工芸品の購入権などが得られる。これまで、寺社の文化財の修復しか職が無く、収入が乏しかった職人の方が、海外からのオーダーに応えて作品を作るなど、新しい展開も生まれているという。
Pplpleasr(本名Emily Yang)さんは、web3領域で活動しているアーティスト。
Pplpleasrさんは従来とは違ったカタチで映画制作の資金調達を可能とする映画配給プラットフォーム『Shibuya』をローンチ。Shibuyaは資金調達にNFTを使う。
たとえば、現在制作中の『White Rabbit(白うさぎ)』では、『プロデューサー』ランクのNFTを購入した人は、ストーリーの分岐点で投票し、ストーリーに影響を与えることができるようになる。また、『White Rabbit』の制作に出資した、関わったという仮想通貨を得ることができ、将来『White Rabbit』が得た収益の分配を受けられるようになる。
— Shibuya (@shibuyaxyz) February 18, 2022
Web 2.0が産んだのはアテンションエコノミー。ただ、それだけでは対価を得るには過剰なまでに注目を集めなければならない。そのために、過激なことをするYouTuberやInstagramerが生まれ、炎上マーケティング的手法が生まれた。Pplpleasrさんが、『Shibuya』で行っているのは、新しいカタチの資金調達。優れたクリエイティブにお金が集まり、出資した人たちは、作品が成功すれば対価を得ることができる。
AIとDAOのシナジーが作る、より良いコミュニティ
Kim Poleseさんが語ったのは、AIとDAOを組み合わせた地方自治体の意思決定の仕組み。シンシナティ市などではすでに実際に活用されているという。
民主主義はとても大切だが、熟考した一票と、適当に投じた(もしくは扇動された)一票が同じ一票として評価されるという問題がある。Web2.0の世界は、声の大きい人(フォロワーの多い人)の意見が通る。
AIの自然言語解析は、数多くの人の意見を同時に聞いて、それを解析して方向性を導き出すことができる。小さな声も拾うことができるし、従来の『論破』するかたちではない『議論』を可能とする。それと、DAOの非中央集権的な組織が新しい『民主主義』を可能にするというのである。
Web 2.0のひとつの曲がり角で、web3をどう考えるか?
一度地に落ちたweb3の評判だが、いずれにせよこれらの技術の先に未来があるように思える。
Facebookが時価総額を70%、76兆円も下げ、Twitterをイーロンマスクが買収し、大量解雇を実施。Web 2.0の象徴的存在である2社の凋落は従来の仕組みの限界を示している。2008年ぐらいから続いた、アクセス数、PV重視、マーケティング重視の世界の限界だ。
対して、web3的手法には大きな可能性があるが、まず理解するのが難しいし(私も分かっていない)、誰もアクセスできる完成された成功例がないように思う。
それが実現すれば、話はそこからスタートするように思う。
バブルではなく、作り手が報酬を得られる世界を作れるか?
筆者はweb3の話を聞いた時に、思い描くことがある。
我々メディアの世界は、Web 2.0の到来で崩壊した。
たとえば、新聞を思い描いて欲しい。
新聞の購読料と広告収入によって、新聞社は日本中、世界中にカメラマンや記者を配してニュートラルに取材し、記事を得ることができた。
Web 2.0世界で、我々はネットで世界中の情報を得ることができるようになったが、それはYahoo!ニュースにせよ、スマートニュースにせよ、Twitterで得た情報にせよ、現場で取材した人の成果に(ほぼ)タダ乗りしている。
対して、PVを得るために新聞記事をウェブに投じているが、それが世界各地で取材している末端の人の収入になるワケではない。
web3的仕組みを利用すれば、稚内の先端で写真を撮っているカメラマン、絶海の孤島で記事を書いている人、支援なく社会問題に取り組んでいるルポライターに、写真が見られた分、記事が読まれた分だけお金が支払われる仕組みを作れるのではないだろうか?
たとえば、私のこの記事も、写真も、ほぼ無償でウェブに流れていく。web3的仕組みなら、読んだ方が支払ったお金を、設定した割合で製作者に支払うことができるのではないだろうか? イラストやコミックス、絵画、映像……など、あらゆるクリエイティブワーク、人々の生産活動についても同じようなことが言える。
そうすると、PVやお金、権力に振り回されないクリエイティブが生まれるのではないだろうか?
それとも、それは夢なのだろうか?
(NCC2022Fallのイベントの詳細リアルタイムレポートは、Twitter( https://twitter.com/ThunderVolt_mag をご参照のこと)
(村上タクタ)
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