茶封筒から登場した14年前のご先祖は革新的だった
古くからのファンならご存知、MacBook Airの歴史は14年前、2008年にスティーブ・ジョブズが茶封筒から引っ張り出した日に始まった。その薄さを強調したMacBook Airは、独特のウェッジシェイプ——くさび型の形状が特徴だった。
初代のMacBook Airは非常に挑戦的な製品だった。HDDではなくSSDを搭載、一枚のアルミ板から削り出すアルミユニボディ、DVDドライブなどの光学ドライブなど非搭載……など、『現在のノートパソコンの当たり前』の多くは初代MacBook Airから始まっている。
MacBook Airは、10万円を下回る価格だった時期も長く、その柔らかなウェッジシェイプで多くの人に愛され、『スタバでMacBook Air』というネットミームを産み出すほどのヒット作となった。
そのMacBook AirがM2搭載機となり、大きくデザインを変更した。ついに、あのウェッジシェイプを捨て去り、均質な厚さのフラットなデザインになったのだ。
ジョブズが茶封筒から取り出した時のあの衝撃を思い出すと残念な気もするが、これもまた時代の流れというものだろう。
従来モデルの厚みは、4.1〜16.1mmと表記されていたが、M2 MacBook Airは11.3mmになった。エッジ部分の印象で、旧型の方が薄いようにも思うが、最厚部では5mm近くも薄くなっているというわけだ。
iPhoneに搭載されるAシリーズチップにルーツを持つ、発熱の少ないApple Silicon搭載機になって、MacBook Airから冷却ファンは取り去られていた。
冷却ファンがないということは、ボディ内に空気を流す必要はないということ。となると、内部の部品密度をより向上させることができる。
従来のMacBook Airはそのウェッジシェイプによりバッテリーの配置などに制限があったが、フラットなデザインにすれば隅々まで、バッテリーをはじめ、さまざまな部品を詰め込むことができる。いわば今回のMacBook Airは、必然のデザインとなったわけだ。
過去と決別して2世代目にして、Apple Siliconに最適化した……ともいえる。
パッケージは、最新トレンドの再生可能性を重視したもの
パッケージは、M2 MacBook Airの薄さを強調した真横からの写真を使ったデザイン。
パッケージはプラスチックを使わず、再生可能な素材で作られた最近の流れに沿ったもの。紙素材が多くなってクオリティ感はわずかに下がったが、ここには環境を強く意識するアップルの姿勢が表れている。
完全に新しいデザインと細部まで行き届いた性能向上
前述のように、厚さは薄くなっているが、縦横のサイズはほぼ変わらない。バッグにも収めやすそうだ。微妙な違いだが、アップルマークが少し大きくなっていた。
開いてみると非常にすっきりとしたデザインが美しい。薄くフラットなボディに対して、縁ギリギリにまで広がったディスプレイ、キーボード、大きなトラックパッドが印象的だ。トラックパッドも従来モデルより大きくなり、ほぼMacBook Pro 14インチと同じサイズになっている。
キーボードは一時期採用されて物議を醸したバタフライキーボードと異なり、十分なストロークのあるシザー式。打鍵感はとても良い。
また、ファンクションキー、Touch IDの部分もフルハイトになっており、ポートは、従来モデルのThunderbolt / USB 4ポート×2に加えて、新しいMagSafeポートを備える。
これで、充電器を外さずに、2つのメディアのコピーなどが可能になるのでかなり便利。また、ケーブルの抜き差しの頻度が下がるので、Thunderboltポートの傷みも遅くなるだろう。
ボディ右側は従来通り3.5mmピンジャックがひとつ。ただし、ハイインピーダンス対応となっている。
ディスプレイ上部にはノッチが設けられ、FaceTimeカメラが設けられている。これも最近のMacのトレンドに沿って1080pの高画質なもの。3マイクアレイ、4スピーカーとともに、昨今増えたオンライン会議のクオリティを高めてくれる。
ディスプレイはノッチの分、上方向に拡大されており、上部のコーナーは本体に沿ったRが設けられている。輝度は従来モデルの400ニトから500ニトへと明るくなっており、見た目にも色の鮮やかさが増している。
M1に対してCPU単体で12%、マルチで20%、映像で50〜60%以上
ボディデザインが変わり、ディスプレイも刷新、ポートが増え、カメラもスピーカーも刷新……とあらゆる意味でアップデートされたM2 MacBook Airだが、最大の変更点はM2チップを搭載したことだろう。
これまでの流れを見ていると、このM2チップはCPUやGPUのコア内部の設計は変えずに、コア数を変えることで、M2 Pro、M2 Max、M2 Ultraという上位チップセットを作る礎になるので、M2チップのベンチマーク性能はこのあとに発売されるMacの性能を占う上でもとても大事なポイントだ。
ベンチマークアプリは、Geek Bench 5と3D Mark Wild Life Benchmarkを使ったので、最近テストした他のMacBookシリーズの結果とともに下に掲載しておく。
ちなみに、今回の取材機は、CPU8コア、GPU10コア、16GBメモリー、1TB SSDで26万4800円(税別)という、ちょっと豪華な仕様。一昨年テストしたM1 MacBook AirはCPU8コア、GPU8コア、8GBメモリー。MacBook Pro 14インチはM1 Pro搭載機でCPU8コア、GPU14コア、16GBメモリー。MacBook Pro 13インチは、M2搭載のCPU8コア、GPU10コア、8GBメモリー。
まず、M2 MacBook Pro 13インチとはほぼ同じ性能だった。熱負荷がかると、MacBook Airの方が先に性能低下するのかもしれないが、そもそも発熱が少ないApple Siliconでは、あまりその心配はないように思う。
次に昨年モデル(そして併売される)のM1 MacBook Airと比べると、シングルコアで約12%、マルチコアで約22%、そして、GPUのOpen CLで約50%、Metalで約60%の向上をみている。これはかなりの性能向上だといえるだろう。
また、M2チップのニューラルエンジンはパワーアップされており、メディアエンジンも搭載されているので、映像を扱う能力はベンチマーク以上に向上しているはずだ。メディアエンジンとはM1 Pro以上のチップセットに搭載されたProResの処理などを行うことに特化された回路で、多数の8K ProRes映像などをハンドリングする時に大きな力を発揮する。
参考までに、MacBook Pro 14インチと比べてみたが、肉薄するとまでは言わないものの、圧倒的性能差があるわけではない。このMacBook Proは私物で、CPU 8コアの一番性能の低いタイプではあるが、比較する上で参考にはなると思う。
予算が許すなら絶対にお勧め
スタイリッシュで、高性能……と申し分のないM2 MacBook Airだが、ご存知のように円安の影響で、少々日本での販売価格が高い。
もちろん、今後も円安は続くだろうからこの新しい価格に慣れなければならないのだろうが、多くの人には予算というものもあるだろうし、M1 MacBook AirやM2 Macbook Proとの間で心揺れる人は多いだろう。
ファーストインプレッションとしては、新しいデザインもさることながら、より明るいディスプレイや音の良さ、MagSafeポートの追加などの価値も大きい。筆者は予算が許すのであればMacBook Airを推したいと思う。
(村上タクタ)
PHOTO:A.KUWAYAMA 桑山章
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