イベントは新しい出会いの場だった
──『バンドやろうぜ ROCK FESTIVAL -THE BAND MUST GO ON!!-』は、私たち“昭和45年女”の思春期に元気をくれたバンドが集結するイベントです。今、このイベントに参加をする意義をどうお考えですか?
JILL 今の若い子たちを中心とした音楽シーンって、ダンスミュージックがメインでしょ。私も、娘の影響でK-POPのグループを見たりしてるしね(笑)。でも、時代はいつでも巡るもので、今はちょうど一回りしたに時期なんじゃないかって思うの。次はきっと、バンドをやりたいって思う子たちが出てくるんじゃないかなって。そういうなかで、久しぶりに出てきたおもしろい企画だなって思いました。だって、世の中の音楽がどういう流れになろうと、私たちPERSONZは一貫してバンドをずっとやってきましたから。今回集まるバンドは、私たちと同じように同じ時代をずっと走ってきた人たちでしょ。そういうメンツが集まるのがおもしろいなって。
──80〜90年代の日本では、ロックフェスがあまり根付かなかった印象がありますが、ほかのバンドと一緒にステージに立つ機会はあったんですか?
JILL PERSONZは、デビューしたての頃に結構いろいろなイベントに出てたんですよ。お客さんがたくさん集まるイベントでオープニングを務めて、自分たちを知ってもらう!っていう狙いもあって。今回の『バンドやろうぜ』に参加する名古屋だと、1987年8月4日の『KING OF ROCK SHOW』というイベントに出させてもらって。BOØWYとREBECCAが一緒だったんだけど、その2バンドは、そのときすでに大スターだったわけ。だから、彼らを観に来た人たちが、「PERSONZってなんじゃ?」ってなってね。それを機にお客さんが増えたりもしました。
──新しい出会いというのは、ファンにとってもイベントを観に行く楽しみの一つです。
JILL 結構、いろんなところにアピールしに行ってましたよ。ホールでのワンマンツアーができるようになった80年代後半以降はイベントに出ることが少なくなってしまいましたけど。
──『バンドやろうぜ』の名古屋公演は、GO-BANG’SとJUNS SKY WALKER(S)との対バンですが、ご一緒したことはありましたか?
JILL 当時はあまり交流がなかったかな。そもそも、80〜90年代のバンドって、牽制し合う雰囲気だったから(笑)。だから、最近のバンドを見てると、ヨコのつながりがあってやけに仲がいいんだなって不思議に感じちゃう(笑)。
音楽雑誌は教科書のような存在でした
──今回のイベントは『バンドやろうぜ』を発行していた宝島社が後援しています。80〜90年代は音楽雑誌も百花繚乱でしたが、音楽雑誌にまつわる思い出はありますか?
JILL 『バンドやろうぜ』は、ギターの本田(毅)くんが、よく、プレイ面でのインタビューを受けていましたね。それと、『バンドやろうぜ』に限らずだけど、雑誌ではよくライブレポートを載せてもらいましたね。ツアーがあれば必ずどこかの編集部が取材にきてくれたし、“昭和45年女”世代のみなさんには、そういう形で私たちの活動が届いていたんじゃないのかな。
──まさにそうです。音楽雑誌をクラスの友達同士で回し読みしたりして、いろいろな情報を得ていました。
JILL 好きなバンドのページを切り抜きしたりしてね(笑)。私自身も、将来はプロのミュージシャンになりたいと思い始めた頃は、イチ読者として『ミュージック・ライフ』を愛読してましたから。どういう気持ちでアルバムを作ったのかとか、ミュージシャンが考えてることが書いてあるでしょ。だから、音楽雑誌って、私にとっては教科書のような存在だったのよ。もちろん、それだけじゃなく自分が好きなヴィジュアルのバンドの写真を切り抜いて部屋に貼るっていう楽しみもあったりね。
──どんなバンドのグラビアを貼ってたんですか?
JILL デュラン・デュランとかボウイ・ジョージ、デヴィッド・シルヴィアン。私、ヴィジュアルにインパクトがある人が好きなのよ(笑)。ライブでいうと、一番最初に観に行ったのがエアロスミスだったんだけど、その時はまだ洋楽に対する知識があんまりなくて。その次にKISSを観に行って、「こんな見せ方があるんだ!」ということを初めて知ったんです。
──PERSONZのルックスを見て、結構衝撃を受けたのを覚えています。
JILL: PERSONZは、男子メンバーが化粧するのが比較的早かったかもしれない。衣装も派手だったしね(笑)。穴の空いたパンツだったり、長いアシメントリー丈のシャツだったりっていう。それに私、ニコリともしないで写真に写ってたものね(笑)。アイドルや歌謡曲の歌手とは違うという意識があって、自分が好きだった、ジョーン・ジェットやブロンディの姿が頭にあったんですよね。
──当時から、JILLさんの印象はほとんど変わらないです。
JILL 私、金髪の印象が強いでしょうけど、昔は金髪じゃなかったんですよ。80年代は今みたいなヘアカラー材がなかったから、やりたくでもできなかった。
──たしかに。髪の色を抜くのにオキシドール使ったりしてましたよね(笑)。
JILL 『PRECIOUS?』(1990年)で初めてエクステンションをつけてね。それこそ、カラーコンタクトも当時は誰もしてなかったんだけど、ZELDAの(小澤)亜子ちゃんが青い目をしててビックリして。「なんですか、その青いの!」って聞いたら「海外で売ってるんだよ」って。90年代に入ると、髪をブリーチしたりするのが流行るわけだけど、そういうところでも「時代は巡るんだな」って思いますよ。
ロックバンドへの風向きが変わったことでバンドブームが生まれた
──今、若い世代を中心に“昭和レトロ”がトレンドになっていますし、本当に、時代は巡るものですよね。2023年の今、80年代のバンドブームを振り返って、いちばん強く心に残っているのはどんな事象ですか?
JILL バンドブームが起きたのは80年代の終わりだったから、PERSONZを結成した1983年ごろはそこまでシーンが熱くなっていたわけじゃないんです。そんななか、BOØWYの存在がすごく大きかったんですよね。新宿ロフト界隈で活動していた、お客さんがあんまり入ってない時代から彼らを知っていますけど、“この人たちは絶対売れちゃうだろうな”っていうことは明確に分かってたんです。当時のロックバンドはまだまだアンダーグラウンドな存在で、タバコやお酒をやりながらライヴを観るみたいな感じだったんだけど、BOØWYの音楽が高校生とかの若い子たちに刺さって、風向きが変わってきましたからね。そこから生まれたのが80年代後半のバンドブームで、そのおかげで私たちの人生があるんです。
──80年代から止まることなく2020年代の今まで続いているバンドは数少なくなりました。そんななか、PERSONZは来年で結成40周年を迎えます。
JILL いないバンドのほうが多くなっちゃいましたね。考えてみると、バンド仲間には、別の仕事をしながら音楽を続けている人もいますけど……PERSONZはずっとバンド一本で食べてますからね。あらためてありがたいことだなと思います。
──2020年からのコロナ禍も乗り越えて。
JILL 1年間ツアーができない状況になって、収入も途絶えて。そこをなんとか乗り越えられたのは我ながらすごかったなって思う(笑)。今、再開したツアーの真っ最中なんだけど(2020年に企画、2021年に中止となったツアーを『PERSONZ I AM THE BEST TOUR 2023』として再開)、MCではこの3年の間の話をすることを心がけてるんです。コロナ禍のあの状況は、世界的に誰もが同じだったから、気持ちの共有ができるんですよね。そういう面で、今までのライヴでは捉え方がまったく違うんですよ。この3年、例外なく全員が耐えてきたでしょ。だから、曲がすごく沁み込んでるのが分かるんです。
──コロナ禍前までとは、お客さんの曲に対する想いが違うという?
JILL コロナ前までは、ライブとなると「盛り上がるぜ!」っていうノリが大きかったと思うけど、今回は、お客さん一人一人が音楽をちゃんと受け止めてくれている気がします。バンドとしても、久しぶりのツアーだからワーッと発散してほしいという気持ちもあるけど、それだけじゃなく、涙を流してくれたっていいよねって。そうやって、いろいろな感情を持ってもらえるならば、音楽はやるべき価値があるんだなって思うんですよ。
目標を持つことが大事。私は100歳まで現役で歌います!
──バンドブームの頃、10代だった昭和45年女は50代に突入しました。PERSONZのみなさんが、還暦を過ぎてもなお現役でバンドを続けているのがとても心強いです。
JILL ロックは戦後に生まれた音楽だから、ベテランミュージシャンといえどまだ若いんですよね。だから、ロックミュージシャンが年を重ねていくのって、前例がないんですよ。でも、これからはきっと、100歳のロックミュージシャンも出てくると思う。私自身も100歳まで現役で歌い続ける気でいるし、どこまでやれるかっていう挑戦ですよね。
──昭和45年女世代のちょっと先を行くJILLさんに、50代、60代を元気に生き抜くヒントをいただきたいです。
JILL 昭和初期の60代と今の60代じゃ全然違うからね。まだまだ働き続けないといけないっていう社会事情もあるから、意外と元気に長生きしちゃうと思うんですよ。その分、目標を持って生きないと戸惑ってしまうかも。私の娘もそうだけど、今の若い子たちはすごく現実的で着実なんだけど、昭和世代は夢に生きてる人が多いからね(笑)。
──目標を持つ。肝に銘じます!
JILL それと、昭和45年女のみなさんは、更年期真っ最中の世代でしょ。ぜひ、婦人科の主治医、できれば同性の女性医師を味方につけることをおすすめします。私は、52~53歳のときに坐骨神経痛をやって。ぴったり1年で終わったんだけど、立ってても座っててもどうしようもなく痛くて。そんな状況で歌ってたんだけど、10年以上お世話になっている主治医に助けてもらいました。更年期でホルモン値が安定しないときにも相談できたし、ホルモン治療もやりました。やっぱり、きちんと数値で自分のホルモンの状態を把握しておくことは大切。それを踏まえての対策を取ると、更年期のその先がすごくラクになります。
──参考になります。どうしても、本当に具合が悪くならないとなかなか病院に足が向かないんですよね。
JILL 閉経を迎える50代、女性なら、誰にでも何かしらの変化は訪れます。でも、人生はまだまだ長いし、この先もイキイキしていたいなって思いますよね? だから、身体に関する情報はいっぱい得たほうがいい。更年期の先のことも見据えて、快適に過ごせる方法をぜひ見つけてもらえたらなと思います。
JILL
1984年、本田毅、渡邊貢、藤田勉とともにPERSONZを結成。1987年にアルバム『PERSONZ』でメジャーデビューを果たす。2020年に最新作のミニアルバム『I AM THE BEST』をリリースした。2024年の結成40周年に向け、精力的なライブ活動を展開している。
『バンドやろうぜ ROCK FESTIVAL -THE BAND MUST GO ON!!-』
8月19日(土)18時開演
Zepp Nagoya
出演:GO-BANG’S/JUN SKY WALKER(S)/PERSONZ9月2日(土)18時開演
Zepp Haneda
出演:岸谷香/筋肉少女帯/JUN SKY WALKER(S)
取材・文/高橋真希子(編集部)