アメリカンファッションにおける、人生の集大成。
「洋服に目覚めたきっかけは、女性にモテたい、かっこよくなりたいという思いからでした」そう語るのは、「ハミングバーズヒルショップ」を運営するル コタージュのオーナー、水野谷さん。最初は軽い気持ちで興味を持った洋服だが、気がつけばどんどん深い沼へと引きずり込まれていった。
1970年代、まだ学生であった水野谷さんは情報収集のために雑誌を読み漁っていたのだそう。『メイド・イン・USAカタログ』や『平凡パンチ』、『ポパイ』など、アメリカンカルチャーを扱った雑誌を中心に読んでいたので、自然とアメリカへの憧れが芽生え、アメリカ製のアイテムを探し始めたのだそう。
「当時はいまのようにネットが発達していなかったので、探すこと自体がひと苦労。さらに、日本で購入できるアメリカものは少なく限られていました。手に入ったのは『リーバイス』の[501]や『オシュコシュ』のシャンブレーシャツくらいでした。どんどんアメリカンファッションへ傾倒し、どうしてもアメリカ製のアイテムが欲しかった自分は、直接アメリカへ行き買い付けをすることを決めました」
大学にはほとんど行かず、アメリカ行きのためアルバイトに明け暮れた水野谷さん。アメ横の伝説的ショップ「ミウラ アンド サンズ」の店員だった友人と地元の友人と共に、3人でアメリカでの買い付け旅行を決行。初めてのアメリカは、今後の人生に大きな影響を与える転機となった。
ファッションからアメリカを志したが、音楽、現地の人たちの生活、広大な自然、そのすべてに魅了されていった。アメリカの魅力に取り憑かれた水野谷さんはその後、原宿にあったサーフショップでのアルバイトから今日まで続く長いキャリアをスタートさせる。
「働き始めてから、ショップの近くに『ビームス』が誕生し、その頃『ビームス』で働いていた「ユナイテッドアローズ」の創業者、重松さんに声をかけられ、『ビームス』へ入社することになりました」
それから10年後、重松さんから新たな誘いを受け、「ユナイテッドアローズ」の創業に参画。創業から19年、同店での経験を経て、恵比寿にアメリカンレストラン「ハミングバーズヒル」とセレクトショップ「ハミングバーズヒルショップ」をオープンさせた。そして現在は神宮前で「ハミングバーズヒルショップ」を経営している。
「3つのセレクトショップを経験し、日本のファッションの流れを肌で感じてきました。アメカジだけでなく、フレンチアイビーやクラシコイタリアなど様々なスタイルを経験した結果、やっぱり自分の中での一番はアメリカンスタイルだなと再確認できました」
そんな彼が選ぶ、アメリカを象徴するアイテムはウエスタンシャツ。現在400着という膨大なコレクションから1枚選んでいただいた。紹介してもらったのは10年以上前にアメリカのヴィンテージバイヤー、ラリー・マッコイン氏からデッドストックの状態で購入したという’50年代の「リーバイス」のウエスタンシャツ。そのシャツは、彼が歩んできたファッションの道程の証であり、アメリカンファッションへの深い理解と愛を体現している。
「このシャツがこれまでのファッション遍歴を経てたどり着いた現在の自分のスタイルの集大成ですね。でもこれが完成系というわけではなく、まだまだ勉強中。いまはヒッピーファッションについて、調べているところです」と話す彼はとても楽しそう。いまもなお、アメリカンカルチャーと共に生きている水野谷さん。その探求は今後も続くであろう。
「Le Cottage」水野谷 弘一|’70年代に原宿のサーフショップで働いたのちに、「ビームス」へ入社。その後「ユナイテッドアローズ」の創業メンバーとして19年というキャリアを経て、2007年にル コタージュを創業。2009年に「ハミングバーズヒルショップ」をオープン。
50s Live’s Western Shirts
アメリカを代表する女性画家ジョージア・オキーフの作品をイメージした、スカル柄の刺繍が背中と、両胸ポケットに配されている。
いまや、かなり貴重となった’50sの「リーバイス」。ウエスタンウエアラインにはカウボーイの後ろ姿が描かれているタグが付く。
自分に合わせて、丈を調節してあるというシャツの裾には、’50sのシャツに見られるマチが付く。丈詰め後、忠実に移植している。
自身が所有しているカジュアルシャツには、すべてステッチを施しているという水野谷さん。ステッチを行う時、シャツの生地に糸を合わせる際にひと目で選ぶことができるよう、まとめられている。
(出典/「Lightning 2025年5月号 Vol.373」)
Text/ Y.Namatame 生田目優 Photo/ N.Suzuki 鈴木規仁
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