パンのミミを使って美味しいビールを造る「AJB Co.」の仕事拝見!

野沢温泉スキー場にほど近い山中に突然現れるお城のような大きな建物。ここにはイギリスから移住してきたご夫婦が営むブリュワリーがある。

トーマス・リヴシーさんと絵美子さん

ご夫婦で世界中をバックパッカーをしていたときに野沢温泉に出会い、移住を決意。トーマスさんがビールが大好きなこともあり、この地でビール造りをスタート。

ただパンを使うだけじゃダメ、美味しくなくちゃ。

大きなタンクが4つある。マッシュ→ロイター→ケトル→ワールプールの順番で、工程ごとにタンクに入れ替える

長野県北信地方の中でも雪深い野沢温泉。歴史ある温泉街とパウダースノーのスキー場があり世界的にも知られている村だ。冬は国内外からのもスキーヤーやスノーボーダーが多く訪れる。

2012年、トーマス・リヴシーさんと絵美子さん夫婦が移住してきた。アングロジャパニーズブリュワリー(以下、AJB)の創業者だ。当時はビールを造ろうと思って住み始めたわけではなかった。バックパッカーをしていたときにこの村を訪れ、土地の人たちの温かさに心を打たれたという。

移住してきた当時はボランティアなどをして住み込みで暮らしていた。ビール造りをしたいと思ったのは、ビール好きのトーマスさんが日本の大手のビールではなく、イギリスにあるようなクラフトビールが恋しくなったから。偶然にも野沢温泉は観光、水、温泉とビール造りや飲みたくなる条件がそろっていた。

ブリュワリーから臨む景色。山々に囲まれたとても自然豊かな場所だ。この地域に行けば「水が美味しい=美味しいビールができる!」の意味がわかるはず

今までに造ってきたビールは何百種類。その中に今回の主役ビールである「ブレッド」がある。

「あるイベントに参加したときにゴミゼロウィークを主催していた方に声をかけてもらったんです。六本木の3つ星のレストラン『レフェルベソンス』のシェフ生江さんのベーカリー『ブリコラージュブレッド&カンパニー』でサンドイッチを作るときにパンのミミが余ってしまう。それを使ってビールを造れないかと」

と話すのは絵美子さん。AJBのビールを飲んだときにこのブリュワリーならパンのミミを使って美味しいビールを造ってくれるのではないかと直感したようだ。

「ただパンのミミを使ってビールを造っています、じゃダメだと思ったんです。まず美味しいが前提でなければ」

そこから試行錯誤が始まった。最初冷凍したパンが届けられたのだが、配送の途中で溶けてベチャッとしてしまったこともあった。パンを入れるタイミング、そしてパンを感じられる量……。幾度となく試作を繰り返しレシピを改良した。パンは生ではなくローストしてクルトン状にすることでパンの風味を閉じ込め香ばしさも残る。何よりも常温で保管することができるのは製造においてのメリットだった。たくさん入れればパンを感じられるというものでもなかった。こうしてようやく最高のレシピにたどり着いたのだ。

サイコロ状にカットしローストしたパンのミミがブリュワリーに送られてくる。カリッという歯ごたえと香ばしいパンの風味。このままでも美味しい

「ブレッドは、AJBの定番ビールになりました。限定でウイスキー樽で熟成させたものも過去に作りましたが、今後もバリエーションを増やしていきたいと思っています。レシピは公開しているものなので、ほかのブリュワリーにも広がって欲しいですね」

ブレッドをきっかけに、地元の農家から廃棄されるフルーツを使ってビールを造れないかという相談も最近では多いという。次はどんなビールが飲めるのか。楽しみでしかない。

ブリュワリーは保育園だった建物。撮影したのは3月の半ば。大雪に見舞われたこの地域には、ミルフィール状になった雪がまだ残っていた

試行錯誤をして完成した“bread” の製造風景。

ブレッドを仕込むのは、パンのミミが仕入れできたとき。その造り方を見学させてもらった。

1.モルトを粉砕する。

まず原料のモルトを粉砕する。一袋ずつ丁寧に機械に入れていく。粉砕の状況を見ながら、次の袋を投入……。いつもは前日に行う作業ということだが、この日は特別に行ってくれた。

2.粉砕したモルトがタンクに。

先ほど粉砕したモルトが「マッシュ」用のタンクに移動してくる。これらはすべて機械で制御しているが、製造担当の小林さんは、タンクの中の様子を常に見ながら調整していた。

3.お湯とモルトが一緒に。

モルトが移動してきたら、60度くらいのお湯を投入して煮込む。タンクの中では湯気を立てながらモルトが撹拌されている。

4.オーツ麦を加える。

次にオーツ麦を投入する。ブリュワリー内には麦のいい香りが充満。ビールの香りにはまだならないが、違った美味しい気分を味わえる。

5.よくかき混ぜマッシュする。

ときどきかき混ぜながら、1時間ほど煮込む。タンクにつながった筒から蒸気がモクモクと出て、ブリュワリー内の温度も少しずつ上がってきた。

6.酸度を測り適正か確認する。

1時間経ったらpH(水素イオン濃度指数)を測る。5.2 ~ 5.4であれば問題なし。高ければ乳酸を入れて調整する。

7.ロイターのタンクに移す。

次に隣の「ロイター」のタンクを温めてから、「マッシュ」内のビールを移す。急激な温度変化はNGなのだそうだ。

8.パンのミミを投入。

ここでパンのミミを入れる。あまり煮込みすぎるとドロドロになってしまうので、少し馴染ませるくらいがちょうどいい。撹拌してすぐに次の工程へ。

9.濾過する。

パンが馴染んだら濾過する。何度か濾過を繰り返し、透き通ってきたらOKだ。この後「ケトル」→「ワールプール」のタンクに移し出来上がるのは3週間後。

【問い合わせ】
AJB Co.
https://anglojapanesebeer.com

(出典/「Lightning2022年5月号 Vol.337」)

この記事を書いた人
めぐミルク
この記事を書いた人

めぐミルク

手仕事大好きDIY女子

文房具、デザイン、ニッポンカルチャーなどのジャンルレスな雑誌編集を経てLightningへ。共通しているのはとにかくプロダクツが好きだということ。取材に行くたび、旅行するたびに欲しいものは即決で買ってしまうという散財グセがある。Lightningでは飲食、ハウジング、インテリアなどを担当。
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