アイリッシュセッターの歴史とは? 誕生から初期の展開をまずは解説!
ワークブーツの主峰として、本国アメリカではもちろん、日本でもブランドを代表するモデルとして知られるアイリッシュセッター。白く底の平なトラクショントレッドソールが、このモデルのアイデンティティである。
【1950年誕生】854 Irish Setter
「877」が世に登場する2年前に誕生した、最初期のアイリッシュセッター「854」。
当時カリフォルニアのタンナーで開発された、美しいオレンジがかった茶色のフルグレインレザーの独占使用権を得たレッドウィングは、そのレザーで8インチ丈のハンティングブーツをつくった。モカシンタイプのつま先や、靴の側面下部に縫い目が入らないオールアラウンドバンプ、そして当時ハンターたちに人気のあったグロコード「キングB」ソールを組み合わせたこのハンティングブーツのベロ裏には、ハンターの姿をあしらったグリーンのタグが縫い付けられていた。
1950年、「854」という品番で発売されたこのブーツは、そのレザーの色が猟犬のアイリッシュセッターの毛並みに似ていたことから、カタログ上で初めて「アイリッシュセッター」というニックネームが付けられたことで知られる。
その2年後にこのモデルを進化させ、靴底がフラットな厚いクッションクレープソール(のちのトラクショントレッドソール)を装着した877が誕生し、全米で大ヒット。その潮流は現在まで継続されている。ちなみにこの854は、1958年に終売となった。
【1952年誕生】#877 Irish Setter
先に紹介した「854」をベースにアッパーデザインを改良し、ソールにクッションクレープソール(今日のトラクショントレッドソール)を採用した「877」。
男性用の靴で初めて快適性と静音性に優れた、クッション性に富んだ底の平らな白いソールを採用した事は、当時としては冒険であったが、これが大ヒットした。このヒールがないフラットソールのブーツは、本来のターゲットであったハンターだけではなく、ワーカーも屋根の梁上や梯子で作業する際の、抜群の安定性を高く評価した。
1954年には猟犬をデザインしたタグが開発され、6インチやオックスフォードなど、いくつかのバリエーションが誕生し、今日に続くアイリッシュセッターの形ができあがった。
ちなみに、当時アイリッシュセッターのラインに使われていたオロラセットレザーは色が安定せず、赤茶に近い濃いものからゴールドの色調を持つ明るい色のものまでさまざまな色合いのものがあった。このサンプルはオロラセットが明るい色に仕上がった時のもの。
現在のアイリッシュセッターに使われている革色のゴールドラセット・セコイアは、当時のオロラセットレザーの色目のなかでの、こうした明るいものをベースとして開発された。
1958年、「875」ついに登場! 「877」の6インチのバリエーションとして誕生。
「877」の6インチのバリエーションとして1954年に登場し、現在まで続くロングセラーである「875」。この「875」も、「877」も、デザインは発売当初から基本的に変わっていないが、「875」に関しては1960年代の一時期(’63年〜’65年)のみ、つま先のモカシン縫いの方法が変更された時期がある。
この靴はその時期に作られたもので、つま先が通常の「おがみモカ」でなく、甲のU字型の部分の縫い目に革をかぶせた「かぶせモカ」で作られている。止水性を狙ったこのデザインはハンティングブーツによく見られる。またレッドウィングでも、一部のハンティングブーツにこの製法を使っており、その応用でもあった。
ワーカーからの需要が多く、ハンティングブーツというよりもワークブーツとして履かれた「875」の場合、この製法はそれほど必要とされなかったようで、’66年には元の通り、二つの革パーツの縁を両側から縫い合わせた「おがみモカ」に戻されている。写真の「875」は「かぶせモカ」でつくられた当時の、極めてレアな逸品である。
「875」と同時期に誕生した「877」の派生モデル、「895」。
1954年に「877」のバリエーションとして誕生したモデルの中に、6インチブーツである「875」などと共にこの短靴(オックスフォード)があった。
ふたつの革パーツの縁を両側から縫い合わせた「おがみモカ」製法、そして腰革にライニングなしの一枚革を使用するなど、「875」のショートカット版ともいえるこのオックスフォード「895」は、1964年まで製造された。のちのアイリッシュセッター「9895」は、この「895」を再現したもの。
1990年代に消滅したアイリッシュセッター、2011年日本市場の要望で復活。「875」は6インチ クラシックモックに。
1990年代の日本で爆発的な支持を得た「アイリッシュセッター」だったが、その裏で本国アメリカでの販売が鈍化した影響により、1998年にその名称は消失してしまう。それにより、「875」は「6インチ クラシックモック」として知られる存在に(名称はたびたび変更)。また日本市場で特に人気の高かった赤みの強いカラーを再現したレザー、オロラセット・ポーテージを使った6インチ クラシックモック「8875」が「875」のバリエーションとして1996年に誕生している。
しかし日本が「アイリッシュセッター」に大きな思い入れをもっている事が理解され、2011年に日本が望む形で復活。レザーは「6インチ クラシックモック」で使用されているオロ・レガシーではなく、かつて若者を熱狂させた履き込むほどに味わい深くなるオロラセット・ポーテージの中でも明るいものをベースにして開発されたゴールドラセット・セコイアを採用しているが最大の特徴。
アイリッシュセッターの年代の見極め方。犬タグに注目!
製造年代を判別するのに最もわかりやすいのがタグのデザイン。ヴィンテージ市場でも特に人気の高いアイリッシュセッターのタグはある程度の年代判別が可能となる。
~1953
’40年代〜’53年までに使われた初期タグはグリーンの地に猟銃を持ったハンターが描かれた刺繍タグ。
1954~
描かれるモチーフもハンターから犬へと大幅に変更された2世代目のタグ。こちらも刺繍タグとなる。
1970s 初期~1980s
’60年代に入るとタグは刺繍からプリントへ変わり、’70年代初頭からタグの右側に「MADE IN AMERICA」の文字が追加された。
1980s~
デザインに大きな変化はないが右側の「MADE IN AMERICA」だった表記が「MADE IN U.S.A.」へと変更となる。
1990s~
デザインが刷新され半円型のタグに。タン内側に付けられるが、後に外側へ変更となり細部の仕様が少しずつ変更される。
1996~1999
’96年頃からアンクル部分に犬の刻印が施されるようになり’99年頃まで採用されていた。
▼年代の見分け方がわかったら、その価値が知りたくないですか? この記事も合わせて読もう。
「アイリッシュセッター」にはどんな種類がある? 「8165」後継の黒も気になる!
数々のモデルが復活後にも登場したアイリッシュセッター。現在基本となるのはカラバリ含めて3種類。デザインだけでなくレザーの違いもチェックしよう。
※ここでは875など6″ CLASSIC MOCは通称で使用されているため除外します。
1.Irish Setter 6″ Moc(アイリッシュセッター 6インチモック)9875
アッパーの色が猟犬に似ていることから名付けられた「アイリッシュセッター」。1997年にそのシンボルとなるタグは外されたが、2011年に復活。オロラセットレザーを思わせるゴールドラセット・セコイアを採用している。
- レザー:ゴールドラセット「セコイア」
- 製法:オールアラウンド・グッドイヤーウエルト
- ソール:トラクショントレッド
- ラスト:No.23
2.Irish Setter 6″ Moc(アイリッシュセッター 6インチモック)9874
「Irish Setter 6″ Moc」の茶芯が楽しめるブラック・クロンダイクを採用したモデル。黒のアイリッシュセッターでモックならこれ。
- レザー:ブラック「クロンダイク」
- 製法:オールアラウンド・グッドイヤーウエルト
- ソール:トラクショントレッド
- ラスト:No.23
3.Irish Setter 6″ Round(アイリッシュセッター 6インチラウンド)9870
アイリッシュセッターの6インチラウンドトゥは様々なバリエーションを生んだが、1990年代のストリートファッションで爆発的な人気を獲得したのがブラックレザーの「8165」だった。履き込むほどに茶色の芯地があらわれる「茶芯」仕様。そんなヒット作を再現すべく開発されたのが「9870」だ。
- レザー:ブラック「クロンダイク」
- 製法:オールアラウンド・グッドイヤーウエルト
- ソール:トラクショントレッド
- ラスト:No.8
▼レッドウィングのモックトゥが好きな方はこちらの記事もチェック!
- 1
- 2
関連する記事
-
- 2024.11.16
キズもデザインに。革に対する「新たな気づき」を教えてくれるクリンチの新プロジェクト。
-
- 2024.11.06
PALLADIUM(パラディウム)からJOTT(ジョット)とコラボしたブーツが登場。
-
- 2024.10.30
日本有数のフィニッシャー、レーデルオガワ謹製のコードバンブーツがヤバイ。