自身の感覚と一致するものが自分の中で贅沢なものになる
田中ノボル氏は10代よりアメリカのプロダクツやカルチャーに魅せられ、20代の時に憧れの対象を自分の目で確かめるために渡米し、そのまま定住。アメリカでブランドを立ち上げ、30代の時に日本へ拠点を再び移した。リッチなものに憧れた時期はあったが、歳を重ねる度に一般的な贅沢ではなく、自分の感覚を大切にするようになったという。田中氏にとってのカジュアルリッチとは、自身の感覚にちょうど合うもの。高額なもの、品質の高いものが、比例してかっこいいわけではないのだ。
左はUS Kedsのヴィンテージで右はʼ40年代のキャップトゥブーツ。その中間として製作されたのが中央のBELAFONTEのスニーカー。次のシーズンの新作だ。
「ここ数年はヴィンテージのキャップトゥブーツを気に入ってよく履いているんですが、ラストの細いスニーカーも気になっていて。そんな時に内羽根式でヒール付きのヴィンテージスニーカーを見つけたんです。その2つをヒントに新作を作りました」
テンプルとブリッジに繊細な彫金が施されたヴィンテージのアイウエアは、日本製。ラウンドのデザインがよりクラシックな印象を与える。「老眼になったこともあり、手掘りのメガネを探していて、アメリカやヨーロッパのものを探していたのですが、満足するものが見つからず。少し視点を変えて、昭和に作れられた日本のもので探してみたら、デザイン、品質ともに素晴らしいものが多くて。クラシックなものが好きなのでラウンドを選びました」
BELAFONTEの針抜きリブのポケットTシャツに、5ポケットパンツというシンプルなコーデイネイトで登場してくれた田中氏。パターンにも定評が高いだけあり、デニムはワークウエア然とした太めのストレートシルエットながらも、スッキリとした腰回りでリプロダクトとは一線を画する。足元は細身のラストが気に入っているという旧いキャップトゥブーツ。高級感がありすぎず、田中氏にとってちょうどいいクオリティだそう。手に持っているのは、戦前の鉄製のボックスで、財布やアイウエア、ハンカチなどの日用品を入れるのに最適なサイズ感が気に入っている。
ALLSOULSという3ピースバンドでギターとヴォーカルを担当する田中氏は、Epiphoneを愛用。
「Epiphoneと聞くと、Gibsonの廉価版のようなイメージをする人が多いと思います。自分もそうだったのですが、アンティークギター屋から買収される前のEpiphoneは、Gibsonよりクオリティが高いなんていう逸話を聞いてから、すっかりと気に入ってしまって。自分のやっている音楽は、ガレージロックをベースにしたミクスチャーで、音を歪ませるのが基本。そのためボディの穴を塞ぐカスタムをしています。リッチなものに対してはアンチですが、バンドマンなので楽器くらいはちょっと高価でもいいかと(笑)」
こちらはBELAFONTEで製作したハンカチ。ワンポイントでスカジャンを彷彿とさせる刺繍が入っている。
「当時、スーベニアでハンカチがあれば、こういうものだっただろうっていうイメージで作ったものです。もちろんバンダナも嫌いではありませんが、ハンカチを持つ行為が、ある意味カジュアルリッチなことかと思って、紹介しました。左上のシャンブレーは、自社のシャツにも使っているので、セルビッジ付きにしています。スーベニアジャケットをイメージした鷹と富士山をモチーフとした刺繍を、あえて小さめのワンポイントで入れているので、違和感なく持てますよ」
BELAFONTEを象徴するアイテムのひとつとなっているのが、戦後に流行したサマーニットをモチーフにしたもの。左の3枚が今シーズンにリリースされたもので、右の大きなダック柄とヨット柄が過去に販売されたもの。
所有しているヴィンテージコレクションの一部。上から、プリントのカジキ柄、真ん中は見方によっては様々なものをイメージできる不思議なパターン、下はキッズ用で魚の口にジッパーを配した洒落の効いたデザインである。
「LAに住んでいる時に仲間たちと古着の買い付けやヴィンテージショップを運営していたこともあったのですが、正直その頃はまったく興味がわかなかったんです。だけど40を過ぎてからここらへんがまた新鮮に見えて、いいものが見つかれば買うようにしています。この手のニットは、現代的に再構築する必要がないと思っているので、当時の作りに近づけることに徹底していますね」
以前はアメリカンハウスのアトリエを構えていたので車移動がメインであったが、現在は自宅に近いため移動は自転車が基本。一見、戦前の実用車に見えるが、実はʼ60~ʼ70年代のもの。
「戦前の英国車のようなクラシックな雰囲気なんですが、実は比較的新しいモデルで、イギリス製ではなくチャイナ製というのが自分の中でしっくりと来たんです。RALEIGHを模倣したものだと思うのですが、チープな感じが個人的にものすごくよくて。これはセンスのいい先輩にいろいろとリクエストをして探してもらった大切なもの。けっして高価ではないんだけど、自分の中では贅沢なものです。昔のスティールボックスをタイヤーチューブでくくりつけて使っています」
完成したばかりの渾身の一作は職人技が光るレザーバッグ
「けっしてどのプロダクツも手を抜いていることはないんですが、数年に1回、本当に心から満足できるものが作れることがあって。このレザーバッグは、正にそんな感じですね」とできたてとなるBELAFONTEのバッグを紹介。田中氏が自転車のリアに載せている鉄製のボックスをモチーフに、レザーで再構築した唯一無二のバッグだ。茶芯のレザーを使っているので、経年変化も楽しめる。まるで鉄のようにサイドに凹凸を付けているが、これは高い職人技が必要不可欠だ。
ʼ40年代のSUPER BIGMACのワークシャツをモチーフとしたBELAFONTEの新作。J.C.PENNEYのプライベートブランドであるBIG MACはʼ30~ʼ40年代の一時期のみSUPER表記の付いたものを展開していた。
「レアうんぬんは関係なくて、単純にロングポイントの襟や運針の細かさが自分の好みだったんです。それらのディテールを忠実に再現しながらフィッティングは自社基準です」
20歳そこそこでスペシャルオーダーしたgoroʼsのベルトは、25年以上愛用している。
「ラグジュアリーなものは苦手なんだけど、このベルトに関しては非常に思い入れが強くて、ずっと大切にしています。先輩が紹介してくれて、goroʼsにオーダーさせてもらったもので、ゴールドのハイビスカスを随所に散らしています。かなり長い年月が経っているけど、今見ても色褪せていないのはすごいこと。これってすごく贅沢なことだと思う」
●田中ノボル NOBORU TANAKA
BELAFONTE/Designer
1969年生まれ。東京都出身。10代の頃より洋服に携わり、20代で渡米。現地でブランドを始め、その後帰国。2011年にBELAFONTEをスタートした。
【DATA】
●ALTER-E-GO
電話:03-3478-5804
http://belafonte.jp
※本ジャーナルは、『CLUTCH Magazine Vol.56』CLUTCH Magazine vol.56 の内容を再編集したものです。
(出典:『CLUTCH web』、写真:Nanako Hidaka 日高奈々子、文:Shuhei Sato 佐藤周平)
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