80年代の人気者・ハットリくんが2012年に変化! リターンズにかけたやすみ監督の演出術

ハットリくん再アニメ化は、インドとの共同制作! 海を越え、時代を超えてヒットした『NINJAハットリくんリターンズ』の、やすみ哲夫監督に当時の思いを聞いてみた。

最初のアニメ化は1981年だった

人格形成の時期にブームが直撃し、多大な影響を受けたオレたち昭和50年男にとって、両藤子不二雄の作品はバイブルのような存在でもある。いろいろあるにせよ、藤子不二雄A先生の低学年層向けの作品で、昭和50年男がまず思い浮かべるのは『怪物くん』と『忍者ハットリくん』だろう。

前述の2作品は、最初のマンガ連載が1960年代と、だいぶ早かったため、昭和50年男にとってはマンガよりも80年代に放送されていたアニメ版での印象が強いかもしれない。

特に『忍者ハットリくん』は、最初のマンガ連載がブームとなってから、映像化されたのは実写ドラマのみであった。そのため1981年にテレビ朝日で放送されたものが最初のマンガ連載からアニメ化までに、実に17年もの歳月がかかっている(なお、81年のアニメ化に合わせ、マンガ連載も再開している)。

『忍者ハットリくん』は、藤子A作品の特徴の一つとも言える「日常生活に入り込んだ異質なキャラクターが引き起こす奇想天外な騒動」という体裁をとる。キャラクターの顔ぶれもハットリくん(カンゾウ)だけでなく、弟のシンゾウ、忍者犬の獅子丸、ライバルのケムマキ、その弟子で忍者猫の影千代と、実に個性的。しっかり者のカンゾウと、まだまだ未熟なシンゾウ、抜け目がないようでちょっと抜けてるケムマキ、そして影千代と獅子丸のライバルとも親友とも言えるような、不思議な関係にシビれた人も多いだろう。

81年にアニメ化された『忍者ハットリくん』は87年までに7年にわたって放送された後、2004年には香取慎吾が服部カンゾウを演じた実写映画も公開された。

2012年インドとの共作で新展開

そして12年、再び『NINJAハットリくんリターンズ』(以下、『リターンズ』)としてアニメ化が決定。そのきっかけは、81年制作のシリーズがインドでも放送され大人気を博し、フィナーレを迎えたことにある。その人気ゆえ、インドのハットリくんファンやテレビ局からも、もっともっと新作を! という熱烈なオファーが届いたのだ。そこで、新たなプロジェクトが発足、それが『リターンズ』の始まりだった。しかも、インドとの共同制作という思いもよらぬ形での復活だった。

この時『リターンズ』の監督を務めたのが、やすみ哲夫だ。やすみは75年に『まんが日本昔ばなし』でアニメーターとしてのキャリアをスタート。その後『つるピカハゲ丸くん』、『おぼっちゃまくん』などで監督を務めたレジェンドだ。『リターンズ』の監督を務めるにあたり、言葉も文化も違うインドのスタッフとの共同作業はどうだったのか。

やすみ哲夫/やすみてつお|昭和29年、東京都生まれ 。挿絵・イラストなどの仕事の傍ら、28歳の時スタジオあかばんてんに参加し、アニメーター活動をスタート。『つるピカハゲ丸くん』の他『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『あたしンち』などでも監督を務める

「(日本でも放送する前提だったから)脚本は日本語で日本向けに書くわけだけど、作画とかそういったところはインドに任せるんだよ。でも、やっぱり通じないところもあるんだよね。たとえば”こんにゃく”が通じない…だからそういった時は写真を向こうに送ったりして、一つずつ説明してやってもらったんだよ」

当たり前と思っていたことが通じないというエピソードは、話を聞くだけなら大変興味深いが、実際の作業ではなかなかの苦労であったに違いない。

「向こうで上げてきたラッシュ(チェック用の動画)を確認するとね、洗濯物とかがカラフルなんだよ」

日本だと洗濯物の表現にしても、白いシーツとTシャツ、ズボンぐらいで、色は白と他一色程度だが…。

「そう、そういったところも少しずつ説明していって、最終的には絵を描く部分に関してはほとんど向こうに任せる形になったね。楽曲(作品中で使用されるBGM)も動画がすべて完成してから、動きに合わせていちいち収録するという、ディズニーのようなやり方だったんです。でもそれだと時間も、費用も、ものすごくかかってしかたない から、日本式で、いくつかの音楽を作っておいて、シーンに合わせて曲を使うというやり方でやってもらいました」

生活ギャグマンガだからウケた!

『リターンズ』は、インドでの12年の放送開始から制作が続いており、最近ではインドで制作・放送されていた新作エピソード が、日本でもネット配信などで公開され続けている。

これは意外と言っては変だが、インドで大人気であるということだろう。その理由をやすみはどう思っているのだろうか。

「それまでの忍者ものは、アクション要素が強いものばかりだったんだよね、でも、ハットリくんはそうじゃなかった、そういう作品はあんまりないんで、そのへんがピタッとハマったんじゃないかな?」

藤子不二雄作品のおもしろさである”生活ギャグマンガ”のよさが、インドでもウケたということかもしれない。
この『リターンズ』に限らず、長年アニメ監督を務めたやすみはマンガをアニメ化するという作業について、どんな思いで制作を行っているのだろうか。

「アニメ化というのは原作のマンガに動きや音や、そういった要素を加えていく作業だけど、その辺は全くの創作ということになってしまう。たとえば、『おぼっちゃまくん』の”ともだちんこ”なんて、細かな動き方や言い方なんかは原作に書いてあるわけじゃないからね…」

原作のよさを活かしつつ、アニメとしてのおもしろさを最大限に引き出せるように考えるのが演出のおもしろさ、難しさ、というところだろう。

「そういうのは全部、監督が一人で考えるんじゃなくて、声優さんのちょっとしたひと言を採用するとか、スタッフや出演者全員で、みんなで作ってた感じだったね。たとえばハットリくんの『ニンニン』っていうのも、声優の堀(絢子)さんがとっさに発した言葉だったそうだけど、それがアニメに採用されて、その後、マンガでも使われるようになったらしいからね」

アニメ化されることによって、原作マンガも進化するというのはファンとしては、とてもうれしいことではないだろうか。

「『リターンズ』は、旧作と一緒に放送されるということだったので、基本的に旧作のアニメの雰囲気からは大きく変わらないようにした。ただいろいろと演出上で気をつけたことはあって…たとえば、忍術が魔法みたいに見えないようにするというのが大切で。煙もくもくで消えるんだけど、忍術だから本当に消えるわけじゃなくて、煙が出てる間にどこかにいって隠れる。で、お尻だけ見えてるみたいな、そういう”忍術らしさ”が出るように気をつけましたね」

空を飛ぶ表現にしても、スーッと浮かぶのではなく、凧で風に乗って飛ぶという、いちいち人間くささが伴う、それが忍術のおもしろさでもあるし、『忍者ハットリくん』という作品のおもしろさでもあるということかもしれない。

アニメの表現はどう変わってきたのか

70年代から、アニメ制作の現場に携わってきたやすみ。そもそもアニメにおける演出のやり方、制作などはどんな風に変わってきたのだろうか。

「昔はフィルムでセル画を撮影していたけど、それがビデオに変わった時、止まっているシーンでピタッと絵が停止するんだよね、最初はそれがなれなくてね、違和感があった(笑)」

今、アニメ制作はほぼデジタルでの政策に切り替わっている。その前段階として、フィルムからビデオへの変化というのもかなり大きな進化だった。

「そう、昔はね、フィルムを切って接着剤で貼ってやってたけど、今はパッパッパーとできちゃうもんね。その方がいいよね。でも、色がなんかね、冷たい感じするよな。でもまぁそれは慣れなんだろうけど」

アニメ制作の今と昔を比べると、どんなところがガラッと変わったのだろうか。

「たとえば、フィルムの頃は、閃光表現(別名・透過光表現。セル画の後ろから光を当ててフィルム撮影する手法)は使う回数が限られていて、なぜならフィルムを撮影する台を一旦バラしてからの撮影となるから。でも今はそんなことしなくてもどんどん使える。逆にセルの後ろに銀紙を貼り付けて撮影してみるとか、そういう実験的な演出は今はやらなくなったね。あとはコップをテーブルにドンと置いた時に小さく震える、そういう細かな表現が、デジタルでは難しかったり…。でも、演出の表現方法は常に試行錯誤を繰り返し考えていて、それは今も昔も変わらないかな」

進化というと、良いか悪いか見たいな話になりがちだが、そうではなく、常にどんな表現ができるかを考えているという。

「本当に今のアニメ作品はレベルが高いし、よくできていると感心する。ただね、まさかアニメがこんなに世界中でウケるとは思わなかったよ(笑)」

今や”世界のアニメ”だ! しかし、やすみは世界に打って出るといったような気持ちはさらさらなく、ただ目の前にある仕事を精一杯こなしていたという。「それが良かったのかな」と、やすみは笑顔で語っていた。

『忍者ハットリくん』はこうして作られている!

1.アニメ化は創作に近い作業

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

声や動きといった部分を付け加えていく作業は、原作があるとはいえ創作に近いクリエイティブな能力が要求される。たとえば、お母さんをなんと呼ぶのか、母上か? ママ上か? といった細かな設定は、原作者に聞いても「ちゃんと整理してなかったよ」と。そこは任せるというスタンスだからこそ、演出の力の見せどころだったそうだ。そしてインド版では、ハットリくんのふんどし姿にモザイクがかかるという文化的な違いを感じさせるケースもあったとか。

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ
©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

2.生活ギャクマンガという設定が根幹に!

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

『オバケのQ太郎』から続く、藤子作品の特徴の一つ”生活ギャグマンガ”の系譜を受け継ぐ『忍者ハットリくん』。日常のなかに非日常的な存在というテーマは背景画の設定でも真摯に描かれている。『リターンズ』でもその基本路線は変わっていない。日常を描くという点においては、携帯電話などの機器も登場し、時代の変化にもしっかりと対応している。

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ
©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

3.最も思い入れのある「走れ獅子丸でござるの巻」

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

今日こそは決闘で決着をつけると意気込む獅子丸と影千代。しかし、影千代が穴に落ちて岩に尻尾がはさまれ身動きがとれなくなる。獅子丸は救援を求め一旦家に戻っていく。途中で大好物の誘惑などに遭うが、抗い、葛藤しつつも助けに行く…というエピソードだ。この回では、穴の中で身動きがとれない影千代を助けるため、雨のなかを必死に駆ける獅子丸と、窮地に追い込まれた影千代をフラッシュバックの手法で表現したシーンが印象的。やすみ監督は『走れメロス』でセリヌンティウスを助けるために必死に走るメロスをイメージして演出したという。

©藤子スタジオ/テレビ朝日・シンエイ

(出典/「昭和50年男 2023年7月号 Vol.023」)

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