ミュージシャンとともに悠久の時を過ごしたヴィンテージギターの世界。

誕生した後、幾人かのオーナーによって紡がれたヴィンテージギターに宿る記憶。1本、1本異なる傷やクラックが、それぞれのストーリー、そして歴史を雄弁に物語る。ヴィンテージギターは歴史を所有すること……手にすれば、それを実感できる。

時を刻んだ楽器だからこそ奏でられる唯一無二の音色。

ギター作りの技術は経験の蓄積、工作機械などの発展やPCの導入もあり、現代の方が精巧に作ることができる。しかし、ヴィンテージギターの人気は衰えるどころか増すばかり。

ギターに興味のない方は、その理由を骨董的な価値だと思うかもしれない。もちろん、それも理由のひとつ。しかし、本質的な理由はそこではない。なぜならエレクトリック・ギター黎明期と言える1950年から’60年代にかけてのモデルを、今でも世界のトップ・ミュージシャンが愛用している。

これはヴァイオリンで有名なストラディバリウスに置き換えればイメージしやすいが、古い楽器でしか得られない音色やフィーリングがあるからだ。それはミュージシャンにとって、インスピレーションの源となる。

ヴィンテージギターを所有したことがある人はわかると思うが、使われてきた楽器には歴史が刻まれており、鳴りやすいもしくは鳴りにくいポジションがあったりもする。けしてヴィンテージギターは万能で使いやすい楽器ではない。

しかし、経年変化や使い込まれることにより無駄な帯域が削ぎ落とされ、唯一無二の音を奏でる。そしてボディに刻まれた傷やクラックから生まれるオーラが感情に訴えかけてくれる。そこから得られるフィーリングはクリエイティビティを刺激し、新しい音楽を生む大きな力となる。それこそがヴィンテージギターの魅力なのだ。

Gibson 1953 les paul Model

1952年にギブソンが初めて世界に発表したソリッド・エレクトリック・ギターであるレスポール・モデルは、写真のようなゴールドの塗装が施された美しいモデルだった。この塗装にはブラス(※銅と亜鉛の合金)のパウダーが使われていたため、トップのラッカーに割れや剥がれが生じると、塗装が酸化し緑青(※銅が酸化することでできる錆)ができることがあり、それが独特の表情を生む。

樹脂性パーツのめくれ、ボディに吹かれたニトロセルロース・ラッカーのウェザー・チェック、塗料に使われたブラスのパウダーが酸化してできる緑青が経年変化の証。

Fender 1957 Stratocaster

ストラトキャスターは、先に紹介したレスポールと共にエレクトリック・ギターを代表するモデル。レオ・フェンダーが創業したフェンダー社が1954年に発表したモデルで、’59年途中までは、ネックに1ピースのメイプル材が使われていた。これは弾き込むと指板の塗装が剥がれ、写真のように黒く汚れが残る。当時はこれが不評だったが、現在ではヴィンテージらしいルックスとして好まれている。ちなみに、このグリーンの塗装は極めてレア。

Fender 1970 Stratocaster

ここまで激しく使い込まれたヴィンテージギターは探しているファンも多く、近年は人気でなかなか店頭に並ばない。ボディはオリンピック・ホワイトと呼ばれるフィニッシュで、経年変化でクリーム色へと変化している。下地のブラックはこの当時の下地で、“ダブル・レイヤー” と呼ばれるフィニッシュとは別物。ダブル・レイヤーとは、元々サンバーストなどに塗られていた個体を、何らかの理由で上から別の色に塗り直されて出荷されたギターだ。

(出典/「Lightning2023年2月号 Vol.346」)

この記事を書いた人
Lightning 編集部
この記事を書いた人

Lightning 編集部

アメリカンカルチャーマガジン

ファッション、クルマ、遊びなど、こだわる大人たちに向けたアメリカンカルチャーマガジン。縦横無尽なアンテナでピックアップしたスタイルを、遊び心あるページでお届けする。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

Pick Up おすすめ記事

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...