その時代の空気感や、羽織った時の感動までをも忠実に再現。
“AMERICAN VINTAGE”をベースに商品展開をおこなうブランドにとって、ヴィンテージの解析は、避けては通れない道である。当時、どのような素材で、どのように作り上げていたのか。そこを明らかにし、現代の技術で再現し、現代に甦らせる。デニム然り、レザー然り。高額なヴィンテージデニムを切り刻んで糸の撚り具合を調べたり、レザーを燃やして鞣しや仕上げの方法を調べた者もいる。あらゆる素材でヴィンテージの検証は行われているが、実はデニムやレザーとは違う意味で再現性が難しいのが、ウールだと言われている。
なぜか。半世紀以上前はウール自体が貴重だったこともあり、紡績のタイミングでウールの再利用がおこなわれていることが多かった。そのため、生地の解析難易度が高かったり、また生地を織る機械自体が世界的に稀少で、そもそもそれをメインテナンスできる人材も乏しかったりと、製品化にいたるまでの障壁が高すぎるのだという。さらに、例えそれらをクリアしたとしても、製品価格が跳上がる問題も軽視できない。
そんな難問に果敢に挑んだブランドがある。JELADO。アメリカの旧きよきプロダクツをベースにしながらも、単なる復刻ではなく、いまの時代の気分を取り入れることを忘れない唯一無二のブランドである。彼らを代表するプロダクツは数あれど、ブランケットのアイテム数、作り込み、こだわりは、彼らの独壇場と言っても過言ではない。
今回は、JELADOがブランケットに挑む現場にお邪魔して、彼らの執念とも言える思いを聞いてきた。
困難なのはわかっていた。でもどうしても作りたかった。
JELADOのブランケットは、尾州で作られている。
現愛知県西部と岐阜県南西部一帯を示す旧称である「尾州」。英国のハダースフィールド、イタリアのビエラと並ぶ世界三大毛織物産地のひとつとして知られるエリアである。この地域は木曽川、長良川、揖斐川の水源に恵まれていたこともあり、旧くは弥生時代から生地作りがおこなわれていたという。
同エリアで毛織物の生産がはじまったのは明治時代。国内の軍服需要に伴い本格的に羊毛の輸入が開始された時期だ。尾州で生まれた製品がなぜここまで国内外での評価が高いのか。その理由は、紡績、撚糸、染色、製織、編立、整理加工の全工程がエリア内で完結し、尾州自体がひとつのファクトリーとして成立しているところにある。1世紀以上の時を経て蓄積された各プロフェッショナルの技術と、それぞれの密な連携で、他にはできない品質の毛織物を生み出してきたのだ。
JELADOがヴィンテージを現代に甦らせるにあたり、生地のディレクションのサポートをお願いしているのは今も旧きよき時代のモノづくりをおこない続けている日の出紡織。生地が生まれるまでの工程はまず、JELADOが保有する幾数ものヴィンテージサンプルや、日の出紡織が保有する、19~20世紀につくられた膨大な数の世界中の生地見本をもとにスタートする。そして、ベースとなるヴィンテージが決定したら、実際に貴重なヴィンテージを分析し、当時の作り方を再現すべく各工程のプロフェッショナルとともに生地の解析がはじまるのだ。
JELADOのブランケットは、こうして作られる。
生地をつくる上で最初におこなわれ、最終的な仕上りへの影響が大きい「紡績」、すなわち糸をつくる工程である。ウールの場合、主にスーツなどに使用するために細く長い毛を利用してつくられる「梳毛糸(そもうし)」と、より厚手のウール地をつくるために短い毛を使ってつくられる「紡毛糸(ぼうもうし)」に分かれるが、JELADOで依頼しているのは、ヴィンテージウールと同じく起毛しやすく保温性に富む「紡毛糸」。ちなみに「紡毛糸」の製造ができるファクトリーは国内では約20社程度しか残っていない。
ここ三河紡毛の代表、濱谷氏いわくヴィンテージウールを再現するにあたっての最も困難なのが、生地の解析であるという。
「半世紀以上前はウール地の存在が希少だったこともあり、績段階でリサイクルされたウールが含有されていることが多いんです。だから、それを現代に甦らせるとなると、まずはベースとなるウール自体にどんな色のどこ産のどんな羊毛がそれぞれどのぐらい含まれているのかをコンマ1%以下まで調べなければなりません。
我々はそれらが生産された場所・年代から、当時の羊毛の物流状況を調べた上でアタリをつけながら解析を進めますが、それはもう途方もない作業ですね(笑)特にJELADOさんのように細かなオーダーは大変ですが、我々としては最も技術的に差別化をはかれるところでもあるので腕が鳴りますね」
ウールができるまでの工程は、主に4つに分かれている。羊毛を選別し均一にブレンドしながら開毛、調合油を添加する「調合」、調合された羊毛をローラーで回しながらムラのないミルフィーユ状の毛膜をつくり、「篠」と呼ばれる繊維の束にする「カード」、「篠」にミュール精紡機で撚りを入れて糸にする「精紡」、ミュールからあがった糸を織りや編みがしやすいように1㎏ほどの大きさに巻き替える「ワインダー」だ。
撚りと巻取りを同時におこなうリング精紡機を使用した紡績方法が主流な現代において、あえて生産効率の悪いミュール精紡機を使用して紡績をおこなうメリットは、幾種類ものタイプの違う羊毛をブレンドできることと、仕上りがヴィンテージのようにソフトで膨らみのあるものになることなのだろう。
次は紡績された糸を染め上げる「染色」の工程。糸の質感を損なわず、絶妙な色出しを行うことは非常に難しく、高い技術力が要求される。まずおこなうのは色の調合。幾数もの染料をまずは小さなビーカーで調合し実際に糸を染め上げる作業を何度も繰り返すところからはじまる。
この際に重要なポイントは、染色ファクトリーでは実際に熟練の職人が「目視」で色を整えている、という点。彼らの目に映るヴィンテージサンプルのカラーの表情を言語化することは非常に難しい。ある程度のヴィンテージへの造詣がなければなしえない、膨大な時間を要する工程なのだ。
色の調合・調整が終わった後、いよいよ大量の糸を染色する工程にうつるわけだが、ビーカーでおこなった調合をその数十、数百倍でおこなうのも至難の業なのだとか。その日その場所の気温、湿度によって色味が変わってしまうだけにここに職人の経験値が存分にいかされるのだ。
糸が織られ生地となる、それが「製織」工程だ。紡績・染色工程と同じく、ここにも世界レベルで希少となったアナログな作業を行なっている。ここは、JELADOが依頼している大柄のパターンのブランケットを織ることのできるジャカード織機を有する日本でも数少ないファクトリー。
ジャカード織機で「織り」を進めるにあたってまず必要となるのが、タテ糸をボビンに巻きつける作業。それに丸1日、さらに3200本ものタテ糸を織機にセットするのに丸1日、ここまできてやっとセッティングがほぼ完了となる。
ちなみに、たとえこの織機があったとしても、このセッティング作業ができる人が日本にほぼいないとのこと。糸の組付けが終わった後はジャカード織機の最大の特徴ともいえる「紋紙」をセットする。ただ再現する柄や色数によっても設備が変わるため、何処でも同じものが織れるとは限らない。
ジャカード織機で1日に織れる生地の長さは織機の調子が良くても20m程度なのだとか。タテ糸が切れたりヨコ糸がなくなったりして度々織機自体が止まるといったこともその要因として挙げられるが、その最大の理由は織りの速度。ヴィンテージのようなふっくらとした質感を出すためには、低速で織機を回すことが必須なのだという。
生地の上に型紙を配置していく。一見すると簡単そうに見えるものの、製品として仕上がった際にしっかりと柄合わせが成立するように型紙を置いていかねばならないので非常に難易度が高い。3次元の複雑な縫製イメージと2次元の裁断イメージを同時に頭の中で描きながら、柄合わせを考慮したパーツ取りを考えていく。
JELADOの生み出すプロダクツは、ただ「模倣」を目指しているのではない。当時のプロダクツにリスペクトを払いながらも、「現代の製品」としてのクオリティを追い求めている。ブランケットにしても、愚直なまでに精度の高い「柄合わせ」が行われている。生地の取り都合は悪いし、技術的にも難易度は格段に高くなる。しかし彼らは、決して妥協しない。全ては、手に取った人の満足のために。
JELADO BLANKET Selection
いまや消えつつある伝統技法で、かつてのウールブランケットを今に伝えるJELADO。ネイティブアメリカンが愛した、その想いまでもモノ作りに注ぎ込んだ彼らのプロダクツを実際に体感していただきたい。彼らの作り上げるブランケットの凄みに気づくはずだ。
Crow Gown
もしもネイティブアメリカンで実在したクロウ族がブランケットを売買していたら、という仮説のもとに作成した、ジャカード織機で織り上げたオリジナルの国産ブランケット生地を採用。1920 ~’30年代のブランケットガウンをベースにフロントボタンにアレンジを加えた。121,000円
Brighton
色数が多く複雑な柄を表現するために約2年試作を繰り返して完成したネイティブブランケット。ヴィンテージの雰囲気を再現したポケットの形状や、1930年代にあったA-1タイプのブルゾンをベースにした猫目シェルボタンなど、細部にまでこだわり抜いた1着。110,000円
Pueblo Vest
以前にコートを展開した別注のブランケットボーダーを使用したベスト。フロントの見返しやポケット周りのパイピング、水牛ボタンなどの装飾で、クラシカルかつ高級感のある佇まいに。生地は1940年代に作られていたブランケットの配色をアレンジして製作した。55,000円
Sitting Bull
何年もかけて1940年代以前のチマヨ生地を再現するために、生地商と産地を巡り、ようやく完成した、ネイティブ柄のブルゾンタイプのチマヨジャケット。素材、織り、デザイン、仕上げ、全てにこだわったJELADO渾身の一着。両サイドにはアジャスターベルトが付く。85,800円
Salem Crosby Jacket
1920年代以前のスモーキングジャケットをベースに、セーラムブランケットの生地で仕立てた意欲作。ショールカラーを持つサックコートの様な襟のデザインが特徴的で、ファッショナブルで個性的な、JELADOらしい一着に仕上がっている。11,880円
【DATA】
JELADO FLAGSHIP STORE
Tel.03-3464-0557
https://jelado.com
※情報は取材当時のものです。
(出典/「CLUTCH2023年11月号 Vol.93」)
Photo by Takuya Furusue 古末拓也 Seiji Sawada 澤田聖司 Norihito Suzuki 鈴木規仁
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