伝統を大切にしつつも革新や問題提起を行い、挑戦し続ける多摩の酒蔵。
「パティシエになりたかった」
多満自慢の文字が描かれた半纏を羽織り 、驚きの言葉を発したのは、石川酒造の杜氏を務める前迫晃一氏だ。彼が酒造りの道を進むきっかけとなったのは、当時、パティシエの夢のために通っていた高校の食品科での発酵の授業だった。砂糖水と酵母で酒が造れる。その事実を知った時から発酵の虜となり、のめり込んでいく。
ほどなくして、酒造りの総本山でもある醸造所の門を叩いたのは、東京でも指折りの歴史を持つ石川酒造だった。アルバイトとして入社し、大学在学中も日本酒について研究。杜氏を任されるようになったいまでも発酵マニアっぷりに拍車がかかっている。
「本来、酒造りに使用する米は、酒米と言われる酒造り専用の米を使うのがセオリーで、いわゆる私たちが、普段、口にする食用米を酒作りに使うことは、酒作りに適していないことから、邪道とされるんです。でも本当にそうなのか? 美味しい米からご飯に合う酒は造れないものか。そう考えて、食用米を使って美味と言われる酒を作ってみたいと思うようになりました。
私としては、継承すべき伝統も大切ですが、そのためには革新や問題提起は重要。酒造りには、もっと挑戦が必要だと思っています。何よりも私自身、発酵が面白いから、試しているんですけどね」
【DATA】
石川酒造
東京都福生市熊川1番地
Tel.042-553-0100
営業/8:30~17:30
休み/土日祝
https://www.tamajiman.co.jp
(CLUTCH2022年2月号 Vol.83)
Photo by Masahiro Nagata 永田雅裕 Text by Tamaki Itakura 板倉環
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