SABAEたらしめる圧倒的なクオリティ
「21歳の頃から、かれこれ30年以上この業界に携わり、デザインを手掛けてきたほぼすべてのメガネを鯖江の職人たちと作りあげてきました。ただ個人的には、おそらく鯖江と、それ以外の地域で作られるメガネに大きな特色の違いはないと考えています」
最初から予想外の言葉に驚かされたが、では鯖江独自の強みは存在するのだろうか。
「ひとえに“工場ごとに異なる強みがある”ことと、その“工場同士が密接な関係にある”ということではないでしょうか。そもそもひと口にメガネ作りといっても、工程は多岐にわたります。鯖江には仕上げ屋、テンプル屋、フロントの削り屋など、各工程のスペシャリストが集っている。当然メタルかプラスチックによっても得意とする工場は異なりますが、仮に同じ素材だったとしても、丸みを出すのが得意なのか、角を立たせるのが得意なのか、美しく磨くのが得意なのか、アジを出すのが得意なのか……、各工程を担う工場ごとに強みが異なっているんです。
だからこそ私自身も、“このモデルはこうしたいからこの工場に”と、仕上げたいデザインによって製作をお願いする方々を変更することもあります。もちろんそれには、取引先を一社に傾倒した場合のリスクを分散するというビジネス的観点も作用していますが、それ以上に各工場ごとに異なるノウハウがあり、それを互いに伝達しあって常にアップデートを繰り返すという、鯖江のメガネ産業そのものを信頼しているからかもしれません」
鯖江には独自にノウハウを蓄積した職人が集い、それを伝達し合う土壌がある
そもそも鯖江におけるメガネ作りの起源は1905年。雪が深く農業以外に目立った産業がない同地の暮らしを向上させるため、“国産メガネの祖”と称される増永五左衛門が、大阪から職人を招き、農家の副業として広めたことから始まったとされている。
職人たちは腕を磨き、互いに競い合うなかで分業独立が進み、やがて各々の工場が各工程のスペシャリストに育ち、互いにコンタクトを取りやすい密接した地域に集結することとなった。こうしておよそメガネ作りにおいてこれ以上ないほどの土壌が完成し、現在鯖江メイドのメガネは、国内シェアの約9割を占めるまでに醸成されている。
そしてこの地で作られるメガネのクオリティは、欧米諸国の洒落者たちの目にも留まり、巡り巡って昨年大いに話題を呼んだ、「ジョルジオ アルマーニ」と「ユウイチトヤマ」とのコラボレーションへと繋がっていくこととなった。
「『ジョルジオ アルマーニ』というブランドは、ことアイウエアにおいて長らく母国イタリアメイドにこだわってきました。ではなぜ今回初めて鯖江でメガネ作りすることになったのか。さまざまな要因があるとは思いますが、大きな理由としては、純粋にクオリティの高さを求めたからではないかと想像しています。とくにチタン製品に関しては、世界中のメガネ業界人の間で“SABAE”、もしくは“FUKUI”という名前は、世界屈指の名産地と同義。彼らもまたこの地で高品質なアイウエアを生み出すことを模索し、それなら鯖江に熟達した日本人デザイナーと一緒に物作りできないかという流れで、お声がけいただけたようです」
モードの帝王とも称されるファッション業界のレジェンドをして惚れ込む、鯖江の実力。外山さんいわく、それは「結局“人”なんだな、と。鯖江の職人には、他の多くの国の職人たちにはない、物作りに対しての繊細な配慮がある。デザイナーと対話し、意図を汲み取って、より優れた製品を形にしようとしてくれるんです。
近年では機械の進化も目覚ましく、困難だった作業もどんどん容易になっています。デザイナーとしては、機械だけでは替えのきかない職人たちの可能性を引き出すようなデザインを考案し、職人の、ひいては鯖江のメガネ作りのレベルを向上させる一助になっていきたいです」
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「2nd 2024年4月号 Vol.203」)
Photo/Ryota Yukitake Styling/Shogo Yoshimura Hair&Make/Miho Emori Text/Shuhei Takano
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