初心者でも安心! 万年筆の選び方。
無限の選択肢から、ぴったりの1本にたどり着くのは簡単ではない。予算とグレードを定め、何に使うか考え、自分の書き方を確認したら、あとは実際にお店で試し書きをしてみよう。見た目も書き味もしっくりくる万年筆に巡り合うための4ステップをいざ実践!
【ステップ①】予算とグレードを定める。
本体200円から1億円超まで万年筆の価格は千差万別。予算によってどのようなモデルを購入できるのか知っておきたい。安いもので万年筆に慣れてから、本格スタートするのもあり。最初から良いものを選んで大事に使うのもあり。いくらぐらいが妥当という基準はないのだ。
とはいえ、予算とグレードに関わる大きな選択ポイントとなるのがペン先の素材。金ペン先は比較的高価だがメンテナンスすれば半永久的に使え、書き味がどんどん向上する楽しみがある。一方スチールペン先は比較的リーズナブルで、書き味もある程度までなじむが寿命があると心得ておきたい。
金ペン先とスチールペン先の特徴と比較
金ペン先 | スチールペン先 | |
耐久性 | かなり腐食しづらい | 錆びる可能性がある |
弾力 | 弾力がある | 硬めの感触 |
修理 | 修理・調整しやすい | 修理・調整しずらい |
価格 | 高め | 安め |
例えば、万年筆が自分に合うのかを試すトライアルなら、本体5000円以下のスチールペン先モデルを選べばいいし、金ペン先の万年筆をお手頃価格で手に入れたいのなら海外ブランドではなく国産を選び、1~2万円もあれば万年筆の醍醐味を手にできるはずだ。
もちろん、最初から持つ喜びもしっかり感じられるモデルを選び、大切に使うのもすてきな選択だ。5万円以上なら軸やトリムに上質な素材を使った金ペン先の万年筆が豊富にあり、こだわりの1本が見つかるだろう。
▼金ペン先の刻印の読み方もチェック!
【ステップ②】何に使うか考える。
店頭で最初の1本を選ぶなら、細字のペン先で定番の中軸をすすめられることが多いだろう。細字は筆圧が強くても、ねじり書きしてもインクが途切れにくく、定番の中軸は多くの人に合う筆記バランスをしているからだ。扱いに慣れた2本目からは、「何に使うか」の用途を定め、それに合うペン先や軸の太さを知り、好みのモデルを楽しもう。
▼字幅の種類と特徴についてもっと詳しく知るならこちらの記事もチェック!
【ステップ③】自分の書き方に合うペン先を知る。
筆圧や書き癖が強くても無理に矯正することはないが、万年筆はモデルによって最適な筆圧が異なる。両者が合わないとペン先が曲がったり、ペン芯とペン先が離れてインクが出なくなることもある。自分の好みと書き方を知り、マッチする万年筆を選びたいところ。
使い慣れていくと筆記角度は小さくなり、筆圧は下がる傾向がある。最初に選んだペン先が書きにくいと感じたら、自分の書き方が変化したのかもしれない。力の入れ加減や角度などを調整して合わせよう。最近では筆圧を極端に低くし過ぎる人も多いそう。ペン先の調子に合わせて適度な筆圧で書く、という姿勢ならばマッチするペン先は各段に多くなるはずだ。
一般的な万年筆の書き方とペン先の好み(合うペン先)
筆記角度 | 握る位置 | 筆圧 | 筆速 | 文字の大きさ |
ペン先の好み(合うペン先)
|
80度 | ペン先にとても近い位置 | 強い | 速い | 小さい | 細字/硬調 |
70度 | ペン先に近い位置 | やや強い | やや早い | やや小さい | 中細字/硬調 |
60度 | ペン先よりやや離れたところ | 普通 | 普通 | 普通 |
中細~中字/中庸なもの
|
50度 | 胴軸の中間に近い位置 | やや弱い | やや遅い | やや大きい | 中字/軟調 |
40度 | 胴軸の後部 | 弱い | 遅い | 大きい | 太字/軟調 |
※参考資料:『改訂新版 現代筆記具読本』文研社
筆記角度80度はほぼ紙に対して垂直に万年筆を持つような方が当てはまり、40度になるとだいぶ寝かせて文字を書く人が当てはまる。
【ステップ④】購入前には、試し書きをしよう。
さあ、予算と目的、自分のクセを見極めたら、次は店頭へ向かい、いざ試し書きだ。ここでは試し書きする時のポイントを紹介する。
前提となるのは、きちんと試し書きや書き比べができ、相談に乗ってくれる店員がいる店を選ぶこと。また万年筆売場の試筆用紙は万年筆との相性が良い上質紙が多いので、自分が普段よく使う用紙や一般的なコピー用紙などを持参して、試させてもらうのもおすすめだ。
試筆はほとんどの場合、軸内にインクを入れるのではなく、ペン先をインクに浸けただけの”付けペン状態”で書くが、これでインクフロー(インクの出る量)を判断するのは難しい。付けペン状態で試筆する際は、たいてい店員さんがペン芯(ペン先の裏側の部分)の余分なインクを拭ってから渡してくれるが、不十分な場合はさらにお願いして吸い取ってもらおう。それから試し書きすればインクフローがよりわかりやすく、書き心地を正しく判断できるはずだ。
人の視線を感じながらの試筆は緊張してしまうものだが、焦らず気取らずリラックス、いつもの書き方で試せるよう平常心で行いたい。
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初心者にもおすすめ! 万年筆「カクノ」ってどんな万年筆?
パイロットから出ている「カクノ」。2013年に子どもでも気軽に使える万年筆として発売され大ヒットしたことで耳にしたことがある方もいるのでは? 優れた書き味から、現在では大人も愛好家もこぞって使っている人気の万年筆だ。とにかく万年筆に触れてみたい、1000円台でお小遣いで買える万年筆を探している、そんな方にもおすすめの1本だ。
万年筆の使い方・握り方。
多くの筆記具の中で、万年筆の大きな特徴は筆圧がほとんど不要であること。なので万年筆を握る時は、リラックスして力を入れすぎないようにするのがポイント。箸を持つ時のような感覚で脱力しよう。リラックスして文字を書くことで、筆致にも個性が表れてくる。
万年筆の持ち方は原則として自由だが、筆圧がほとんど必要のない万年筆であるからこそ注意も必要。油性ボールペンで書く時と同じような感覚で強い筆圧をかけると、ペン先が左右に開いたまま戻らなくなったり、全体が湾曲してしまうことがある。万年筆の重さを利用して、余分な力を入れずにリラックスして書くように心がけよう。
「手や指をリラックスさせる」「ペン先のハート穴が真上を向くように握る」「筆圧は左右均等にかける」この3つを意識しておけば、初心者でも万年筆を使いこなせるはずだ。
筆記角度もチェック! 約60度が目安。
万年筆は立て気味でも寝かせても書けるが、使い始めは約60度を基準に微調整しながらベストポイントを探ってみよう。万年筆に手が慣れたら、小さい文字を書くときは立てぎみ、太めの文字をおおらかに書く時は寝かせぎみにするなど、書きたい筆致に合わせて角度を変えて試してみよう。
▼万年筆の仕組みや各部位の名称も押さえよう!
万年筆インクの種類と入れ方。
万年筆で使うインクは、ボトルとカートリッジの2種類あり、それぞれに対応した万年筆がある。このほかどちらのタイプのインクも使える両用式の万年筆というものもある。ちなみに両用式は、カートリッジインクをそのまま挿すだけでなく、吸入機構を持つコンバーターを取り付ければボトルから吸入することができるようになる万年筆だ。
ボトルインク
ボトルインクが使えるのは、吸入式万年筆と両用式の万年筆で、カートリッジ式の万年筆では使えない。ボトルインクの魅力は、その色数の多さ。またカートリッジ式に比べて容量も多く、コストパフォーマンスにも優れている。吸引の機構には様々な種類があるが、現在一般的なのは「回転吸入式」。その名の通り、万年筆の軸内に内蔵したピストン機構を回転させてインクを吸い上げる方法だ。
イラストのように、尻軸を回転させて吸入機構内部のピストンをペン先側にめいっぱい下げてから、ペン先のハート穴がインクにしっかり浸るようにボトルにしっかり入れ、尻軸を逆方向に回転させてピストンを上げてインクを吸引する(吸入量が少ない場合はこれを数回繰り返す)。吸入量が十分になったら、ペン先に付いた余分なインクを少しだけボトルに戻し、ペン先やペン芯に付いたインクをきれいに拭き取れば完了だ。
カートリッジインク
カートリッジインクはカートリッジ式万年筆と両用式の万年筆で使うことのできるインクだ。ボトルインクに比べて手軽で持ち運びが簡単、カートリッジを差し込むだけなので外出先でも場所を選ばず交換でき、インクの吸入で手が汚れにくいのが魅力だ。だが、容量が少ないので交換の頻度は高くなり、コストパフォーマンスはボトルインクにやや劣る。
首軸から胴軸を外し、ペン先を上に向けて空のカートリッジを抜く。そのままイラストのようにペン先を上にしたまま、新しいカートリッジをまっすぐにしっかりと挿し込む。胴軸を元に戻せば交換は完了だ。
▼もっと詳しい交換の手順や、インクにまつわる情報はこちらをチェック!
伝統と認知度で選ぶ3大万年筆ブランド「モンブラン」「ペリカン」「ラミー」とは?
現在では世界中に愛好家のいる万年筆だが、その進化の歴史の中心であったヨーロッパにおのずと歴史あるブランドは集中。万年筆愛好家ならずとも一度は聞いたことがあるようなブランドといえば、「モンブラン」「ペリカン」「ラミー」の3ブランドが挙げられるだろうが、いずれも文具大国ドイツ生まれのブランドだ。いまでは多くの万年筆が採用している回転吸入式の原型「ペリカン ファウンテンペン(100)」も1929年にドイツで誕生している。追ってみるとなかなか面白い万年筆の進化の歴史については下記記事も合わせて読んでみてほしい。
それでは、「モンブラン」「ペリカン」「ラミー」の特徴とブランドを代表するモデルを紹介しよう。
1.MONTBLANC(モンブラン)
モンブランは万年筆ブランドの象徴的な存在。マイスターシュテュック149、146は広く知られる王道モデル。天冠(キャップトップ)のシンボルマークは抜群の知名度を誇る。偉人をたたえたシリーズなど、ユニークなデザインの超高級万年筆もモンブランの魅力のひとつだ。
モンブランを代表する1本「マイスターシュテュック 149」
【問い合わせ】
モンブラン
www.montblanc.com
▼モンブランについてもっと詳しく知るならこちらの記事をチェック!
2.Pelikan(ペリカン)
1832年、ドイツのハノーバーに絵具工場として創業したペリカンは、1929年に最初の万年筆モデル100型を発売。以来、縦縞が特徴のスーベレーンなど数多くの名作を発表し続け、高品質なドイツ製万年筆を代表するブランドとして世界中で愛されている。
ペリカンを代表するシリーズ「スーベレーン」
【問い合わせ】
ペリカン
www.pelikan.com
▼ペリカンについてもっと詳しく知るならこちらの記事をチェック!
3.LAMY(ラミー)
C.ジョセフ・ラミーが、1930年にドイツのハイデルベルクで設立したブランド。さまざまな分野で活躍する世界中のデザイナーと力を合わせてデザインした、シンプルで機能的な名品を数多く生み出している。
ラミーを代表する1本「ラミー サファリ」
【問い合わせ】
LAMY
www.lamy.jp
▼ラミーについてもっと詳しく知るならこちらの記事をチェック!
▼もっと万年筆ブランドを知りたいならこちら!
「趣味の文具箱」編集部がおすすめ! かわいい&おしゃれな万年筆5選。
日本で唯一の文房具専門誌「趣味の文具箱」編集部のエレガント担当・井浦が、おしゃれ&かわいい万年筆を厳選セレクト! アンダー税込33000円で選びました。フォルムやデザインだけでなく、カラーやネーミングまで思わず「かわいい!」「素敵!」と声が出てしまう万年筆の数々。恋人や奥様へのプレゼントにも最適!
【おすすめ①】「カヴェコ」スカイラインスポーツのミント
新色が加わるたびに“収集” したくなる絶妙なカラーバリエーションのシリーズがある。カヴェコ スポーツは1911年から続く代表シリーズ。収納時約100mmのかわいいミニサイズと、絶妙なカラーでコレクションする人多数。豊富なモデルの中でも、スカイラインスポーツのミントがイチ押し。クラシックスポーツやスカイラインスポーツは万年筆、ローラーボール、ボールペン、ペンシル(0.7mm、3.2mm) の5種が揃うので、同じカラーで統一して持つ楽しみも。
【おすすめ②】「パイロット」エリート95Sのディープレッド
パイロットの「エリートS」は大橋巨泉のCMで覚えている方もいるのでは? 昭和43年に発売され、入学祝いや就職祝いの贈答品として人気を集めたショートサイズの「エリートS」の後継モデルとも言えるのがこちらの「エリート95S」。2代目の昭和49年モデルの設計をベースにした復刻版だ。本体の重さはたったの15g! ディープレッドは定番の黒に新たに加えられたカラーでこの色味が上品極まりない。どことなくレトロな佇まいで、まるで美しく整えられたネイルのようなペン先。さっと手帳から取り出したら、おしゃれすぎです。
【おすすめ③】「プラチナ万年筆」#3776センチュリーニースのロゼ
透明感のあるすりガラスと光沢のある深いカットのコントラストで南フランス「ニース」の光を表現したこの#3776センチュリーニースのロゼ。他のカラーも素敵ですが、断然ロゼ派。ピンクゴールドのような色合いが引き立ち、すりガラスとの相性も抜群。見れば見るほどエレガントな佇まい。どんなインクを入れるかも悩ましい#3776センチュリーニース。間違いなく旅のお供にしたくなるステキな1本です。
【おすすめ④】「ピナイダー」アヴァター ウルトラレジンのエンジェルスキン
マーブル模様がかわいらしいエンジェルスキン。お菓子のようなスイートでガーリーな見た目が◎。持っているだけで女子力がアップしそう。それでいてウルトラレジン製のペン軸なので耐久性もあるので安心だ。キャップリングに刻まれたフィレンツェの街並みもポイント。
【おすすめ⑤】「セーラー万年筆」SHIKIORI―四季織― 雨音の霧雨
「SHIKIORI―四季織―」シリーズでは初となる21金ペン先を使用した万年筆。ボディはブラスト加工を施し、マットな質感が楽しめる。天冠と尻軸は半透明パーツにラメを散りばめ、かわいらしいアクセントに。季節を通じて徐々に移り変わる草木と、その草木にあたる雨や雨上がりの情景がテーマになっている。
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万年筆は非常に自由な道具で決して難しいものではない。ちょっとでも万年筆に興味があるのであれば、まずはお店に行って、自分の手に合う1本を選び、気軽に使い始めてみてほしい。
※情報は雑誌掲載時のものです。
(出典/「趣味の文具箱特別編集 万年筆とインク入門」)
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