アメリカ西海岸のカルチャーが詰まった雑誌として登場。
アメリカンカジュアル? あんまりそんな意識もなく、アメリカンブランドやアメリカンヴィンテージ古着に興味を抱いていった青春時代。やがて、実際にアメリカに行って、アメリカのスケール感や伝統文化など、とにかく目にするものすべてから刺激を受けて、アメリカンカルチャーに魅了されていった。
そんな感度ビンビンの年ごろに、突如現れたのが『ライトニング』という雑誌だった。トータルコンセプターの所ジョージさんのキャラクターと、テレビなどではほとんど取り上げられることのないアメリカ西海岸のカルチャーが、誌面の中で雑然と入り乱れている感じがした。
極めて個人的な意見だが、「行動したくなる」、まるで沢木耕太郎の『深夜特急』を読んでいるような不思議な感覚を持った。号を増すごとにごった返した独特の雰囲気が盛り上がりを見せる。雑誌でありながら、タレントの素顔が紹介されるテレビ番組的な構成も他にはないものだった。
初期のライトニングは、この「ノリの良さ」という独特の個性があった。ノリと勢いが増すと、時々何を言っているのかわからない、意義を問うてはいけないような記事も魅力だった。考えて読んだらいけない雑誌。冷静になったら負け! みたいなところがあり、眺めて楽しいエンターテインメントを雑誌で実現した。
時代に応じて変化していく「ライトニング」。
所ジョージさんが離れ、ライトニングの一つの時代が終わった。創刊から7年目のこと。当代きっての大スターが誌面から消えると、ノリと勢いの勝負はできなくなってしまう。私、松島が編集部に加わったのがこの時代。幸運だったのか不運だったのか、ただの読者だった松島は、最初の6年間の内幕を知らない。先輩たちが築いたブランドを引き継ぎはしたが、同じ手法で雑誌を作る術を持っていなかった。
ブランドを汚さぬように、新しい雑誌を作らなければいけない。最初はずいぶん遠回りもしたな。企画を考えながら、先代の誌面をパラパラと眺める。結局、同じことはできないから、過去を振り返ることを止めた。ライトニングの未来を考えることにしたんだ。作り手は迷っていたのに、たくさんの読者がついていてくれた。「終わらせちゃいけない」ってそればかり考えていた。
世間の流れは、情報がどんどん得やすくなるし、タダで情報や知識を得られるのが当たり前の時代へ突入していく。ブームは雑誌が作るものだったが、雑誌がブームに乗っかるようになっていく。ビジネスで考えたら、それが正解だって事は百も承知。でも、それなら有料の商業誌なんて作るのはやめてしまったほうがいい。有益な情報をタダでバラ撒いていけば、時代感のある情報ビジネスができる。実際に、そうやって稼いでいる企業はたくさんあるぞ。でも、違う。じゃあ、ライトニングは何をすべきか? なんてことばかり考えていたっけ。
明確に考えてきたのは単なる雑誌の枠には収まらないコミュニティを作ること。家に行って、クルマを見て、服装を見て、持ち物を見て、「ライトニングに出てきそう」って感じさせる人々たちの会報誌でありたいって思うようになる。流行に敏感であるよりも、しっかり語れることがカッコいい! って言い切ってやろうじゃないか。ポンポンと新しい物を買うことよりも、何十年でも同じものを愛用し続ける人が偉い! って言い切ちゃおう。
この世界の住人にとって有益な情報をきちんとセレクトしていくのがライトニング編集者の責務だと決めつけた。「ノリと勢い」のエンターテインメントは天賦の才能が必要だけど、第二世代のライトニングにはそれがなかった。泥臭く、靴底減らして、自腹を切ってエンターテイメントを成立させるしかなかったんだね。
おかげで、経験豊富で、目の肥えた編集者が揃ったと自負している。読者とは同じ目線だけれども、ちょっとだけ旺盛な好奇心を持って、ちょっとだけ先を歩いて方向を指し示す。そんな雑誌を理想に掲げてきた。もうしばらくはこのスタイルは続けていくつもりだけど、私、松島はもうそんなに若くないので、先は長くない。自分がライトニングを引退した後のことを考えるようになった。
無理に考えや流儀を継承しようとは思わない。次の時代の事は次の世代が考えればいい。実際に、ライトニングは最初の頃といまでは、まったく違う雑誌になった、どこか同じ匂いは感じるかもしれないが。
人が変われば雑誌は変わる。願わくば、「ライトニング」というカルチャーが、不滅なものとして続いて欲しいが……。聞くところによると、最近の読者には、私たちと共に歩んだ読者のジュニア世代、つまり若い世代が増えてきているという。ありがたい。
紆余曲折、長くやって来れています。皆様のおかげです。節目って、いろいろ考えるキッカケになるな〜。(松島睦)
(出典/「Lightning 2024年5月号 Vol.361」)
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