なぜコルベットがここまで有名になったかというと、その誕生から現在まで、アメリカ製ピュアスポーツカー(2座でリア駆動のスポーツカー)と呼ばれる車種として脇目も振らずに歴史を積み重ねてきたから。
そんなコルベットについて記事にしようと思ったのは、先日お会いした60歳になるハワイが大好きだという紳士が、いつかは生まれ年の1963年式コルベットを所有したいという話をしていたから。
やはりコルベットはアメリカ好き、アメリカ車好きにとっては特別なクルマなんだと。ということでその歴史をちょっと紹介してみる。
今も変わらず2人乗りのピュアスポーツ道をひた走る姿勢はもはや文化。
アメリカ製ピュアスポーツカーの歴史は当然コルベットだけではない。かつてはフォード・サンダーバードやGT40、それにシェルビー・コブラ、現代ではダッジ・バイパーなどがライバルブランドからも存在したけれど、サンダーバードはピュアスポーツから4座のクーペに路線変更して、今や絶版。ダッジバイパーも多くのレースシーンでも活躍したけれど絶版に。GT40やシェルビー・コブラは大衆に向けて大量生産された車種ではない。つまり誕生から現在までアメリカ製2シータースポーツとして変わらず存在しているのはコルベットしかないのである。
そのきっかけは、第二次世界大戦時にヨーロッパに従軍した兵士たちが、現地に存在したコンパクトな2人乗りスポーツカー(MGやオースチン・ヒーレーなど)に触れ、その楽しさを自国でも味わいたいという思いがきっかけだった。
それまで大きなサイズのアメリカ車に、コンパクトで運動性能が高いという新たな基準で考えられたのがコルベットだった。
今でもそのコンセプトは変わることなく、高いスポーツ性能は変わらず作り続けられていることから、どの世代にもそれぞれのファンが存在し、現在でもクラシック・コルベットは高値安定。アメリカの魂だと表現する人もいるほど。世代とともにその歴史を見てみよう。
第1世代 1954-1962年 ”C1”
パチパチパチ。コルベットの誕生。量産車として初めてFRP(グラスファイバー)を採用して軽量化。初代は標準で「ブルーフレーム」と呼ばれる直列6気筒エンジンを搭載して生まれたけれど、翌年には大排気量のV8エンジンがオプション設定、翌々年にはV8エンジンのみというラインナップになったのがアメリカっぽい。流麗なボディラインは1950年代ならでは。後期型は丸目4灯にマイナーチェンジする。
第2世代 1963-1967年 “C2”
コンセプトモデルだったスティングレーレーサーのデザインを量産車に落とし込んでフルモデルチェンジしたC2。直線のなかに曲線でアクセントを持たせ、フロントは回転式のリトラクタブルヘッドライトになった。C2初代の1963年式のクーペはリアウィンドーが2分割された「スプリット・ウィンドー」で、翌年からワンピースに変更されるので、’63年式クーペはクラシック・コルベットのなかでも特別なモデルとしてコレクタブルなモデルになっている。
第3世代 1968-1982年 “C3”
C2のボディデザインを曲線を基調にして大胆にモディファイしたイメージのC3。前後フェンダー部分が張り出していて、キャビン部分がくびれているいわゆる「コークボトル」ラインが特徴に。フロントノーズは尖ってて、リアはダックテールというかなり戦闘的なイメージになり「コルベットといえばこれ」と言われるほどグラマラスで特徴的な世代になった。ボディスタイルはコンバーチブル(ロードスター)とクーペモデルはルーフパネルが脱着できるTトップ(Tバールーフ)が登場した。C3の後期モデルは安全基準の変更によってアイアンバンパーからウレタンバンパーへとマイナーチェンジされる。エンジンは1970~1974年式にはコルベット史上最大排気量となる454(約7400cc)V8エンジン搭載モデルも登場。この世代からトランクが無く、シートの後ろにちょっとしたスペースがあるのみと、スパルタンなスタイルに。
第4世代 1984-1996年 “C4”
欧州産スポーツカーとも渡り合える性能とスタイリングを目指してフルモデルチェンジしたC4。1983年にはプロトタイプのみで市販されず、1984年モデルからの発売になった。前モデルとは大幅に変更された直線基調のボディデザインで、当初はクーペとTトップのみで、安全基準をクリアした1986年式からコンバーチブルが追加される。ハンドリング性能も向上し、世界で渡り合えるスポーツカーとして生まれ変わった。エンジンは5700ccのV8が標準。1989年からロータスが開発、設計したオールアルミ製のDOHC-V8エンジンを搭載したホットモデルであるZR-1がラインナップされた。残念ながらこの世代もトランクが無い(シート後ろのスペースのみ)というストイックな仕様。
第5世代 1997-2004年 “C5”
空力性能を高めるために、再び流線型ボディへと生まれ変わったC5。低く、ロングノーズ、ショートデッキのデザインは踏襲しながらも、より現代スポーツカーとしての性能を確保。それを証明するかのようにレースの世界ではルマン24時間耐久レースで勝利するなど、もはやアメリカ車=直線番長というイメージを払拭した。またフロントウィンドーに速度などを映すヘッドアップディスプレイが装備されるなど、現代スポーツカーとしてのスペックへと進化している。エンジンは5700ccのV8。さらにユーザーにうれしいのはゴルフバッグが入るほどのトランクができた(笑)。
第6世代 2005-2013年 “C6”
衝突安全性能を確保するために、C2から続いていたリトラクタブル式のヘッドライトが廃止されたのがC6のスタイリングにおける最大の特徴。もはや世界的にも今のおじさんたちが興奮するリトラクタブル式のヘッドライトのクルマを生産することは難しい世の中になってしまった。そんな例がコルベットにも。エンジンはC5からの改良版のV8エンジンで排気量は約6000cc(2008年からは6200ccに拡大)、さらにハイパフォーマンス版のZ06モデルでは7000ccまでエンジンは拡大され、コルベット史上初めてスーパーチャージャーを搭載した6200ccエンジンも登場した。2人乗りでこの排気量って、もはやその進化は本当の「好き者」しか相手にしていない。
第7世代 2014-2019年 “C7”
C2、C3の愛称であり別名でもあったスティングレイの名前が復活し、コルベット・スティングレイに。過去へのオマージュかと思いきや、C6よりもさらに吊り目のヘッドライトになっただけでなく、伝統だった丸形4灯のリアテールランプは新たなデザインへと変更され、プレスラインが先代よりもさらに強調されたシャープなデザインになった。それまで定番だったラウンドしたリアウィンドーも廃止されてフラットになり、まったく新しいデザインにモデルチェンジした。エンジンは新型の6200ccのV8と同エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせ、パワーを向上させた2種類が存在した。
第8世代 2020年から現在 “C8”
コルベット史上最大のモデルチェンジを断行した現行モデル。エンジンは伝統のフロントエンジンからミッドシップ(車両の中央部にエンジンをレイアウトする)に大幅変更。さらに初代から受け継がれてきた横置きのリーフスプリング式だったリアサスペンションも廃止され、ダブルウィッシュボーン式へと変更された。これまでのコルベットの歴史や伝統までも大改革したフルモデルチェンジは、往年のコルベットファンもざわつく事件だったけれど、これは世界のスーパーカーとその性能で肩を並べるための大英断。ただエンジンは伝統のOHV自然吸気V8(6200cc)という、アメリカ車らしさは残しているところがにくい(エンジンオイルはドライサンプ式になっているけれど)。ミッドシップになったことで、リアの両サイドが張り出したデザインがより強調され、ピュアスポーツというよりもスーパーカー的なスタイリングになった。コンバーチブルモデルはコルベット史上初めての格納式ハードトップを採用している。さらにこれも史上初めてという右ハンドル車も登場。日本には右ハンドルのみが正規輸入される。
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