超イカしてる!大正・昭和のヴィンテージバイクを愛しすぎた男たちの集い。

日本のオートレースの聖地である津島天王川公園にて、大正・昭和のレースシーンを忍ぶ旧車の走行会『ビンテージバイクランin 津島』が開催された。そこには多くの超希少なヴィンテージバイクや、そのオーナーたちが集合した。そのクラシカルで雰囲気たっぷりな姿と会場の様子をお届けする。

大正・昭和のバイク文化に想いを馳せ、走る。

愛知県津島市にある天王川公園は、大正15年(1926年)から昭和40年代までオートレースが開催されていたことで知られる。愛知県はご存じの通りバイク王国である。日本のバイク史における黎明期から数多くのメーカーが拠点を構えていたことから、後の発展の礎を築いた。

当時はレースの実績が何よりのPRとなって、販売台数に直結する時代。天王川公園はオートレースが始まる初期の頃からその舞台として活躍していた場所なのである。そして、天王川公園100周年にあたる2020年の11月29日、この場所の誇るべき歴史を掘り下げる目的で『ビンテージバイクランin津島』が開催された。

写真は昭和30年11月19日の天王川オートレースの資料。ほぼ当時の姿のままオーバル路が残っているのは全国でも非常に珍しい。写真提供:津島市図書館
側車に乗るのは昭和30年頃ジュニアクラスで優勝してパレードする伊藤少年。10歳未満で20歳前の選手を破り優勝し、観衆に衝撃を与えた。当初はバイク後進国だった日本が後に劇的な進化を果たす過程で活躍したレジェンド達が激戦を繰り広げた場所なのだ。写真提供:津島市図書館

当時の天王川オートレースは地元の実業家若旦那衆「津島MC同志會」の協賛で開催され、20万人の観客を集めた記録があるそうだ。

オートレースは戦後も全国で続くが戦災や高度経済成長期の都市開発でほぼ全ての舞台は消え去ってしまった。天王川公園は当時のオーバル路が残るほぼ随一の場所なのだという。

そこで、5年前から地元の旧車愛好家が中心となって始めたのがこのイベント。

前年までは公園内に旧車を展示することしかできなかったが、2020年は特別にトラックを走行する許可がおりて、走行会が実現した。レースが開催されていた昭和42年(1967年)までのヴィンテージバイクを走らせ、当時のシーンに思いを馳せるというユニークな楽しみ方のイベントとなった。

博物館クラスのヴィンテージバイクが集結!

走行会は戦前クラス/戦後クラスに分かれ、トラックの1/4(約150m)を1台ずつ観客が見守る中ゆっくりと走行。

天王川公園のレース史を伝えることが目的であり、勝ち負けのない走行会なので、レースのような緊迫した雰囲気ではなく終始ピースフルな空気が漂っていたのが印象的だった。

1911年から1967年までの国内外のヴィンテージバイクが集結。現存しないメーカーなど超希少なバイクが多く、バイク史の片鱗をここで見ることができたのは熱心な愛好家達の協力があってこそである。

こちらは当時の天王川オートレースをチームミゼットとして実際に走っていた車両だと言われている、1954年式ツバサ工業のT80。ツバサ工業はダイハツ工業の二輪部門として誕生したブランドで、このマシンが天王川公園に帰ってくるのは66年ぶりになるのだとか。当日は現オーナーである、「改華堂」の小川さんがライダーとして聖地を走行した。

イギリスの記事でAmong the “top pieces” of the Museum.と記述されるほど希少なRUDGE MULTIのバイク。1912年に新車で日本に輸入され、ノンレストアのままオリジナル装備を残している。

愛知県の土井産業が戦後に開発したバイクの第一号、フライバードTN。エンジンは戦前の英国車をモデルにしたという。1953年に開催された戦後初の国内ビッグレース『名古屋T.Tレース』に参戦したモデルだ。

ヴィンテージバイクを愛し過ぎた男たちSNAP。

貴重なヴィンテージバイクのオーナーたちは身だしなみも抜かりなし。バイクの雰囲気やコンセプト、時代感のマッチングを考慮してファッションや装備品にもこだわり尽くしたスタイルをご覧あれ。

1924 Indian Chief / 木村義伸さん

「グッディモーターサイクル」代表の木村さんはタイドアップしたシャツにインディアンのニットを重ねたクラシカルなレーサースタイル。戦前のチーフ自体珍しいが、この車体はスティーブ・マックイーンがコレクションしていたという超貴重なヒストリー付き。日本に来たときはボロボロだったが綺麗にレストアされている。

1925 Triumph SD / 加藤義親さん

「ジプシー&サンズ」加藤さんの愛車は日本で運よく戦火を免れて生き残ったトライアンフ。この車体は京都の呉服店の納屋で見つかり、ほぼそのままの装備でナンバーを取得する現役選手。直線基調のフューエルタンクが特徴的な戦前トライアンフに、ノーフォークジャケットを合わせた英国紳士の着こなしがよく似合う。

1927 Harley-Davidson JD-RACER / 高橋克典さん

当時アメリカでレースを実際に走行していたというフラットトラックレーサーのJDに乗る高橋さん。JDはオホッツバルブ機構のエンジンを採用し、戦前の日本に数多く輸入されたのだとか。自身が所属する東海V.M.Cクラブのレーシングニットとレザーヘルメットで当時のレーサーのユニフォームを再現している。

1946 BSA C11 / 西浦義憲さん

「ブラックサイン」の西浦さんはハイネックセーターにキドニーベルトを合わせたオールドスタイルで独自の世界観を表現。愛車はスティーブ・マックイーンが愛したことでも知られるC11。レザーのヘッドライトカバーや帆布のフェンダーカバーなど、レーシーなフォルムの中に個性的なディテールを落とし込んでいる。

1911 Abington King Dick / 水谷隆彦さん

イギリスで工具メーカーとしてスタートし、1903年からオートバイの生産に着手したアビントン・キングディックの車両に乗る水谷さん。レトロな装備も去ることながら、専用レバーを使って手動でクランクを回すアナログな手動方式が見所。ツイードのセットアップは毛織物の名産地である津島市の文化を意識している。

1919 Reading Standard / 鈴村彰宏さん

鈴村さんのリーディングスタンダードは1900年代〜1923年までしか生産されていない超希少なアメリカのオートバイ。オリジナルの外装をそのまま残している。1919年当時日本に新車で正規輸入され、岐阜県恵那市の酒店「いとう鶴」の蔵で保管され続けていた車両で、会場ではいとう鶴の当時の法被を着用。

1914 Triumph Junior / 加藤修さん

今回のイベント参加者の中で最高齢となる加藤さんの愛車は、1914年に父親が自家用車として新車で輸入した車両。それを受け継ぎ、100年以上一家で所有しながらオリジナル装備を残して現役で走る奇跡の車両なのだ。上下レザーで統一したコスチュームでこのトライアンフに跨がる姿はまさに人馬一体。

1935 Harley-Davidson VLD / BOBBYさん

シングルダウンチューブフレームに1200㏄フラットヘッドエンジンを搭載するVLDに乗るBOBBYさんは千葉県からエントリー。サンドレースにも参戦経験のある車両で、ウィンドシールドは高さ調整ができ、用途に合わせた走りを楽しめる。クロムウェルのハーフメット×ゴーグルが車体の雰囲気と相性良し。

主催者たちの今後の目標は、天王川オートレースの100周年にあたる2026年にコース全体を使った走行会を実現させること。戦前のオートレースの痕跡が残るこの場所に、再びバイクファンが集うその日を期待せずにはいられない。

(出典/「Lightning 2021年2月号 Vol.322」)