「クロムエクセル」という、アメリカ生まれの高級革を知っているか?

イリノイ州シカゴで1905年に創業した老舗タンナー(皮革なめし業)、ホーウィン社(Horween Leather Company)のオリジナルレザー「クロムエクセル」について紹介する。

ホーウィンの名を世界中に知らしめてきたクロムエクセルというブランド革。

ホーウィン社には数々のオリジナルレザーが存在するが、世界中で知名度が高いのは「ジェニュイン・シェルコードバン」と「クロムエクセル」だ。前者は馬の臀部から採れる原皮を加工したもので、一頭から採れる量は極わずか。「革のダイヤモンド」とも言われる。そして、ホーウィン社を代表するプルアップレザーである「クロムエクセル」。

長く使い込んでも新品の時のような輝きを失わないシェルコードバンと、長く使い込むことで表情が豊かになるクロムエクセル。この対照的な個性を持つ二枚看板がホーウィンの名を世界中に知らしめてきた。

他にもホーウィン社はアメリカンフットボール用のレザーや野球のグラブに使うレザーなども長年にわたり生産している。アメリカの歴史の裏にホーウィンがあると言っても過言ではないだろう。

さて、本題。クロムエクセルはホーウィン社のオリジナルレザーで、靴や財布などに多用されるいわばブランド革。英国のエアロレザー社などはレザージャケットにも使用している。厚く、耐久性が高いのが特徴だが、しなやかで風合いがある。靴やジャケットは使ううちに身体に馴染んでくることでも知られている。クロムエクセルを裏から押すと、押された部分の色が薄まるのがわかる。つまり、クロムエクセル製品を使う人によって、この濃淡が織り成す表情が変わるのだ。

ホーウィン社の公式ブログの筆者によれば「私のお気に入りの一つであり、おそらく一つを選ぶとしたら、たった一つのお気に入りです。」と紹介されている。

一世紀前の秘伝のレシピをほぼ変えずに作り続けているホーウィン社の誇りとも言える革なのだ。89もの工程、約一カ月かけて製革される、手間のかかる革だから、ホーウィン社にとってもその思い入れは特別なのだろう。

厚さが厳選されたステアハイドをクロームとベジタブルの混合でなめし、天然由来の油脂をたっぷり染み込ませている。さらに最終仕上げに、表面をニートフットオイルで磨き完成する。多くの工程を人の手や感覚に頼るが、長い年月、ブレないクオリティが保たれてきた。

オイルが充分に含まれているので、こまめなオイルメンテナンスも不要。使用時に発生する小傷はブラッシングで消すことができる。レザー表面が乾燥してきたときは、薄っすらとオイルを足して、ブラッシングすれば、それで十分。製革時に仕上げに使われているのがニートフットオイルなので、メインテナンスにはニートフットオイルがオススメ、とホーウィン社の公式ブログでも記されていることを伝えておこう。ニートフットオイルは各通販サイトで容易に購入可能。 

残念ながら、コロナ禍で工場が稼働しなかった期間が長く、現在クロムエクセルは世界中で品薄状態が続く。日本の革製品メーカーの方に聞いても「年内はクロムエクセルが入荷しないだろう。まったく見通しが立っていない」とのこと。また、円安&原油高で、クロムエクセル並びにクロムエクセルを使った製品の価格高騰も容易に想像できる。いま、国内市場に流通しているクロムエクセル製品は激減している。

クロムエクセルがそんなことになっているなんてことは露知らず、偶然にも私が以前から企画していたクロムエクセルを使ったショートブーツがある。幸運にも、大騒ぎになる前に材料は確保していたので、5月から無事に受注をスタートした。興味のある方はCLUB-Lightning.comをチェックしてみてください。

アメリカの高級靴メーカー・オールデンはクロムエクセルやシェルコードバンといったホーウィン社製のレザーを多用している。

 

Before
クロムエクセルのブーツ、ブラッシング前と後。 ブラッシングだけで小傷が消えているのがわかる。
クロムエクセルのようなプルアップレザーの特徴は、表情の経年変化が愉しみやすいこと。
この記事を書いた人
松島親方
この記事を書いた人

松島親方

買い物番長

『Lightning』,『2nd』,『CLUTCH Magazine』男性スタイル&カルチャー誌の統括編集長。ロンドンのセレクトショップ「CLUTCH CAFE」のプロデューサーも務める。 物欲を満たすためには海をも越え、全地球規模で買い物を楽しんでいる。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

2025年秋冬、「ジェラード」から厳選されたヴィンテージモチーフが息づく至高のコレクションが到来!!

  • 2025.12.12

2025年秋冬、ジェラードらしいネイティブアメリカン、ミリタリー、クラシックなワークウエアなど、厳選されたヴィンテージモチーフが息づく至高のコレクションが到来。Lightningがその中からおすすめアイテムを厳選して紹介する。 Salem Coat [Lot No_AG12420] 6年ぶりのリリー...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

Pick Up おすすめ記事

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...