たったひとつの技法を、50年間極め続けた鯖江の職人。【ジャパントラッドを担う、注目の10人】

かつてメガネはほとんどがセルロイドと呼ばれる生地で作られていた。アセテートという量産向けの生地に取って代わられて以降、同時に失われつつあるメガネの製法がある。それは「芯張り」と呼ばれるテンプルの製法で、誰もが職人と認める人は日本にたったのひとりしかいない。その唯一の職人、ジャパントラッドを担う注目の10人の一人である藤田芯張工業所」の藤田睦さんにお仕事を拝見させてもらった。

「藤田芯張工業所」藤田睦さん|18歳にして芯張り職人であった父の手伝いを始め、以後50年間にもわたり、芯張りだけを極め続けてきた生粋の職人。受けた依頼は最後まで絶対にやり遂げるという強い信念の持ち主

毎日違うものを作っている感覚なんです。

SHINBARI|どんなスタイルにも合うクラシックなフロントシェイプも魅力だが、最大の特徴はテンプルに用いられた芯張り製法。テンプルの表もしくは裏から覗く芯に刻まれた彫金の美しさは、見る者の心を打つ。4万9500円

BJクラシックコレクションは、アメリカンオプティカルの総代理店としても知られるブロスジャパンのオリジナルブランドとして2005年にスタート。アメリカにルーツを持つクラシックなスタイルに、日本の巧みな技術や情熱を掛け合わせたアイテム群を揃える。なかでも「日本の技術」という点における真骨頂的なモデルが[SHINBARI]

ここで言う「シンバリ(芯張り)」とは、メガネのテンプルを製作する際に用いられるテクニックである。できる職人が限られているうえ非常に手間のかかる量産に向かない製法のため、現代のメガネづくりにおいては、「シューティング」という製法にとって代わられている。芯張りは、絶滅の危機に瀕している非常に貴重なテクニックなのだ。

この[SHINBARI]の要となるテンプル製作を請け負っているのは、鯖江にある「藤田芯張工業所」。芯張りだけに特化した工場は、まず日本にここだけしかなく、さらに芯張り製法において「職人」と呼ばれる人物は、「藤田芯張工業所」の藤田 睦さんただひとりだ。

彼は高校卒業後の弱冠18歳にして、実父である先代のもと芯張りの修行をはじめ、半世紀経ったいまでも毎日芯張りに打ち込み続けている。「芯を2枚の生地で挟み込む」という言葉だけをなぞると、どうも簡単な作業かのように聞こえてしまうが、気温・湿度 や作業場などの環境によって繊細に状況が変化するなかで、ミリ単位での裁断や位置決めなどが必要な、超難度のテクニック。

それゆえ「技術を継承しようとしても、できない」ほどに難しいのだと、職人の藤田さんは語ってくれた。

50年間、芯張りだけをやり続けてきましたが、いまだに壁にぶつかることもしばしば。その日の温度や作業場の空気の純度、溶剤を誰が塗るか、などによって細かく作り方が変わってくる。何万本の芯張りを作ってきましたが、常に違うものを作っている感覚なんです。そのたびに、どうやったら上手くいくか頭を悩ませる毎日。

難儀すぎて『明日やめようかな』と何度も思ったぐらいです()。でもこうやって長いこと続けてきたからこそ、『藤田さんじゃなきゃ削れない!』と言われたり、こうやってメディアに取り上げてもらったりして、自分がやってきたこと、そのオリジナリティに誇りを感じています」

鯖江駅から車で10分もしない場所にある「藤田芯張工業所」。芯張り専門の工場は日本でここだけ。芯張り専門の職人は日本に藤田さんひとりだ

芯張りとは? 技術の継承が困難な「芯張り」の最難関工程を拝見。

現在メガネのテンプルは「シューティング」と呼ばれる製法を用いたものがほとんど。これはテンプルの形を完成させた後に、先の尖った金属芯を打ち込むという作り方。一方「芯張り」は、サンドイッチのように2枚のテンプル板で金属芯を挟んで作りあげる。

画像はシューティング製法で作られたテンプル。テンプルの形状に削ったプラスチックを温め、そこに芯を打ち込んで形成する。芯の形状やデザインは限られる

【ステップ①】切り込みを入れたセルロイドに芯をはめ込む。

BJクラシックコレクションの[SHINBARI]はセルロイドを使用していることも大きな特徴のため、ここではアセテートではなくセルロイド生地を使って芯張りを行う。細い短冊状に切断した生地に、マシンを使ってのちに芯をあてがうための切り込みを入れていく。

テンプルに使う2枚の板で金属芯を挟み込み、位置決め・仮付けを行う。最初に溶剤を塗るのだが、セルロイドは乾燥が早いためスピード感が非常に重要。もちろんここで少しでもずれてしまうと失敗となるため、素早く正確に芯を挟み込んでいく必要がある。最後に2個のクリップで固定して、仮付けの工程は完了する。

セルロイドは繊細に取り扱うのがポイント。発火性の高さゆえ取り扱いが難しく、芯張りの製造工程でも気を緩めると生地が歪むなど不具合が生じやすい

【ステップ②】仮留めの状態で専用の型にセット。熱処理&冷却を施して芯とセルロイドを圧着する。

短冊上の生地を専用のケースに並べて加熱冷却器へ。16本分を隙間なく敷き詰める必要があるため、裁断の時点で1mmでも寸法がずれると、仕上がったときにカーブしたり不具合が生じる。加熱・冷却時の温度は、使う樹脂のタイプやその日の気候などによって繊細に変動するため、ここでも職人の経験による感覚が重要となる。

生地の間に、0.3mmのゼンマイ板を挟み込むのがポイント。加熱したときにくっついてしまうのを防ぐ。先代から授かったテクニックだ

【ステップ③】気泡が入っていたり、曲がったりしていないか目視で確認。場合によっては再び熱処理へ。

冷却終了後、職人の目視により気泡が入ったり歪んだりしていないかチェックする。あまりにも繊細な芯張りの工程では、ここで失敗してしまうこともしばしば。

「何万本作っても毎回違うものを作っている感覚」という職人・藤田さんの言葉から、その難易度が伝わってくる。ここで気泡が入ったり、生地同士が完全にくっついていなければ溶剤をつけて再度加熱器でプレス。問題なければ手作りの取り外し器を使ってバラしていく。

【ステップ④】仕上げの工程へとバトンを繋ぐ、「倣い(ならい)

できあがった芯張りの原型をテンプルの形状に削る「倣い(ならい)」という作業。機械に対して、目視で中心をぴったりと合わせてセットしないといけないため、ここも高い集中力と経験が必要だ。機械上部にセットされた倣いの形に沿ってマシンを動かすが、摩擦で熱を帯びすぎると生地が歪んでしまう。ここで藤田さんが担当する工程は終了。仕上げを担当する別工場へと送られる。

同じ鯖江に本社を構えるブロスジャパンだからこそ、直接職人とイメージや想いを共有できる。作り手と企画者の密なコミュニケーションが欠かせないポイントだ。写真左は代表の浜田謙さん

【問い合わせ】
ブロスジャパン
TEL0778-52-7075

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/「2nd 20235月号 Vol.194」)

この記事を書いた人
パピー高野
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パピー高野

断然革靴派

長崎県出身、シティーボーイに憧れ上京。編集部に入ってから服好き精神に火がつき、たまの散財が生きがいに。いろんなスタイルに挑戦したい雑食タイプで、ヨーロッパからアメリカものまで幅広く好む。家の近所にある大盛カレーショップの名を、あだ名として拝借。
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