現場の熱い声と偶然の出会いでサターントリビュートが実現
シティコネクションは、ビデオゲームが劇的な進化を遂げた90年代過渡期に熱烈な支持を集めたゲーム機「セガサターン」の名作&人気作を、現在のプラットフォームで遊べるように復刻する“サターントリビュート”を展開している。
「ファミコン用ソフトの復刻は任天堂さんなど各社でなさっていますが、サターンを復刻する事業を行っているのは現時点で当社だけだと思います。なぜかというと、セガサターンが今のハードウェアで再現するのが難しい、特殊なプラットフォームだからです。当社プロデュースの『ゼブラエンジン』で(サターン用ソフトを)改良して拡張機能を追加で搭載することができます。復刻するタイトルを選定する基準は、市場での需要が今も高いもの(中古価格がとても高い)、名作と呼ばれているにもかかわらず復刻されてないものなど、いろいろです」(山本氏)
サターンで発売されている『ファーランド』シリーズに、『ファーランドサーガ』の2作品があった。この2作で完結しているのでシリーズ未体験の人でも遊びやすい。しかも、98年当時、このタイトルをプレイできたのはWindowsユーザーとサターンプレイヤーのみ(Ⅱのみ99年にプレイステーション版も発売)という“知る人ぞ知る”名作で特にサターンマニアは思い入れが強い−−復刻させる理由としては充分である。
「通常、弊社の総合プロデューサーである吉川延宏(代表取締役)がタイトルを選定してライセンスホルダー(著作権者)に交渉、商品化という流れですが、『ファーランドサーガ』は社員からやってみたいと声が挙がって現場主導で動き出しました。これまでの復刻の経験値を積んできたことが背景にあるとは思うんですが、シティコネクションに勤めるぐらいですから当然ゲーム好きなわけで、ファンの気持ちもよくわかっています」
復刻への動きが現実化した影には、社員が熱望する声に偶然も作用したと山本氏が続ける。
「かねてより社内の複数名から、『スチーム・ハーツ』と『アドヴァンスト ヴァリアブル・ジオ』を、サターントリビュートとして出したい、という声が上がっていたんです。そんな折、とあるゲームイベントで著作権者であるエンターグラムさんと偶然お会いしました。そこに加えて、弊社とエンターグラムさんをつなぎたいという方の働きかけも重なって、まず『スチーム・ハーツ』と『アドヴァンスト ヴァリアブル・ジオ』をサターントリビュートとしてリリースすることになりました。さらに『ファーランドサーガ』シリーズの権利もエンターグラムさんがすべて所有されていたので、こちらも形になりました」

時代を超えて万人に好かれるストーリー&ビジュアル
『ファーランドサーガ』は舞台やキャラクターといった世界観がつながっている連作ではあるが、ストーリーに若干の温度差を感じられる。それでも両作に通底するエッセンスがある。
「シリアスとギャグの混在ですかね。ユーモアじゃなくてギャグなんですよ。『Ⅰ』の舞台は戦乱なので、戦争ならではの悲劇がいっぱい出てくるのですが、主に会話シーンにギャグが入っています。ステージが全部で『Ⅰ』は50、『Ⅱ』は34あるんですけど、すごく悲しいエピソードがあったかと思うと次のステージではギャグが待っているという感じで。たとえば『Ⅰ』の主人公の出生の衝撃的な真実が明かされるシーンは直前までギャグ的なかけ合いをやっている。この差が激しくて、感情をどちらに置けばいいのだろうと思うぐらいにぎやかです。サービス精神が旺盛なんですね。僕は、おもしろいゲームに仕上がる条件の一つとして、特にストーリーを楽しむタイプの作品では、”テキストがおもしろいかどうか”が重要だと考えています。文字数の限られたウィンドウの中でプレイヤーをクスリと笑わせられるセリフを無駄なく書き込めるということはすごいと思うんですよ。『ファーランドサーガ』のおもしろさというのは、当時、会話劇の楽しさも、ゲームで遊びたい、先の展開を見たい、というモチベーションになっていたと思います。」
そしてプレイヤーを強く引き付けるもう一つの要素は、キャラクターのビジュアルだ。イラストレーター・山本和枝のコケティッシュなタッチは、90年代に主流だった絵柄そのもので、それが現在の“平成レトロ”の再評価に絶妙にマッチしている。
「アンチがいない、ファンしかいない…男女のファンが均等にいる絵なんですよね。たとえば『スチーム・ハーツ』と『アドヴァンスト ヴァリアブル・ジオ』って、原作はPC-98の男性向けのゲームなんですよ。だから男女比は男性ファン100、よくて99対1みたいな客層ですが、この『ファーランドシリーズ』は50対50と考えて問題ない。だからこそ今復刻しても受け入れていただける作品だと思うんですよね。絵柄からしてもストーリーからしてもそう。特に『ファーランドサーガⅡ』は女の子が主人公でパーティーはアルという男子以外は全員女子で、アルは彼女たちに振り回される。女子が中心で話が進んで男子を振り回していくシミュレーションRPGって、当時はなかなか珍しかったんじゃないかな」
現在のスタイルに合わせて追加された機能
サターントリビュートでは、旧作を改良して拡張機能を追加で搭載すると先に書いた。『ファーランドサーガⅠ&Ⅱ』ではどんな改善がなされているのか。
「サターントリビュートシリーズのラインナップは、アクションやシューティングが多かったのですけれども、今回はシミュレーションRPGなのでだいぶ毛色が違います。毎日一話ずつやってセーブしてまた明日、みたいにちょっとずつ進めていくこともできる感じではあります。シミュレーションRPGとしてはだいぶ難易度が低い方ではありますが、きちんとレベル上げをしないと後半かなりきつくなってくる。それに対応するために獲得する経験値を2倍にする機能をつけましたので、レベルアップの時間が半分になります。当時のバランスで遊びたい方はその機能をオフにしていただいてかまいません」
シミュレーションRPGには、仕様や操作方法といったルールの理解が求められる。慣れるまでは説明書や攻略本と首っ引きでプレイするというのが常であったが、本作ではゲーム初心者に対する気配りがなされている。
「初心者がいちばんつまずくのが、戦闘だと思うんですね。本作では戦闘周りを快適にしました。まず、失敗しても少しだけ巻き戻すことができる。そしてステータスの表示。当時のテレビはアナログで画面比率は4:3でしたが、現在は16:9で解像度は4Kとか8Kと非常に細かく表示できる。つまり、昔は画面に表示される情報が今と比べて圧倒的に少なかったわけです。『ファーランドサーガ』は味方キャラクターが多く、最大で9人操作しなきゃいけない。状況を把握するのが大変だったんです。セガサターン版はステータスが棒グラフで表示され、各キャラクターにカーソルを合わせてHPとMPがどれだけ残っているかを確認して、しかもそれを頭に入れつつ、パーティ全体を行動させなきゃいけなかった。すると、うっかり体力が少ないキャラがいても見落としちゃうんですよ。『こんなに少なかったんだ!? やられちゃった』ってことがありましたね。本作では一目で左右に味方キャラクター全員の状況を数字でわかるようにしました。他にもアイテムや魔法にカーソルを合わせるとどんな効果か表示されます。これらの機能は、現在のゲームでは当たり前のことなんですけれど、当時はありませんでした。だから複刻にあたって、追加しました。


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