「PEA-COAT」は英国海軍が使用した艦上用の軍服が由来となった防寒服。
ピーコートの名称に使われる「ピー」とは、オランダで織られていた厚手のウール織物素材のことで、その生地を使ったコートをピイ・エッケル(厚い毛織物の上着)と呼んだことに由来している。
また面白いのがこの厚手のウール織物素材には、「パイロットクロス」という別の呼び名もある。このパイロットとは船乗りのことを意味しており、船乗りたちの防寒衣料素材として使われていたことからそう呼ばれていた。
このピーコートのルーツは19世紀末にイギリス海軍の制服スタイルであるフロント合わせのダブル・ブレステッドをモチーフに、オランダを発祥とするその厚手のウール織物素材を組み合わせた特徴的なデザインとなっている。
アメリカ海軍でピーコートが支給されたのは1900年代と非常に旧い。士官用ピーコートはダブル・ブレステッドのかなり長い丈となっている。1910年代〜1
930年代にかけて着丈やポケット、ボタンなどマイナーチェンジを繰り返してきたが、基本デザインはほとんど変わっていない。
デザインの特徴として挙げられるのはまず大きな上襟。これはセーラーカラーと同様に襟を立てて収音効果を狙ってのものと言われる。また付属するチンストラップで襟を立てて留めれば保温効果も得られる。ハンドウォーマーポケットはボディに対して縦に切り込みが入り、手袋をしたままでも入れやすいデザインとなっている。そしてダブル・ブレステッドの意匠を落とし込んだ前合わせは左前と右前と、どちらでも合わせられる仕立てとなっている。これは船の左右に見張りを置くが、その立ち位置と船の進行方向によって風向きが変わるので、立ち位置に応じて前合わせを変えることで、隙間から風の侵入を防ぐためだ。ちなみに使用されるボタンは、アンカーマークと、アメリカが独立した時の州の数を表した13個の星を並べた特徴的なデザインとなっている。
ピーコートの着丈は作業性を重視して基本的には短いが、肉体労働が少ない士官用は長く作られていることが多い。また他のジャケットの上に着るオーバーコートと異なり、ダンガリーシャツの上に羽織ることを前提に作られているため、オーバーコートに比べて身体にフィットするタイトなシルエットだ。
[PEA-COAT歴史年表]
19世紀末 英国海軍が艦上用の軍服として着用
1910年代 米海軍がピーコートを採用。初期は膝まで着丈が長かった
1920年代 中期になるとピーコートの着丈が腰下ぐらいまでに変化していく
1930年代 後期になると着丈は腰丈まで短く変化。
1940年代 それまでの4つポケットが2つポケットへ変更される。ボタンも13スターからアンカー(錨マーク)のデザインへと変わっていく
【銘品】LONG PEA-COAT(1920s)
1920年代のアメリカ海軍のピーコート。着丈が長いので士官用と思われる。100年前のプロダクツながら、現代でも通用する美しいシルエットやディテール、素材感など、プロダクツとしての完成度の高さは特筆に値する。まさに銘品だ!
ネイバルクロージングファクトリーはニューヨーク・ブルックリンにあったネイバルヤード内のクロージングファクトリーのこと。アメリカ海軍の物資を補給する兵站部でピーコートは生産されていた。その設立は1898年だ。
収音効果と防寒性能を両立させた大型の上襟。ネック部分に取り付けられたチンストラップを使い、襟を立てて留めることができる。
ハンドウォーマーポケット内部は保温性に優れるコーデュロイ生地が使われている。また旧いモデルなのでラベルがポケット内部に付く。
【PEA-COATコラム】米海軍だけではなく、米沿岸警備隊(USCG)にもピーコートは支給された。
1930年代までアメリカ海軍が使用していたピーコートは、着丈の長短の差はあるが、4つポケットや大きな上襟は共通していたが、1940年代に入るとピーコートは2つポケットへとデザイン変更される。それに伴い、13スターボタンもアンカーマークだけのデザインへと変わっていく。またピーコートはアメリカ海軍だけでなく、同じ海を主戦場とする米沿岸警備隊(USCG)にも支給されていた。ただ支給数は少なく、市場でも見かけ難い。
(出典/「Lightning 2025年1月号 Vol.369」)
Text/A.Shirasawa 白澤亜動
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