裁縫男子、ジーンズの裾上げに挑戦する

ジーンズを購入したときにほとんどの人が体験するのが裾上げ。吊しのジーンズは誰にも合うように長めのレングス設定になっているので、筆者のような短足男子は常に裾上げが必要。筆者の場合はロールアップしてもかなり裾が余るくらいなので、高校生のころから日本の裾上げ文化のお世話になっている(ちなみにジーンズの本場であるアメリカには裾上げ文化は無い。自分に合うレングスをチョイスし、長い部分はロールアップして穿くのが基本)。通常はジーンズの購入店や洋服のお直し専門店でお願いするわけだけど、裁縫男子の筆者は自分で裾上げすることに挑戦してみた。果たして上手にできるのか?

いつも専門店にお願いしている裾上げをDIYしてみた。

ジーンズ愛好家であれば裾上げも気にしたいところ。レングスさえ短くなればいいよというわけにはいかない。やはりジーンズの裾は着用や洗濯を繰り返すことで生まれる独特なパッカリングがはっきりと出るチェーンステッチで仕上げたい。

しかもできればかつてのアメリカのワークウエアの裾上げを担っていたヴィンテージのユニオンスペシャルのミシンで縫いたい。と、いつもと変わらぬ面倒臭さを発揮して、トビラを叩いたのが原宿にあるピュアブルージャパン。

ここでは購入したジーンズをヴィンテージのユニオンスペシャルによるチェーンステッチで裾上げしてくれることを知っていたので、取材にこじつけて無理を言って自分にやらせてもらえないかを提案してみた。

すると快くOKの返事。ちょうどショップで使っているユニオンスペシャルのミシンを新たな1台に入れ替えるタイミングだったのも手伝って、ミシンの調子も見たいのでやってみますか? ということに。

しかも教えてくれるのはちょうど岡山から東京に来ていた同社の代表である岩谷さん。もう20年以上もユニオンスペシャルで裾上げをしている大ベテランというラッキー。

もちろん、厳しく指導してもらいながら、ピュアブルージャパン式の裾上げを教えてもらうことに。果たして素人裁縫男子は上手に仕上げられるのか?

筆者の場合、どこのブランドのジーンズでもこれくらいは裾があまってしまう。さすがにロールアップするにはあまりすぎているので、いつもジーンズは裾上げをしてもらっているというわけ。切った裾で小さなポーチが作れるほどあまってしまっているのがお恥ずかしい(笑)

今回裾上げに使用するミシンはアメリカ製ユニオン・スペシャルの43200Gという裾上げ専用のチェーンステッチミシン。多くのアメリカのワークウエアの裾を縫ってきた、今となってはヴィンテージのミシンである。裾上げ専用でミシンが生まれるほど、アメリカでは需要が高かったんだと再確認。

ユニオンスペシャルがなぜパッカリングが激しく出るのかという秘密は、針が斜めにセットされているということ。生地に対して斜めに針が行き来することで、独特なパッカリングが生まれるのだ。ミシンを横から見ることで確認できる。

今回、筆者の強引なお願いを快く引き受けてくれたのがデニムの聖地である岡山でデニムブランド「ピュアブルージャパン」を発信する代表の岩谷さん。新しく導入する裾上げミシンの調子を見たかったということもあり、裾上げの極意を教えてくれることに。今でも岡山で裾上げやリペアをこなしているのでミシンの扱いはお手の物

【今回の作業に必要なモノ】
裾上げ専用でミシン(ユニオン・スペシャル 43200G) 1台
シングルステッチミシン 1台
メジャー ひとつ
定規 1本
布切り裁ちバサミ 1本
糸切りバサミ 1本
ペンチ 1本
チャコペン 1本
ピンセット 1本

下準備その1。裾を切る前の下準備は念入りに。

裾上げはただ余分な部分を切って縫うだけではなく、縫う前の下準備がキモ。デニムは生地のなかでは厚みがあるので、この下準備をしっかりと美しい仕上がりにはならないということを勉強。もちろん、一度生地を切ってしまったら後戻りができないだけに緊張感もかなりのもの。まずは下準備をすることから始めるぞ。

まずは試着して、好みの裾の長さでジーンズをロールアップして裾の長さを決定する。その後、ジーンズを脱いで裾上げ後の股下を計る。切る裾の長さではなく、アウトシーム側のレングスでもない。仕上がり後の股下を内股で計るのがポイント。

裾の長さを測ったら巻き縫いするための縫い代になる2cmを足した長さのところにチャコペンで印を下記、片側も同じ長さのところを計って裾の左右に印を書いたらそれらを結んで仕上がり線を定規で引く。

切断する部分の線が引けた。裾からすべての長さを測るのではなく、股下基準で位置出しをすることが重要。

線に沿って裁ちバサミで切断。もはや後戻りはできない。ここは思い切りよく切断。

切っちゃたよ、ついに。もうこの長さで裾を縫い上げるしかない。あとは縫製で失敗しなければオッケー。同じ作業をもう片方の裾でも行って切断成功。

下準備その2。プロならではの隠しステッチでサイドシームにひと加工。

裾を切断したら、あとは縫うだけかと思ったらここでひと手間加えるという。というのもそれぞれのアウトシームとインシーム部分をシングルステッチのミシンで1cmくらい仮縫いを入れる。これは裾を巻き縫いするときにそれぞれの生地が開かないようにするための工夫だと聞いて納得。やはりプロの技には見た目ではわからないひと手間があった。

アウトシームのセルビッジ部分は耳をたたんで縫製。この仮縫い部分は裾を巻き縫いすれば見えなくなる。インシームの裾部分も同じように仮縫いをする。

裁縫男子といえども普段は手縫い専門なので、ミシンを踏むのは恐る恐る。しかも工業用のミシンなので緊張する(笑)

下準備その3。特殊なペンチを使って生地の重なる部分を平坦に。

まだまだ下準備は終わらない。今度はインシーム、アウトシームの巻き縫いをすることで生地が複数枚重なる部分をペンチを使って平坦にするという作業。このペンチは歯の部分を平坦に加工したカスタムツールになっている。縫い上げるときに生地に段差があると縫い糸が脱線してしまうことがあるので、キレイに真っ直ぐ縫製するための大事な作業なのである。またしても勉強。

これが裾上げ時に使用する生地を挟んでクセ付けするためのペンチ。先端の段差のある部分や歯の部分を削っているので生地を傷つけることなく加工ができる。

ペンチでサイドシーム部分を挟んで思いっきり力を入れることで生地の段差ができるだけ無くなるように押さえつけてクセを付ける。

いよいよ縫製。それは一瞬の出来事だった。

下準備が終了していよいよ縫製。緊張する瞬間である。といっても「チェーンステッチはすぐに縫製をほどくことができるので、失敗しても何度でも挑戦すればいいですよ」と岩谷さんからのありがたいお言葉をいただく。今回はもともとの裾上げと同様、オレンジとイエローの糸の2色使いでミシンを設定してもらいいざ縫製。

ユニオンスペシャルはアメリカ製なだけあって、持ち前のトルクでぐいぐいと縫っていく力持ち。ミシンもアメリカ車もアメリカ製は性格が似てるんだと再確認。

このユニオンスペシャルには台座にラッパと呼ばれる金属製のガイドパーツが付いていて、ここに裾部分を入れると自動的に生地を巻き込んで縫ってくれる。ペダルを踏んで、ミシンに任せて生地を送っていけばキレイに縫えるはず。

さすがミシン界のアメリカ車。あっという間に縫い上げてくれて、見事一発で成功。あとは上糸をピンセットで裏側に引っ張り出す。

裏に引っ張り出した上糸と下糸を玉結びして糸留め。余分な糸はハサミでカットすれば裾上げ完成。

見事に筆者のレングスになりました。写真の向かって右がオリジナルの今回切り落とした裾。左が今回筆者が縫い上げた裾。ミシンの性能と先生のおかげでやりきりました。やっぱり裾上げはユニオンスペシャルのチェーンステッチがいいよねと再確認するのであった。

裾上げ後に一度洗濯すれば、裾にユニオンスペシャルならではのパッカリングが出るので、一度洗濯してから穿き始めるのがおすすめだ。

ピュアブルージャパンではここで購入したジーンズであればすべてショップにあるヴィンテージのユニオンスペシャルで裾上げをしてくれる。

【DATA】
撮影協力/ピュアブルージャパン原宿
https://www.purebluejapan.jp

この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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