様々な仕様が選べるスペシャリティカーとして生まれた。
いわゆる箱形のセダンやクーペでもなく、スパルタンなスポーツカーでもない。マスタングは当時、アメリカのクルマのカテゴリーに存在しなかったスペシャリティカーという位置付けで生まれた。コンパクトなボディは若者や女性にも扱いやすく、それでいてスポーティなルックス。さらにエンジンの排気量から内装、快適装備に至るまで、乗り手の好みでチョイスができたことから、同じモデルでもリーズナブルに乗ることもできれば、フルオプションの高価格モデルまでオーダーできたことがその勝因。いわゆる老若男女、すべての人の好みに対応した販売戦略が当時としては新しかった。
マスタングに代表される車種はポニーカー(ポニーとは小型の馬)と呼ばれ、フォードのアッパーブランドだったマーキュリーからはクーガー、ライバルだったGMはシボレーからカマロ、ポンティアックからファイアバードを発売、クライスラーはダッジからチャレンジャー、プリムスからクーダを発売するなど、ライバルも追随することで、新たなアメリカ車のカテゴリーを作り出したモデルになった。マスタングはアメリカ車の歴史に欠かせないモデルなだけに、進化の歴史を振り返ってみる価値はあるぞ。
第一世代 1965(1964 1/2)-1973年
コンパクトカーとして販売していたフォード・ファルコンをベースに、1964年の4月に発売されたことから、1965年式、もしくは1964 1/2(’64ハーフ)と言われる初代。ボディはクーペとコンバーチブル、それに2+2も座席を持ったファストバックがラインナップされた。
エンジンは約2800ccの直6と約4200ccのV8がチョイス可能だったでけでなく、ブレーキやデフ、内装のトリムやメーターパネルの種類まで多彩なチョイスが可能だったことから、すべての世代に順応したパッケージが可能だったこともあり、爆発的な人気車種に。
当時はマッスルカーブーム全盛期だったこともあり、1969年式にはマッハ1やBOSS302、BOSS429といったハイパフォーマンスモデルも登場する。
1971年式にビッグマイナーチェンジして、ボディサイズが大きくなり、ロンズノーズ&ショートデッキが強調されるデザインになったが、オイルショックの影響で第一世代の後半は販売が低迷した。
第二世代 1974-1978年
オイルショックによって経済的でコンパクトなクルマへの需要が高まったことで、巨大化していたマスタングもフルモデルチェンジによって小型化される。
フォードが当時販売していたコンパクトカーのピントをベースに開発されて、車名もフルモデルチェンジによってマスタングIIになった。ボディはコンバーチブルがなくなり、ハードトップとハッチバックの2種類に。
エンジンラインナップもマスタング史上初めてラインナップされた直4(約2300cc)とV6(約2800cc)の2種類に絞ったけれど、やはりそこはアメリカ、多くのユーザーが求めていたV8エンジンが1975年には復活したのがおもしろい。
マスタングIIはそれまでのスポーティカーとしてではなく「小型車のファーストクラス」というキャッチコピーで、まったく違う性格を押し出すことになった。
ちなみにデザインはイタリアのカロッツェリアであるギア社が担当している。
第三世代 1979-1993年
先代のコンパクトカー志向を継承して、当時のピントなどの生産ラインとして存在していたフォックス・プラットフォームを採用したことで”フォックス・ボディ”と呼ばれる第三世代。
それまで継承されてきた丸目2灯のフロントマスクは角目4灯へと変わり、当時の欧州車や日本車などのデザインに寄せるようなカタチになった。
2ドアのみという設定は変わらず、ボディはハードトップとハッチバック式の3ドアを設定。エンジンは史上初めて2300ccの直列4気筒ターボがラインナップされ、ハイパフォーマンスモデルはマッハ1の代わりにコブラパッケージが設定された。
1982年にはそれまでのコブラに代わり、新設計の302V8(5000cc)が搭載されたGTモデルが登場。1983年式にはラインナップから落ちていたコンバーチブルが復活している。
1987年式にビッグマイナーチェンジが行われて、フロントマスクは角目2灯になり、1986年にデビューしたフォード・トーラスとデザイン的に似たスタイルになった。
ホットモデルとしてはこの世代の最終年式となる1993年にSVT(スペシャル・ヴィークル・チーム)がチューニングしたSVTコブラが設定された。
第四世代 1994-2004年
いわゆる1980年代に主流だった直線基調のデザインから脱却し、曲線を多く取り入れたデザインに生まれ変わった第4世代。それだけでなく、初代マスタングのイメージをデザインに取り入れ、原点回帰したモデルとなった。
エンジンは4気筒が廃止されて、3800ccのV6と5000ccのV8エンジンというラインナップに。さらに先代から受け継がれたSVTコブラも継続された。
第四世代後期モデルは1999年にマイナーチェンジ。”ニューエッジスタイリング”と呼ばれるシャープで引き締まったボディデザインに変更された。また、クラシック・マスタングをイメージした映画『ブリット』仕様(2001年式)やマッハ1やコブラ(2003、2004年式)といったスペシャルなモデルも登場した。
第五世代 2005-2014年
フルモデルチェンジして生まれた第五世代は、レトロフューチャリズムというデザインコンセプトの元、1960年代のマスタングを彷彿とさせる姿で2004年の北米モーターショーで発表された。
往年のモデルを思わせるデザインを各所に取り込みながらモダンなスタイルに仕上げることで昔ながらのファンにも歓迎されるモデルとなったけれど、オールドマスタングと比べると、少々ぼってりとしたデザインに。
2010年にはフェイスリフトによるマイナーチェンジした第五世代の後期モデルが登場。クラシカルな部分を残しながらもシャープな顔立ちへと進化した。
搭載されたエンジンは4000ccのV6と4600ccのV8。後期モデルの2011年式からは、3700ccのV6、5000ccのV8エンジンになって、スタイリングだけでなく、パフォーマンスも近代化される。ボディバリエーションはクーペとソフトトップのコンバーチブル。
また、2010年式からホットモデルとしてスーパーチャージャーで過給した5400ccのV8エンジンを積んだシェルビーGT500や、2012、2013年式にはGTモデルに搭載していたV8エンジンをチューニングしたBOSS302も販売され、世代を超えて楽しめる様々なバリエーションがラインナップされた。
第六世代 2015-2023年
リアの縦長の三連テールはオールドマスタングや先代からのイメージを踏襲しながらも、吊り目になって先代後期よりもさらにシャープな顔立ちに生まれ変わった第六世代。
基本的なデザインコンセプトは1960年代のモデルをベースに現代的にリデザインされている。
もっとも特徴的なのは”シャークバイト”と呼ばれるフロントグリルを中心にしたフロントマスク。これは1969年式のマスタングをオマージュしたもので、オールドモデルのイメージを上手に取り込んだことで話題を呼んだ。
全体的なデザインは先代よりも車幅が拡張され、車高も抑えたデザインに変わったことで、よりスポーティなスタイリングになっている。
エンジンラインナップは大幅に変更され、新設計の2300ccの4気筒エコブースト、3700ccのV6、5000ccのV8の3種類に。
トランスミッションは前期モデルが6速ATと6速マニュアルだったが、2018年のマイナーチェンジによって、オートマチックが10速にアップデートされた。
引き続きホットモデルとしてコブラのエンブレムを付けたシェルビーGT500もラインナップさている。
2021年にはマスタング・マッハEとしてEVのクロスオーバーSUVが登場したが、これはまったくの別モデルとして認識されている。
第七世代 2024年~
ここ数世代続いているレトロフューチャー路線の延長線上のデザインでフルモデルチェンジした2024年モデルは2023年夏から販売予定。先代よりもロングノーズ、ショートデッキが強調されたデザインになり、口を大きく開けたフロントマスクは健在。リアは縦3連のテールランプのデザインは踏襲されるけれど、サイドから見ると「くの字」にえぐれたような特徴的なデザインへと刷新されている。
搭載されるエンジンは2300ccの4気筒エコブーストとGTモデル用の5000ccのV8エンジンの2種類が基本。新たに生まれたホットモデルであるダークホースは、5000ccのV8エンジン(480馬力)をさらにチューニングして500馬力に仕上げた仕様になっている。ボディはクーペ(フォードでの呼び名はファストバック)とコンバーチブルの2種類。
コクピットは13.2インチという巨大なセンタースクリーンをダッシュボードに搭載するなど、インテリアはかなりモダンになっている。
今後、シェルビーGT500など、さらなるホットモデルの登場もあるかもしれない。
アメリカ車を代表する名車とも言えるフォード・マスタング。環境性能や安全性能が叫ばれる昨今でも、クルマ好きたちが求めるスポーツ走行も楽しめるモデルとして、これからも存在し続けてほしいものである。
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