単気筒から4気筒、直列6気筒、直列8気筒……そして、V型8気筒エンジンが登場。
自動車が誕生した当初は単気筒、つまりピストンをひとつしか持たないエンジンからスタートしている。当初は人が歩くスピード程度しかパワーはなく、よりパワーを求めるために、ピストンの数を増やそうという発想が生まれるのは、当然のことだったのだ。
その後、徐々に排気量やパワーは増加していくが、大衆車向けのエンジンは、一直線にピストンを4個並べた直列4気筒エンジンやさらにピストンを2個追加した直列6気筒が一般的となる。
直列エンジンはその後さらにピストンを2個追加した直列8気筒などが誕生するが、どうしても全長が長くなってしまうというデメリットがあった。そんなデメリットを解消したのが、4気筒をV型に2列配列したV型8気筒エンジンの登場だ。全長は4気筒並みでパワーは倍以上。この合理的なV8エンジンは後にアメリカ車のスタンダードになっていく。
1932年、アメリカンカーのトラディショナル【フォード/フラットヘッドV8】登場。
フォードは’32年にサイドバルブ式のV8エンジンを搭載したFORD V8(モデル18)を発表する。それまで超高級車にしか見られなかったV8エンジンを大衆向けに搭載した初めてのクルマとして’32年型フォードは特別な意味を持つモデルとなったのだ。このフォード製フラットヘッドV8は、’53年までフォード、マーキュリーに搭載され続けられた。
アメリカンカーのトラディショナルとして、V型8気筒エンジンはオイルショックの起きた’70年代までスタンダードとしてあり続けた。その最初のエンジンがFORD V8(モデル18)なのである。
エンジン機構もフラットヘッド(サイドバルブ方式)からOHV方式へ。
一方でエンジンの機構自体も進化を遂げていく。当初はシリンダー脇のエンジンブロック側にバルブを配置したサイドバルブ方式が主流だった。サイドバルブの愛称がフラットヘッドなのは、ヘッド側にバルブがないことで、バルブカバーを持たない平坦なヘッドが見えることに由来する。
その後のアメリカンV8の主流となるOHV方式はOver Head Valveという名前の通り、ヘッド側にバルブを持ち、プッシュロッドやロッカーアームを介して開閉をする機構。構造上、フラットヘッドよりも燃焼室の形状や圧縮比を理想に近い状態にすることが可能だったのだ。必然的にOHV方式のほうが同じ排気量でも容易にパワーを出すことができた。
それではなぜすでに20世紀初頭にOHV方式が登場していたにも関わらず約半世紀にもわたって、フラットヘッドエンジンは共存できたのだろうか? 実はフラットヘッドエンジンは、複雑なロッカーアームやプッシュロッドなどの機構を持たないため、低コストな上に故障が少なく耐久性が非常に高いのが特徴だった。そのため大衆車には長らく使用され続けたのだ。
フォードがV8を登場させた’32年当時としても、フラットヘッド方式はすでに時代遅れの技術だったはずだ。そ
れでもフォードがフラットヘッドにこだわったのは、アメリカ生まれのエンジンであること、また、やはりコスト面と故障の少なさではOHVにアドバンテージを感じたからにちがいない。その証拠にフォードは’53年に新しいOHVエンジンが登場するまでフラットヘッドV8を使い続けている。
▼フォードのV8エンジンを積んだ2大英国車もチェック!
1950年代のOHVエンジンラッシュの先駆け【シボレー/スモールブロック】。
フォードが’30年代からV8を搭載していたのに対して、シボレーは長らく直列6気筒をスタンダードエンジンとして使用してきた。そしてついに’55年にセダン用に新開発したV8は、OHV機構で軽量ながらそれまでのどんなV8よりパワフルだった。
ちょうど前年に登場したコルベットに搭載されたこともあり、このシボレー製V8エンジンは瞬く間に人気と
なり、後に長年使用されるスモールブロックV8の原点となるのだ。
アメリカ車の長い歴史にあって、フラットヘッドV8とスモールブロックOHVは数々の名車を支えてきた名作とも言えるエンジンなのである。クルマの進化の裏にはエンジンの進化あり。そんな目線でアメリカ車を読み解いてみるのも面白い。
▼エンジン愛に目覚めた方におすすめ!
関連する記事
-
- 2024.10.21
テスラModel 3で、520km走ってアメリカ最南端行ってみた!
-
- 2024.11.20
名車が並ぶ!クルマ、バイク好きのクラブハウスというガレージライフ。