開催中の都内における交通網の混雑を考えて、観戦はテレビで、あるいは東京を離れてどこかへ行こうと計画中の人もいるかもしれない。だが、会場の外での訪日外国人との交流は、オリンピックが自国開催されるからこその体験であり、ぜひともバーで互いの国の健闘を称える夜を過ごしてみたいものだ。
しかし、2013年、「お・も・て・な・し」が流行語になったオリンピック開催決定の年。「英語をマスターしてボランティアするぞ!」と意気込んで英会話教室に通い、この6年で見事に日常会話レベルに到達した人はいいが、挫折してしまった人間はどうやって交流すればいいのか……。そこで、強い味方になってくれるアイテムがここにある。
世界とつなぐ「浮世絵」を落とし込んだ、北斎アロハ。

大判錦絵/天保2年(1831年)頃/レーヨンフジエット/ 藍捺染/白蝶貝ボタン
「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」 とともに、富嶽三十六景シリーズを代表する図柄として知られる作品。凱風快晴が「赤富士」と呼ばれるのに対し、本作品は「黒富士」と呼ばれている。威風堂々と聳え立つ富士山の裾野は黒雲に覆われ雷鳴が轟き、 上空の青空には入道雲が浮かぶ。この頂上付近と下界の天候 を対象的に描いた情景描写には、いかに富士が高い山である かという、北斎ならではの表現に満ちている。また北斎の色 へのこだわりも継承し、プリントの青い部分は当時の色に近い本藍顔料、黒い部分には墨を使用する。2万7000円(サンサーフ/東洋エンタープライズ)
ひと際目立つ柄の正体は、北斎の描いた浮世絵だ。そもそも、移民としてハワイに渡った日系人が着物をリメイクして誕生したと言われるアロハシャツ。着物に由来する和柄など様々な柄や色で彩られ、その優れたデザインは“アートを着る”と称されるほど。特に和柄は世界的に人気な図柄となっている。今季、ヴィンテージアロハシャツをベースにその奥深い世界観を現代に蘇らせている『サンサーフ』がプロデュースしたのが、この和柄のルーツである日本のアート「浮世絵柄」だ。

こちらは1950年代前期頃のヴィンテージアロハシャツ。日本からハワイに生地を輸入し、オリジナルのアロハシャツも手がけた『S.HATA SHOTEN』によるもの。北斎が描いた富嶽(富士山)の浮世絵の影響を見て取れる逸品である。
西洋美術史にも影響を与えた北斎の浮世絵。

大判錦絵/天保2年(1831年)頃/レーヨンフジエット/ 藍捺染/白蝶貝ボタン
北斎が71歳から描き始めた全46図の 富嶽三十六景”シリーズの中でも、 最も有名な作品。「神奈川沖」とは東海道の宿場町・神奈川(横浜市神奈川区)の沖合を意味することから、現在の東京湾上から見た景色を描いたもの。力強く立ち上がる大波に対峙するのは端正な姿で佇む富士山。静と動の対比によって雄大な景色を表現した北斎の画力を味わえるのが魅力。また北斎は波を描く染料にベロ藍を使用していることから、このアロハシャツのプリン トには北斎が使っていたものに近い本藍染料を使用する。2万4840円(サンサーフ/東洋エンタープライズ)
日本を代表する芸術家である葛飾北斎。1867年のパリ万国博覧会で初めて海外で紹介され、その大胆な構図や色彩は西洋美術の印象派誕生のきっかけとなり、ゴッホやモネなど西洋美術史に名を残す画家にまで多大なる影響を与えた。
その北斎は宝暦10年(1760年)に本所割下付近(現在の墨田区亀沢付近)で生まれ、生涯のほとんどを墨田区内で過ごし、人生のすべてを画業に費やし、3万点を超える膨大な数の作品を生み出したのだ。

『富士山印』の1950年代後期に日本で作られたヴィンテー ジアロハシャツ。北斎が描いた鉤爪のようにするどい飛沫を持った、荒々しく反り返る高波の画風に影響を受けているのが判る。
「富士山」「波」「宝船」の3柄を身にまとう。

大判錦絵/安永8年〜寛政5年(1779〜’93年)頃/レーヨンフジエット/オーバープリント/白蝶貝ボタン
北斎が30歳前後の「勝川春郎」と名乗っていた時代の作品。当時、宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると良い初夢が見られるというので、正月用に作られた吉祥この上ない開運美術画である。七福神に加えて鶴・亀・鯛と縁起尽く しの図柄を、アロハシャツ全面に落とし込んだ逸品。また供えられた和歌は 「なかきよの とをのねふりのみなめさめ なみのりふねの をとのよきかな」(長き夜の 遠の眠りの皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな)と反対から読んでも同じになる回文となっており、 吉祥とユーモアが隠されている。2万7000円(サンサーフ/東洋エンタープライズ)
そんな北斎の多大なる功績を、ひいては世界に誇れる日本の芸術を後世まで伝えるべく展開されているのが、北斎作品とコラボレーションした『サンサーフ』のスペシャルエディションアロハシャツだ。今シーズンは「富士山」「宝船」「波」の3柄を展開している。これらのモチーフは、今季の新作と並べて紹介した1950年代のアロハシャツを見てみればわかるように、古くからアロハシャツの柄に存在した。そしてそれは、ルーツを辿ればやはり北斎らが生み出した浮世絵に端を発している。江戸時代に生み出された日本生まれのアート「浮世絵」が、20世紀半ばにハワイで生まれたアロハシャツへ影響を与えた。そして今、ルーツである「浮世絵」そのものがアロハに落とし込まれ、「北斎アロハ」が誕生したのだ。
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※掲載情報は取材当時のものです。
※現在取り扱っていない場合もありますので、ご了承ください。
(出典/「Lightning 2019年7月号」)
撮影/吉田佳央、桑山章 文章/ADちゃん、吉田佳央
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