島根や九州の民藝に、イングランドDNAが流れていた

民俗や地域伝統文化のあれこれに没頭しがちなエディターが、あなたの日々の暮らしに、とても小さなときめきをお届けしましょう。言葉だけは知っている作法や行事、未来をひらく温故知新、興味はあるけどよくわからない民俗のことなどについてわかりやすく紹介します。

神話の国・島根県は民藝の器の宝庫だった

八百万の神々をお迎えする稲佐の浜(島根県出雲市)

日本神話の地としても広く知られる島根県に、実は民藝の窯元が数多くある。

たとえば、出西(しゅっさい)ブルーとも呼ばれて人気のある出西窯、目玉焼きを美しく作ることができるエッグベーカー(ふた付きの陶器鍋)でも知られる湯町窯、食卓を多彩に健やかに彩る器を作る袖師窯、民藝運動を牽引した陶芸家・河井寛次郎の内弟子が営む森山窯などだ。

工房見学が可能な窯元もあるので事前に確認しておきたい。筆者の印象としては、島根県内の工房に訪問するたびに、他県とはひと味違う清潔感や工房空間の美しさに感じ入ることが多かったように記憶している。

神話とグルメにも誘われながら、民藝の器を求めに島根の窯元を巡る旅は、とても楽しい。

イギリス人バーナード・リーチ行脚の記憶

やわらかい化粧土を使って、器に線や柄を描く技法がスリップウェア。オーセンティックな中にある素朴な遊びの風情には、異国情緒さえ感じとれるかもしれない。かつてこの技法を国内の窯元に広めたのが、たびたび来日し、日本の民藝運動に大きな影響を与えたイギリス人陶芸家バーナード・リーチ(1887-1979)だった。

「カップにくちびるを当てて喜びはあるか」ともリーチは語ったという。食事シーンの大切な要素のひとつである身体への触れ心地をはじめ、水差しやカップが持ちやすくなるウエットハンドルといった技法や、エッグベーカーなどをリーチから受け継いだ各窯元には、イングランドDNAが今も流れ続けているといえる。

九州の民藝といえば、まず小鹿田焼

バーナード・リーチに師事した陶工の一人として知られるのが、九州は大分県日田市の小鹿田(おんた)焼の陶工であった故・坂本茂木さんだった。リーチに師事した19歳を経て、のちに名人として技術を発揮された。ご隠居後にお会いできたが、ご本人は愉快で豪快な御仁であられたように思う。大地の土から茂木さんの手を経て生まれた陶器は、何げない生活道具でありながら、まるで地球の多様な自然界の中で美しさを一株だけ擁した植物のような存在にも感じられた。

小鹿田焼には、現代もさまざまな陶工が活躍し、健やかな民藝の器を生み出している。九州を代表する民藝として、個性的な漢字表記とともにその名を覚えておきたい。

この記事を書いた人
中川原 勝也
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中川原 勝也

民俗と地域文化の案内人

エディター。地域伝統文化のこと、民俗のあれこれ、古民家・民藝・暮らしのこと、などを当サイトでは担当。これまで日本カルチャーを主なフィールドにしながら、国内の法人・自治体・商品のブランディングにまつわるメディア等を手掛けてきた。温故知新好きが募って、ただいま、月刊古民家誌『じゃぱとら』編集長。
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