泥染めの文様がアクセントとなる柔らかなツートーン。
世界でも最も知られた観光名所にして東京クラフトシーンの中心地としても有名な下町・浅草。明治時代より軍靴の一大産地として栄えた、この街に拠点を構えるレンドの吉見鉄平さんは、かつてオーストリアの名門〈ロサモサ〉にてシューパタンナーとしても活躍した今日のジャパンシューメーカーを代表する気鋭作家のひとりでもある。
そんな吉見さんにフェニカが立てた白羽の矢は、「泥染めレザーを用いたオリジナルシューズ」というお題目。今季コレクションのなかでも、ひときわ異彩を放つ別注レザーシューズが生まれ出るまでを、それぞれの立場から振り返っていただいた。
渡辺翼さん 吉見さんとのコラボレートは今回で3シーズン目となります。前任のディレクターがレンドの靴作りに惚れ込み、コンフォートシューズをメインとする新レーベル(テップ)の立ち上げとほぼ同時期にフェニカでもセレクトさせていただくようになりました。今回の泥染めレザーを用いた企画では、奄美の工房に同じ染色法でレザーを扱っている職人さんをご紹介いただいたことがきっかけで、まず革ありきでのスタートとなったため、早速、オーダーシューズを得意とする吉見さんに相談させていただきました。
——そもそも泥染めレザーの存在はご存知でしたか?
吉見鉄平さん そうですね。あること自体は薄っすら聞いていましたけど、まさか自分が扱うことになるとは思っていませんでした。基本的には革小物やバッグなどに使われている革のひとつで、我々靴職人にはなかなか縁遠いものだと考えていましたし。
——実際に泥染めレザーを手にして、どのように思われましたか?
吉見さん ぼくらが普段扱う革とは厚さや性質も全く異なるものでした。例えば、強めにテンションをかけて吊り込むアッパー部分に使うのは若干難しいのかなと。それに、かなり個性的な表情ですから、どうやって靴に落とし込むかを結構悩みましたね。
渡辺さん 今回使用した泥染めのレザーは、鞣しから染色まで、すべて奄美の職人さんによるものなのですが、レザーに染料を定着させる工程が何より難しいと伺っています。染色することで硬くなってしまったり、逆に硬くならないように染めを甘くすると色抜けを起こしてしまうようで、職人さんからも定着工程だけはトップシークレットと釘を刺されたりも。
吉見さん 革がパリパリになってしまったりするみたいですね。
——テーチ木染めや泥染めレザーでは絞り染めのような、タイダイ柄が一般的なのでしょうか?
渡辺さん もちろん絞り染めだけでなく、革を全体的に染めることも可能だと聞いていますが、今回は天然染めのニュアンスや醍醐味がより伝わるよう、タイダイ柄のものをセレクトしました。
伝統と遊び心の静かでさりげない存在感。
——ベースとなるモデルの選定はどのように?
渡辺さん まずは私の方からVチップのモデルでオーダーさせていただきました。というのも、自分自身で履くことを想定した場合、吉見さんの作ったVチップはまだ持っていませんでしたし、どういった化学反応を起こすかにも興味があったので。そこから次第にコンビシューズのようなデザインに落とし込む方向へ話が進むなかで、ラスト(木型)を選定しました。
フェニカではワークジャケットやミリタリーパンツといったアイテムを定番として展開しているので、まずはそれらとの相性を考え、ややボリューム感のあるラストを用いたUチップモデルと、それまでオーダーをメインで作られていた、やや細身でエレガントな趣きのあるVチップをセレクトさせてもらいました。確かに、個性的な表情ですからエキゾチックに振り過ぎないように、各ディテールにアイデアを出し合いましたね。
——この靴には、どういったシーンや装いを想定されていますか?
渡辺さん なるべくシーンは特定せず、ドレスにもカジュアルにも振り幅を持つユーティリティな靴を目指しました。日本の伝統や職人技、さらには遊び心を程よく表現しつつ、普段使いにも無理なく溶け込む靴だと思っています。
吉見さん 個人的には、かなりチャレンジングな企画でもありました。自分のブランドだったらまず取り扱うことのない素材でしたし。というのも、職人ってどうも保守的になってしまう傾向があるようで、今回の企画を通じて自分のブランドだけでは気づけなかった、新しい発見やトライもできました。こういったユニークなコンビシューズを決してかしこまったスタイルではなく、デイリーユースとして提案できることも、こういったコラボレートならではの利点のひとつですね。
この革靴が手に入るのはカスタムオーダー会だけ!
上)インラインでは基本的にオーダーのみの展開だったVチップモデル。タフかつノーブルな印象のあるカウハイドのアッパーを泥染めレザーの外羽根で切り替え、ショルダーレザー使用のインソールにはフェニカのロゴも加えられる。9万2246円(オーダー価格)
中)ドレスラインとは異なるオリジナルラストを採用し、レンドのカジュアルドレスラインを代表するモデルとなった外羽根式のUチップ。アッパーのエプロン部とキルトにムラ感のある泥染めレザーでポップなアクセントを加えている。8万1840円(オーダー価格)
下)同じくブラウンベースの外羽根式Uチップでは、素朴な褐色が特徴的なテーチ木染色のレザーをツートーンで配置。グッドイヤーの魅力でもある堅牢さと長時間履いても疲れにくい利点を活かし、デイリーユースにも最適な一足に。8万1840円(オーダー価格)
RENDO CUSTOM ORDER FAIR
開催期間: 4月28日(金)〜5月7日(日)
開催店舗: fennica STUDIO
新宿区新宿3-32-6 ビームス ジャパン5F
TEL03-5368-7300
営業:11時〜20時
休み:不定休
泥染め、テーチ木染めを施した上記のスペシャルモデルを中心に、レンドが選び抜いたこだわりの素材から選ぶことができる、ここだけの特別なオーダー会をお見逃しなく(数量限定のため、無くなり次第終了となります)
【問い合わせ】
ビームス ジャパン
TEL03-5368-7300
www.beams.co.jp/fennica/
※情報は取材当時のものです。
(出典/「2nd 2023年6月号 Vol.195」)
Photo/Yoshika Amino Text/Takehiro Hakusui
関連する記事
-
- 2024.10.26
セカンド編集部が「今」気になるシューズやらスウェットやらアイウエアやら4選!