根本部分の更新で、処理能力向上を図るIllustrator
Illustratorの話をしてくれたのは、『前髪パッツン』の岩本崇さんだ。
ご存知のように、企業ロゴから、看板、ポスター、タイトル画像……など、Illustratorで作られるものは多い。特に日本は世界的に見てもIllustratorユーザーが多いのだそうだ。
それもあってか、昨年秋に日本語の文字組み機能が全面刷新された。
写植時代からのさまざまな細かいルールの多い日本語組み版の世界だが、Illustratorでは長年アップデートにアップデートを重ねた状態になっており、複雑なデータを組むと日本語の処理が重くなっていた。
この日本語の文字組のシステムがゼロから再構築さて、非常に軽快に動くようになった。
しかし、この更新により文字組に微妙な差違が出るため、古いデータを使う際には『文字組更新機能』を通して、デザインをアップデートする必要があることには注意されたい。
また、Illustratorの基盤となる描画システムにも大幅なアップデートが施されている。現在、Illustratorの描画機能にマルチスレッドの導入が推進されており、一部の機能の処理が5〜10倍速くなっているという。
すべてのレイヤーにドロップシャドウを施す……というような処理も非常に高速化されており、ご覧のような複雑な画像の全面にドロップシャドウを施すようなシーンで、最大5倍高速化されているという。
フォントライブラリには新たに数十種類の日本語フォントが追加され、全部で1300種類以上の日本語フォントが利用できるようになった。
とりわけ注目は、アドビが独自に開発したフォント『百千鳥(ももちどり)』だ。このフォントは史上初のバリアブルフォントで、可変の仮想ボディを持つのが特徴。
昔の印刷物などで使われていた書き文字の世界では、文字スペースに合わせて長体、平体、文字の太さなどが使い分けられていた。
しかし、従来のデジタルのフォントで長体や平体をかけると、線の太さ自体も変わってしまっていた。
百千鳥は4種類マスターを持つことで、長体、平体をかけても線の太さは変わらない。そして線の太さはまた別のパラメーターとして調整できるようになっている。
これにより、文字スペースに対して、しっかりと収まり、強く自己主張するフォントが出来上がった。この和文バリアブルフォントの開発には、何と10年以上の年月がかけられているのだという。
下は、Adobe MAXの会場に作られていた百千鳥のブース。
レトロなホーロー看板などでは、スペースに合わせて、長体、平体を自在に使った手描き文字デザインが使われていたものだが、百千鳥はそれを再現することができるというわけだ。
少し、レトロなテイストではあるが、使い方によって表情の変わるフォントなので、これからさまざまなシーンで使われることになりそうだ。
2Dデザイナーでも3DなデザインができるProject Neo
もうひとつ、Illustratorユーザーにとって嬉しいのが、Project Neoのパブリックベータ版の提供だろう。
Project Neoは、Illustratorのベクターデータを元に、簡単に3D風デザインを構築できるシステム。
平面図形を、押したり引いたり、回転させたりすることで、立体風デザインを作ることができる。
下の写真はそうやって作った左の3D映像を元に、Fireflyを利用することで右のようなイラストが生成されるというデモ。
動画作成でも生成AI機能が大活躍
Premiere Proにも生成AIを活かした機能が用意された。人物など動いてるものを選択してマスクを作ることができるようになった。
これにより、背景のみをモノトーンにしたり、人物の後ろにロゴを合成したりできるようになった。さまざまなシーンで使えそうな新機能だ。
さらに、他言語の音声を生成することもできるようになった。自分が日本語で話した動画の英語版を作ることができるのだ。YouTuberの方は、英語が苦手でも世界進出が可能になった。
大量のキャンペーンコンテンツ生成にも対応
マーケティングツールであるAdobe GenStudioでも生成AIが使える。
SNSなどによって、必要とされる画像サイズや、キャッチや本文の文字数は違うものだが、Adobe GenStudioを使うことによって、マーケターがブランドのルールに応じたキャンペーンコンテンツを大量に作れるようになったという。
そうした広告を受けとる側としては、大量に生成された広告コンテンツが押し寄せてくると思うとゾッとするが、より自分にフィットした広告が表示されるのなら望ましいといえるだろう。
Adobe ExpressやAcrobatでも生成AIを活用
個人商店を営んでる人や、非クリエイティブ部門の人が、クリエイティブなコンテンツを作ることができるAdobe Expressについて語ってくれたのは、デジタルメディア事業部門およびGTM兼セールス部門担当SVPのマニンダ・ソーニー氏。
デザインに関する素養がなくても、アプリの使い方に詳しくなくても、プリセットされたデザインから選んで一部を変更していくだけでロゴやチラシやバナーを作ることができるAdobe Express。
今回は、バナーに簡単にアニメーションを入れたりする方法がデモされた。
さらに、Adobe Acrobatでも生成AI機能が日本語に対応。AIアシスタントして、ドキュメントの要約を行ったり、ドキュメント自体に質問したりすることができる。質問にドキュメントが答えてくれるようになるなんて、実に画期的だ。
このように、クリエイティブ部門のアプリだけでなく、マーケティングアプリや、ドキュメントアプリにまで生成AIがサポートしてくれるようになった。
あまりに新機能が多すぎて、本記事でもまったくカバーできていないが、自分が使っているアプリの新機能を探して使って見て欲しい。新機能を積極的に取り入れれば、驚くほど作業が効率的になるはずだ。
(村上タクタ)