渋谷でのスタートアップ支援の動き
フィル・リービン氏といえば、我々ガジェット系メディアとしては『元Evernote CEO』という側面が一番強く印象に残ってるが、一般論でいえば大成功した起業家であり、投資家。スタートアップ界隈では伝説の人物である。そのフィルと膝を突き合わせて話せるのなら、話を聞きたいという人は、いっぱいいる。
というわけで、今回のイベントは渋谷区のスタートアップ招致関連部署や、All Turtlesが主催となっており、場所はShibuya Startupの新オフィス。ちなみに、この場所は、10年前まで東急東横線の高架があった場所にできたShibuya Bridgeという新しいビルだ。
Evernoteを離れてからフィルは、All Turtlesというスタートアップ支援スタジオを運営している。
All Turtles
https://www.all-turtles.com/
みなさんご存知のmmhmmもここから生まれたプロダクトだし、先日、ご紹介したTellusもそうだ。その他にも数多くのプロジェクトが動いている。
ちなみに、今回のイベントの『仕切り』を行っているのは、Shibuya Startup Supportの田坂克郎さん(左)と、All Turtlesの井上健さん(右)。
話を聞きに集まってきたのは、渋谷に拠点を持つさまざまなスタートアップの方々。タイトルカットでお分かりいただけるように、日本はもちろん、さまざまな出自を持つ人が集まっており、イベントは基本的に英語で行われた。
インタビュアーを務めたのは、渋谷スタートアップス代表の渡部志保さん。モルガンスタンレー、Google、メルカリなど、AIスタートアップなどで、ロンドン、カリフォルニアの拠点に勤め、いくつかの企業のマーケティング支援を経て、現職の渋谷でのスタートアップ事業に就いたという豊富な経歴をお持ちの人物だ。
日本の『脱オフィス』、アメリカでの『脱シリコンバレー』
まず、最初に会場で行われたのは、パンデミックは日本の就労文化にとって、良い影響を及ぼしたか? 悪い影響を及ぼしたか? というアンケート。
飲食店や接客業の人にとっては、もちろん大変なことだったとは思うのだが、スタートアップやテック系の人にとっては、『良い影響を及ぼした』と考えている人が多いということだ。
大企業などでは、『出社』『対面ミーティング』の世界に戻りつつあるようだが、オンラインで話が済む人間関係と、情報共有の能力があれば、かならずしも対面でなくてもいい。少なくとも、そういう選択肢ができたのは良いことだということだろう。
ご存知のようにフィルは、mmhmmを作って、オンラインミーティングの利便性を向上させた。
現在、さらにmmhmmが推進しているのは、『非同期』のミーティング。つまり多くの人が同じ時間を費やしてミーティングするのではなく、通達事項などであれば、mmhmmで動画を作って、それを相手に見てもらえばいいという考え方だ。受け止める側は、好きな時間にその動画を見ればいいし、内容によっては1.2倍速、1.5倍速で再生してもいい。空間も時間も制約される必要はない。
現在、フィルは、アメリカ南部のアーカンソー州にあるベントンビルに住んでいる。ベントンビルは地方の小さな都市だが、世界最大の売上高を持つ企業『ウォールマート』の創業の地であり、現在も本社所在地で、美術館をはじめとした文化、教育施設が豊富にある。
これは、彼自身が、『シリコンバレーにいなくてもいい』『大都市にいなくてもいい』という、新しい生き方を体現するためでもある。
ご存知の方も多いと思うが、アメリカでは今、『脱シリコンバレー』の動きが進んでいる。
パンデミックの影響もあるが、サンフランシスコ〜シリコンバレーの家賃高騰など、物価が上がり過ぎて、多くの人にとって暮らしやすい場所ではなくなったのが大きい。さらに、それらの影響で職を失った人が増え、エッセンシャルワーカーがその給料では生活できなくなり、ホームレスが増え、治安が著しく低下しているということだ。
そんな中、テキサスのテクノロジー企業誘致の動きなどもあり、多くの企業がシリコンバレーを離れて、他の都市へと移転している。
フィルは、「ひょんなことから荒廃するサンフランシスコを離れて田舎町に軽い気持ちで一時退避した。しかしそこで、自らの住環境、地域、近所の商店や友人知人の大切さに気付かされた。テクノロジー以外の、人間にとって根源的な実態のある事業領域にも興味が広がった」と、地域コミュニティのある街の魅力について語った。
日本、渋谷での起業には、まだまだ魅力がある
たびたび来日している親日家であるフィルに対して、「日本で起業することについてどう思うか?」という質問があった。質問された方は、円安で、かつチャレンジ厳しい日本で起業するのはメリットが少ないのではないかという意味で、質問されたのだと思う。
しかし、フィルは、日本での起業について、非常にポジティブだった。日本の独自性、狭いエリアに密集して多くの人がいること、清潔で勤勉な人が多く物事が正確に進むこと、そして魅力的な独自の文化など、海外の人にとって魅力的である美点があり、それはまだまだ色あせてはいないとフィルは語った。
また、「日本のスタートアップ界は世界のスタートアップコミュニティに取り残されてしまっているのではないか?」というボヤキに対して、フィルは「コミュニティのメンバーになることは、コミュニティに貢献できていないと実現できない。受け取ることばかりを考えないで、まずは貢献を試みよう」と回答していた。スタートアップコミュニティというものがどういうものなのか、長くそこに属して、貢献してきたフィルならではの回答だ。
そんな渋谷のスタートアップ拠点で行われたこのイベント、フィルの話はもちろん、来場者それぞれのコミュニケーションも大きな価値を産んだようだ。今後も渋谷のスタートアップ支援の動きに注目していきたい。
(村上タクタ)
Shibuya Startup Support
shibuya-startup-support.jp
渋谷スタートアップ株式会社
https://upshibuya.com/ja/
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