角川映画『悪霊島』と深夜放送で観た『レット・イット・ビー』|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.15

1981年10月、映画『悪霊島』が公開された。主題歌は「レット・イット・ビー」。9月辺りから角川映画特有の広範囲のプロモーションが展開され、テレビとラジオでは繰り返しトレイラー映像や音源がオンエアされた。そのBGMとして使われていたのが「レット・イット・ビー」で、これがしつこいくらい繰り返し流れた。「♪I wake up to the sound of music」の部分を聞くと今でも『悪霊島』を思い出す。

大々的な宣伝展開がなされた角川映画『悪霊島』

にもかかわらず、わたしの心は動かなかった。この頃の角川映画は、メディアミックスの一環で公開映画作品のテレビドラマ版が作られており、わたしはそれで済ませていた部分も多く(ほとんどの角川映画はテレビ放送で観た記憶)、なによりジョンの死に便乗した角川の宣伝方法に、子どもながらに違和感を抱いたのだ。実際に周囲のビートルズファンの反応も鈍く、話題にはしても『悪霊島』を観に行った人間はいなかった。CMでお腹いっぱいになってしまった部分もあったのかもしれない。そしてぼくらは観てもいないのに皆一様に映画の悪口を言っていた。「あの使われ方はないよね」と。それでも公開を記念してリリースされたシングルはジャケ写真の珍しさもあって購入した。

その二か月後、年の瀬も押し詰まった頃、テレビで映画『レット・イット・ビー』が放送された。テレビ局はTBSだったということは覚えていたのだけど、日時までは忘れていて、ネットで調べてみたら 12月29日深夜0時10分だったという。この放送があることを知って以来、テレビでビートルズ映画が観られる! と、何も手につかないぐらい気持ちが躍っていた。『レット・イット・ビー』を初めて見られるというのはもちろんのこと、その少し前に家にVHSのビデオデッキが導入されたので、それを録画することを大いに楽しみにしていたのだ。その資金は父親が当てた宝くじ。一等の組み番号違いで20万くらいだった。それを元手にビデオデッキを買おうということになり、16万円くらいのナショナルの製品と当時は1本3000円くらいしたビデオテープを購入した。親が買ったのだが、そのデッキで最初に録画するのが『レット・イット・ビー』だった。

12月29日、TBS深夜枠で放送された『レット・イット・ビー』

『レット・イット・ビー』はビートルズの曲作りのプロセス、メンバー間の人間関係が克明に記録されたドキュメント。それまでフィルムコンサートで見てきた映像と異なり、ひげと長髪という渋くなった風貌の4人が、ときに激論し、ときに楽しく演奏する様子はとても興味深く、最後のルーフトップコンサートにはすっかり興奮させられた。このときに思ったのは、主役はポールということ。あとになってから事情を知り、ポールがバンドをまとめようとしていたことがわかるのだが、どのシーンも常に画面の中心にポールがいるという印象が強かった。

この『レット・イット・ビー』はところどころカットされていたほか、大胆なトリミングが施され、また日本語のナレーションが入るという独自編集版であった。もちろん、このときは知る由もないのだが、2年後にノーカット版を見て気づいたのは、後半にリンゴとジョージで「オクトパス・ガーデン」を作曲するシーンはまるまるなく、「トゥ・オブ・アス」のシーンは画面真ん中が極端にトリミングされ、中途半端なポールのアップになってしまっていたこと。最初に見たときポールは座って歌っているのかと思っていたが、実は立っていたことがわかって驚いた。かまやつひろしが担当していたナレーションは、全編にわたりフィーチャーされていたような印象があるが、実際のところ数か所しかなかったと思う。

翌日以降、録画した『レット・イット・ビー』をほぼ毎日何度も繰り返し、観ることになるのだが、そのたびに親から「また見ているの?」と小言を言われ呆れられた。それからというもの、『ベストヒットUSA』や『ファンキートマト』など、ビートルズの映像が流れそうなテレビ番組を片っ端から録画するようになり、お目当ての映像を録画し、それを再生するたびに「また観てるの?」「いいじゃん」という、お決まりのやり取りが繰り返される。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

【J.PRESS×2nd別注】こんなイラスト、二度と出会えない。 著名イラストレーターとのコラボスウェット。

  • 2025.10.21

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【J.PRESS×2nd】プリントスウェットシャツ【AaronChang】 アメリカにある優秀な8つの大学を総称して...

2nd

良質な素材感とシルエットが美しい、東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。

  • 2025.10.17

東洋エンタープライズが展開する「ゴールド」。白黒の世界で際立つ良質な素材感とシルエットをご堪能あれ。 質感、シルエット、美しいミリタリー&ワークウエア 米軍同様のへビーナイロンツイルを使ったMA-1。軽量性・保温性・防寒性を備えたクライマシールドの中綿でスペックは現代的だが、エイジング加工によってヴ...

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

【土井縫工所×2nd別注】日本屈指のシャツファクトリーが作る、アメトラ王道のボタンダウンシャツ発売!

  • 2025.10.07

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! トラッド派には欠かせない6つボタンのBDシャツ「6ボタン アイビーズB.D.シャツ」 アメリカントラッドを象徴するア...

いつものトラッドがこんなにも新鮮に!ジャパンデニムの雄エドウインが提案する、クラシックな黒

  • 2025.10.18

“黒”という色はモードファッションとの結びつきが強い。故にトラッドスタイルとの親和性は低いように思われる。しかし、エドウインの提案する“黒”は実にクラシックである。 クラシックなトラウザーズが黒とトラッドを身近にする ブレザー、ボタンダウンシャツ、スラックス……。アメリカントラッドを象徴するアイテム...

Pick Up おすすめ記事

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

いつものトラッドがこんなにも新鮮に!ジャパンデニムの雄エドウインが提案する、クラシックな黒

  • 2025.10.18

“黒”という色はモードファッションとの結びつきが強い。故にトラッドスタイルとの親和性は低いように思われる。しかし、エドウインの提案する“黒”は実にクラシックである。 クラシックなトラウザーズが黒とトラッドを身近にする ブレザー、ボタンダウンシャツ、スラックス……。アメリカントラッドを象徴するアイテム...

【土井縫工所×2nd別注】日本屈指のシャツファクトリーが作る、アメトラ王道のボタンダウンシャツ発売!

  • 2025.10.07

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! トラッド派には欠かせない6つボタンのBDシャツ「6ボタン アイビーズB.D.シャツ」 アメリカントラッドを象徴するア...

【J.PRESS×2nd別注】こんなイラスト、二度と出会えない。 著名イラストレーターとのコラボスウェット。

  • 2025.10.21

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【J.PRESS×2nd】プリントスウェットシャツ【AaronChang】 アメリカにある優秀な8つの大学を総称して...

進化と伝統、どちらもここに。「L.L.Bean」のアウトドアと日常の垣根を超える名品たち。

  • 2025.10.17

100年以上にわたり、アウトドアと日常の垣根を越える名品を生み続けてきた「エル・エル・ビーン」。誠実なモノづくりと顧客への真摯な姿勢は、現代まで脈々と受け継がれている。伝統を守りながらも進化を恐れない、その精神こそが、今も世界中の人々を魅了し続ける理由だ。 愛される理由は機能美とその誠実さ 100年...