アートアニメーションと商業アニメの違い
――今回、第2回を迎える「新潟国際アニメーション映画祭」ですが、堀越さんは前回に続いて実行委員長を務められます。
堀越:「新潟でアニメ映画祭を立ち上げてほしい」と頼まれたのが3年前。そこから新潟へ赴任して、今に至ります。これまで映画についてはさまざまな形で携わってきましたが、アニメの世界に深くかかわるようになったのは、新潟の開志専門職大学で教えるようになってから。でも最初の頃は卒業していく生徒の将来を考えると、明るい気持ちにはなれなかった。アニメーションはすべてにおいて、時間がかかり過ぎるんですよ。学生がひとりでアニメーションを作ろうとしても、2年かけて6分くらいの作品にしかならないし、今のアニメーションは、アートアニメーションと商業アニメーションに別れるんですが、生徒たちはアートが好きでアートアニメーションをやっているわけではないんですね。
――どうしても偏ってしまいますね。
堀越:アートアニメーションの技術を身につけても、商業アニメとは基本的に違うから、さらに専門学校へ行くしかない。でも、開志専門職大学では職種に応じて育成を行い、とにかく就職に結びつくスキルが学べることを目指しました。ここからアニメ業界に入ってもいいし、プロデューサーになってもいい。ところが、卒業後の進路を見てみると、なかなか上手くは行ってない。一方、専門学校ではアニメーターとして就職するために、志望会社の傾向と対策を教えていて、アニメ全体の歴史やグローバルな全体像は教えない。アニメーター希望者は減っているのが現状です。
---それを打開したいという思いが、新潟での映画祭に込められているのでしょうか。
堀越:そうですね。世界を対象にしたアニメーション映画祭を立ち上げることで、そこから飛躍できるのではないかという発想。やるならば世界を相手にしないと意味がないので。日本のアニメがもつ世界観をもっと広く伝えるべきですから。また、海外では日本とは違ったタイプのアニメーションが作られている。しかもここにきて、AIの発達や配信が盛んになったことによって、長編作品が増えてきた。今なら長編に焦点を当てた映画祭を実現できるし、コンペも行えると判断しました。長編アニメーションを扱うことで、従来のアニメ映画祭とは明らかに一線を画した、全く違うことができます。もうひとつは、作品の原作者である漫画家に着目してほしかった。今のところ長編アニメは原作漫画が大半です。そこに海外のファンにも興味をもってもらえるし、いろいろな産業との結びつきも考えられるでしょうから。
海外との交流がアニメーションをさらに高める
--この映画祭の特色のひとつにコンペティションがあります。
堀越:周りからは「本当にやるの?」って言われました。確かに長編アニメーションのコンペは、どこの映画祭でもやっていない。大変なことはわかっていたけど、ここでやらないと、と思って第1回から始めました。おかげさまで大きな反響を海外からもいただくことができた。それもあって2回目はさらに多くの参加があった。これまでの長編アニメーションは、それを作った人の名前までは知られていなかったのですが、このコンペをきっかけに大スターが生まれることを期待しています。
――もうひとつの特色、「アニメーションキャンプ」についてもお伺いします。
堀越:先ほどの話につながっていきますが、これまでの日本では、アニメーションを学んでいる学生への配慮が足りなかった。それでは若い人が育たないということで、映画祭に参加している監督、スタッフ、批評家らの講義を受講できる育成プログラムを立ち上げました。前回招待した学生たちは、「初めてディズニー以外の海外アニメを観た」と言っていました。今年は海外の学生にも声をかけて、映画祭の中で大いに勉強してもらうとともに、学生同士で国際的なつながりをもってもらい、今後の制作に活かすことができればと考えています。長編アニメーションは膨大な予算が掛かりますから、ひとつの国で作るよりも、数カ国合作の方が実現性は高くなります。ヨーロッパでは当たり前のように行われていることが、アジアでできないはずはない。
今後の日本アニメが進むべき道が見えてくる
――今回のレトロスペクティブ部門で、高畑勲監督の特集が開催されるのも楽しみです。
堀越:これだけ一度にまとめて観られるのは画期的だし、おそらく海外のファンが大勢やって来ることと思います。この先、アジアのアニメーション監督特集も企画したいですね。中国のアニメもレベルが高いですから。アニメの本場は日本だと、世界的に認知されています。だからこそ、その日本からアジアのアニメを世界に向けて紹介することは意味深いと思います。
――こうした長編アニメーションの映画祭が、継続して開催されることは、今後の日本アニメにも大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。
堀越:今の日本は自己表現としてのアニメーションを作ることが難しい時代になっています。数人しか、その権利をもっていない。また、長編アニメの制作には最低3年は掛かりますから、年に2、3本しか公開されない。でも実際にはアニメ作品が映画の興行収入の6割相当を稼いでいる。そのほとんどがテレビアニメの焼き直しで、作家の思いの込められたオリジナル作品が少ないのは寂しすぎる。海外のアニメーションを見ていると、日本では通らないような作品が、普通に上映されて人気を集めています。「新潟国際アニメーション映画祭」を見てもらえれば、世界にはこんなに多様なタイプの作品があることを感じ取ってもらえると思います。日本アニメが、今後どんな方向に進むべきかということも見えて来ると思います。
<プロフィール>
堀越謙三/ほりこしけんぞう
1945年東京生まれ。1977年にニュー・ジャーマン・シネマを紹介する「ドイツ新作映画祭」を開催。82年に「ユーロスペース」を開館。独自の興行・配給を行い、ミニシアターブームを牽引した。91年からは日本映画の製作、海外との共同製作も手がける。97年にアテネ・フランセ文化センターと共同で「映画美学校」を設立。2005年に東京藝術大学大学院映像研究科を立ち上げ、教授を務める(現名誉教授)。同年、川喜多賞を受賞。08年、フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエを受章。
『第2回新潟国際アニメーション映画祭』
3月15日から20日にわたり「第2回新潟国際アニメーション映画祭」が開催される。今回も新潟県新潟市の古町地区を中心とした施設や映画館を舞台に、さらに新たな会場も加えてボリュームアップ。コンペティション部門、世界の潮流部門、レトロスペクティブ部門、オールナイト部門の4部門に加え、多大な功績を残した二人の名を冠した大川博賞・蕗谷虹児賞で、制作の場で活躍するスタッフや企業の成果を讃えていく。今年のレトロスペクティブ部門では、『火垂るの墓』などの傑作で、2018 年の逝去後も世界のアニメ界に大きな影響を与え続ける高畑勲をピックアップ。長編デビュー作『太陽の王子 ホルスの大冒険』をはじめ全長編アニメ監督作を上映、そのキャリアを検証する。世界が新潟に注目する6日間になる。
『第2回新潟国際アニメーション映画祭』
3月15日(金)~20日(水)
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
https://niaff.net
取材・文:広川峯啓
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