『昭和40年男』の念願だったアリス表紙
では、その表紙及び巻頭インタビューをどうするか。それは、一にも二にも、アリスしかありえなかった。ニューミュージック=アリスというイメージも強いが、それを越えて、アリスは昭和40年代に生まれた人間に大きな影響を与えたグループだからだ。音楽に興味を持つ、深夜ラジオを聴く、テレビ番組で演奏シーンを見る、レコードを買う、コンサートに行くという音楽に対する能動行為を促し、あげくはギターを弾き、表現をするというところまでその影響は波及していた。かくいう筆者も、小5のときに「冬の稲妻」でファンになり、小6のときに、友人の家で聞かせてもらった『アリスⅥ』の感動は忘れられない。
その特集では企画意図への理解が得られ、タイミングにも恵まれたことから、9月中旬にアリスの3人が揃っての取材をすることができた。決まったときには思わず快哉を叫び、取材日が近づくたびに緊張が高まり、その日は神聖な気持ちで臨んだことは言うまでもない。目の前に3人がいる。まるで夢のようで、それだけで感動を覚えた。取材内容は、昭和のアリスと今のアリス。昔話をしているというよりも、昨日のことでも話すかのように時空を超えた感覚でたくさんの貴重な話をしてくれた。78年の大ブレイク前の苦労話がとくにおもしろく、下積みの前段があるからこその後の大ブレイクにつながったのだと、あらためて認知させられつつ、いまも3人で活動を続けていることに驚き、その奇蹟に感謝をせずにはいられないひと時となった。充実のインタビューだったことから、取材・文を担当したライターの内本順一さんは「最高の取材だった」と堀内孝雄さんからお褒めの言葉をいただいた。
雑誌が発売されて一週間ほどが経った11月17日 、有明アリーナで行われたアリスのコンサート「ALICE GREAT 50 BEGINNING 2022」を観る機会を得た。1万人は優に収容できるであろう、その有明アリーナが平日の夜に超満員。その根強い人気、動員力にただただ驚かされた。オープニングナンバーは彼らの代表曲「冬の稲妻」。最初から会場は異様に盛り上がる。間髪入れずに「ジョニーの子守唄」「涙の誓い」「今はもうだれも」と続いた。50周年を記念したコンサートということで、過去のヒット曲をほとんど披露する豪華なセットリストを余計なアレンジのないオリジナルどおりの演奏で聞かせ、会場を昭和の時代にタイムスリップさせる。今はいったいいつなのかと思ったのは一度だけではない。
曲間には谷村新司のMCが挟み込まれる。アリス50年の歴史と、その帰らざる青春の日々を振り返るのだが、やさしい語り口で言葉が発せられる度に会場が温かい空気に包まれた。アンコールの最後に演奏されたのは、「振り向かないで歩いて行ける」というフレーズから始まる「さらば青春の時」。心の中で歌詞を口ずさみながら、「こちらこそつき合わせていただきます」と強く思った。2024年にもツアーを予定しているとのことだったので、これは行かねばと、楽しみにしていたのだが、谷村さんの体調不良で延期に。きっとまた観られるはずと信じて待った。
今年のはじめ、『昭和40年男』編集部企画監修のコンピレーションアルバムの企画が持ち上がった。発売元のレコード会社からの縛りはなく、自由に選曲くださいとのことだったので、昭和40年男に影響を与えた曲という観点でセレクトしていったのだが、その際にどうしてもこだわりたかったのが、1曲目をアリスにすることだった。やはり、アリスなくして、この世代の音楽観を語ることはできないのである。無事許諾が降り、「ジョニーの子守唄」を1曲目に置くことができた。自分なりのアリスへの感謝の気持ちと敬意を表したつもりである。
人生を振り返るたびに再認識するアリス
昨年からの一連の流れ、そして、小学生の頃からの思いを改めて再確認していたなかで、飛び込んできた谷村新司さんの訃報に、思わず言葉が詰まった。突然のことで悲しみの感情が抑えきれない。あらためてアリスの存在の大きさをかみしめる。「こんなに大きな出会いがあったんだなぁって、人生を振り返るたびに再認識するのがアリスなんです」。本誌インタビューで谷村さんが語った言葉が、胸に刺さる。心よりご冥福をお祈り申し上げます。