「N-1 DECKJACKET」は船上での甲板作業に対応する寒冷地用の防寒ウエア。
アメリカ海軍の歴史はとても旧い。それはアメリカ独立戦争時代、イギリス軍の軍需物資を載せた輸送船が渡米するのを妨害するために、1775年に2隻の武装船を準備した大陸海軍を起源とする。
アメリカ海軍の存在意義は第一に国防であり、そのため戦艦などの兵器やデッキジャケットなどの装備などを充実させ、あらゆる戦争に備え勝つこと。そのため陸軍とは異なるアプローチで作られたプロダクツが存在するのが面白い。
第二次世界大戦近くになると数々のワーキングウエアをアメリカ海軍は採用していく。主だったところだとシャンブレー生地を使用したダンガリーシャツやダンガリートラウザーズ、デニム生地を使用したプルオーバー型ジャケットやショールカラーのカバーオールなど。これらは甲板作業などに従事する水兵たちが着用していたが、やはり戦艦などを展開させる海域によっては対応しきれない部分がある。暖かい気候の海域であれば問題ないが、寒い海域となると防寒衣料の支給は必須である。無論、戦う水兵たちの士気にも関わることなので、寒さを凌げる装備品の充実には尚更気は抜けなかったはずだ。
そこで寒冷海域に於ける甲板作業用のワーキングウエアとしてデッキジャケットが開発される。1930年代前半に採用された初期のデッキジャケットは、表側には耐久性の高いコットングログラン織(ジャングルクロス)の生地を使い、裏側には起毛させたウール素材を貼った、通称デッキジップやデッキフックと呼ばれるモデルである。これらのモデルをさらに改良・発展させ、コールド・ウェア・クロージング・システムであるN‒1を登場させる。
一般的にN‒1と聞くとデッキジャケット単体を想像するが、実は寒冷海域用の防寒システムの総称で、他にもトラウザーズやヘッドギアなどが開発されている。前身モデルと同じくコットングログラン織の生地を表側に使い、裏側は新たに毛足の長いアルパカモヘアウールを採用。ジッパーとボタンを併用する二重構造の前合わせや、チンストラップが付いたラウンドカラーが特徴となっている。
[N-1歴史年表]
1930年代後半~1940年代初頭 米海軍の艦艇乗組員が甲板上で着用する防寒用ジャケットが支給される。当初はネイビーカラーのコットングログラン生地を使い、前立てをジッパー式にした通称デッキジップが登場。後にジッパー式を金属フック式に変更した、通称デッキフックが登場
1943~44年 デッキフックモデルの後継としてN-1デッキジャケット(ネイビー)が登場
1944~45年 N-1デッキジャケット(カーキ)が登場。1950年に勃発した朝鮮戦争でも使用されていた
1950年代後半 米海軍の甲板作業用ジャケットN-1の後継モデルとしてA-2デッキジャケットが採用。その後の1980年代まで使用されていた
前身のデッキジャケットのカラーを継承したネイビーがN-1の初期型と言われる。カーキモデルと比べ基本的なディテールは変わらない。背面にはアメリカ海軍を表すステンシルがデザインされているのが特徴だ
【銘品】N-1 DECK JACKET(KHAKI)
アメリカ海軍が第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけて採用した、コールド・ウェザー・クロージング・システムであるN-1。そのデッキジャケットは戦争終了後に復員した水兵たちがプライベートでも着用していたほど防寒性能に優れていた。
N-1デッキジャケットは防寒衣料のため、着丈もやや長めのレングスとなっている。袖先はインナーリブの二重構造だ。
N-1デッキジャケットのライニングは保温力の高いアルパカモヘアウールが使用されている。毛足が長いため空気の断熱層を作り温かい。
小ぶりなラウンドカラーもN-1らしいディテール。チンストラップがデザインされており、襟を立てて留めることで防寒性能を高めた。
【N-1コラム】1950年代からファッションアイテムとして市場から人気を集めたN-1。
今日のファッションシーンでも、N-1デッキジャケットのリプロダクツを初め、デザインをモチーフとしたプロダクツが数多く作られている。そのファッションユースの始まりは、戦争終結後に復員した水兵たちから。彼らがプライベートで着用することでデザインと防寒機能が人々の目に留まり、N-1の民間モデルが1950年代から作られ始めたのだ。
N-1 CIVILIAN(民間)MODEL
(出典/「Lightning 2025年1月号 Vol.369」)
Text/A.Shirasawa 白澤亜動
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