使う人の顔を変える 唯一無二のヴィンテージ。
「お客さんの顔がね、変わるんです。格好よくなり、より豊かな表情にもなる。あれが最高ですよ」
総手縫いのビスポークスーツで決めた松島慶裕さんは、黒いザイールのフレームを磨きつつ、言う。
「元々メガネは顔の真ん中に位置する。他のどんなアイテムよりも人の印象を変えるものですから」
松島さんは中目黒のヴィンテージメガネ専門店『GIGLAMPS(ギグランプス)』のオーナーだ。
ジョニー・デップが好んでかけるタートオプティカルや、世界最古のメガネメーカーであるアメリカンオプティカル、あるいはフレームフランスとか。1900年代から’90年代に米英仏あたりでつくられたイカしたメガネが揃う。
旧いセルやザイールのフレームは置いておくだけでも変形しやすい。しかし、ココんちではすべて達人による徹底したメインテナンスが施されているのが、すごい。
つまり、半世紀以上前のメガネを新品のようなピカピカの状態でかけて“格好よくなれる”のだ。
「そのうえ誰ともほとんどかぶらない。他と違うのがいいんです」
ロンドンで言われた忘れられないひとこと。
他と違う格好よさを。
ファッションに目覚めた小学校5年くらいから、今も続く松島さんのアイデンティティだった。
石川県出身。当時、実家がコンビニだったため、いち早くファッション誌を手にできた。’90年代中頃の裏原が盛り上がっていた頃に、ストリートブランドの服や別注スニーカーを誰より速攻で通販。「早い」「欲しい!」の声が聞こえ、友人に個人売買で譲るのも早かった。周りの影響でスケートボードやターンテーブルもゲットした。てらいなく気になったカルチャーに飛び込むのも「他と違う」を求めた結果。大学進学で上京してからも姿勢は変わらなかった。だから3年になるとはじまる就職活動がガマンできなかった。
「『何で同じ色のスーツを着て、髪を黒くしなきゃなんだ?』と」
もっともココまでならままある話。松島さんが「他と違う」のは、就活をせずにそのまま海外に飛び出し、バイヤーになったことだ。
大学卒業後の1年間工場で働いて貯めた100万円を元手に英国留学。シェアアパートに住みながら午前中は語学学校、午後はノッティングヒルのセレクトショップでパートタイムで働きをはじめた。
「ロンドンでもスノッブな場所、しかもエンジニアドガーメンツなどの日本のこだわりあるブランドを扱うような個性的な店。デザイナーやミュージシャンなどのお客さんも多く、店に立つだけでセンスが磨かれる気がしましたね」
ある日、店頭で、声をかけられたことがあったという。
『あのメガネ、クールだったね』
『どこのブランドのメガネ?』
マーケットで買った’60年代のアメリカンオプティカルのクリアグレーのセーフティ。セレクトショップのルックブックでモデルをした時にかけていた私物だった。
「欧米人って身につけているモノをホメるじゃないですか。それでもあの時ほど、お客さんたちに聞かれたことはない。他と違った。ヴィンテージメガネにのめり込んだのは、その頃からです」
セレクトショップで働きつつ、まずはUK限定のスニーカーなどのバイヤーを始めた。2008年のリーマンショック後は、英国各地の革靴や革製品、ニットなどの様々なファクトリーを周ったり、ヴィンテージ古着を買い漁ったりとバイヤー業を本格化させる。
傍らでオンラインショップも立ち上げ。アメリカに買い付けの場を移し、東京に拠点を構えた。アメリカ全土を周り、RRLなどの当時日本で入手が難しかったブランドやメガネをはじめヴィンテージ小物を仕入れ、売った。
「ただね、だんだん潮目が変わってきた。バイヤーをしているとあからさまにわかるんです」
日本で売れるブランドは競合による価格競争が激化、さらに正規商品が国内市場を台頭し始めた。扱う商品も「他と違う」を。松島さんの特性を活かすときだった。ロンドンの記憶がふと蘇った。
「ヴィンテージメガネに絞ろうと決めた。他があまりやっていない、ブルーオーシャンだったから」
埋もれていたストックが誰かの価値ある1本になる。
『ギグランプス』はこうして生まれた。最初はウェブのみでの販売。 海外から仕入れたユーズドやデッドストックを、当時はまだ手に入りやすかったこともあって、価格と回転率を重視して販売した。
転機はキャリア50年の達人との出会いだ。曰く「世界一の美意識と腕」。彼がメンテを手掛けるようになると、フレーム全体が驚くほど美しい姿に変わった。アメリカの倉庫でくたびれていたはずのメガネが息を吹き返した。
「そして価格より質にシフトさせていったんです。当時のメガネだけが持つポテンシャルを最大限に引き出す、今のスタイルに」
2018年には中目黒に今の店舗をオープン。ココでの出会いが、さらにクオリティへの探究心を加速させた。『このフレーム、実物を初めて見た』『迫力が違うね』。心躍らせてメガネを物色するお客さんの表情は、何にも変えられない喜びがあったからだ。
「旧いメガネを磨きあげ、歴史と物語を伝えて、その価値をわかってもらう苦労と楽しさがまずある。埋もれていた価値を蘇らせてお客さんも僕も、もしかしたら地球にもいいことをしている」
そして今も毎日、ヴィンテージメガネが似合う格好いい誰かを送り出している。小さくても価値ある循環型経済を回す。他とは違う、格好いい店だ。
【DATA】
GIG LAMPS
東京都目黒区上目黒4-9-2 ガレリア2F 奥
TEL03-6412-7958
営業/13:00〜20:00
休み/水曜
https://www.gig-lamps.com/
https://theclockworker.com/(姉妹店のサイト)
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2024年1月号 Vol.357」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
関連する記事
-
- 2024.11.08
ガソリンスタンドごと作った、イケてる夫婦の「コンビニ」ストア。ABCD STORES
-
- 2024.11.21
福島県白河市にある、バッティングセンター横の「ボクらがつくったファミレス」
-
- 2024.09.11
「映画美術」をスパイスにした、カスタムカブのNo.1ショップ。
-
- 2024.11.05
機内食から“ハワイ料理店”への転身。店づくりのヒントは「USDM」。