風変わりな場所にできた愛し、愛される映画館。
場所は最初、中目黒や代官山あたりで探した。ところが意外なハードルが、街にあった。
「興行場法という法律があり、映画館は商業地域や工業地域など以外に建てちゃダメって規制がある。代官山や中目黒は住宅地域で映画館やパチンコ店、ボウリング場なんかを作れないんですよ」
じゃあどこに? 浮かんだのが東京の東側。個性的なコーヒーショップやパン屋さんなどが多くできはじめた清澄白河だった。
「清澄あたりは準工業地域。だから元工場や元倉庫といった天井が高い物件が多い。それをカフェなどにリノベーションして、雰囲気のある街になっていたんです」
そして三ツ目通りを北上して探すうち、今のこの場所、菊川駅から徒歩1分の物件を見つけた。約150平米、ガラスの大きな入り口と高い天井を持つ建物。1年前まで『菊川会館』の看板があった。
「元パチンコ店でした」
2022年9月、ここをミニシアター『ストレンジャー』にした。館名は『荒野のストレンジャー』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』からインスパイアされた。
「僕自身がストレンジャーですからね。広島から東京に出てきて、映画業界だって繋がりが強いわかじゃない“よそもの”だから」
最初の上映作品はゴダールと決めていた。しかも’80〜’90年代の作品に特化した特集上映だ。
「小さな映画館は個性で勝負するしかない。そこでゴダールでも上映権が切れ、配信もない’80〜’90年代ものを選んだ。風変わり(ストレンジ)がうちらしいだろうと」
奇妙(ストレンジ)なことも起きる。オープンの3日前、ゴダールが急逝。偶然にも世界で最も早い、追悼上映となったのだ。
「だから初日から本当に大勢の方に来ていただけた。オペレーションがあやふやだったから、僕ふくめスタッフは大変でしたけど」
今はオペレーションは完ぺきだ。何せもう1周年。クローネンバーグ親子、ジョン・カサヴェテスと通をうならせる特集上映を心待ちにするファンがちゃんといる。鑑賞後、カフェのカウンターで「やっぱ『クラッシュ』いいわ」「やっと『ハズバンズ』の長尺版を観れました」なんてスタッフと話し込む姿だって、日々みられる。
「お客さんは顔見知りも増えて友達というか仲間みたいなものだと思っています。“よそもの”を受け入れてくれた大切な仲間です」
そう。観客側もかつて岡村さんが『気狂いピエロ』に感じたのと似た思いを抱いている。「俺のために作られた映画館だ!」って。
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning2023年11月号 Vol.355」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
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