【インタビュー】パンク歌手であり芥川賞作家・町田康の作品が生まれる場所へ

メディア初公開、熱海の書斎へ

日本の音楽史に爪痕を残したパンク歌手という、異例の経歴を持つ芥川賞作家・町田康氏。誰にも真似できない独特の言い回しを武器に、文芸界でも名誉ある数々の文学賞を受賞し続けている。その作風がどこから生まれるのか。その答えを求めて、今回CLUTCH編集部は、インタビューを依頼。メディア初公開となる熱海の書斎で話を聞いた。
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紡がれる破天荒な文体に対し、意外ともいえる書斎の静けさ

東京の喧騒から離れた、静岡県熱海市。町田氏はここに活動の拠点を置いている。書斎と来客用の和室からは趣のある日本庭園を眺めることができ、静かで落ち着いた時間が流れる。
1970年代末、日本のアンダーグラウンドミュージックシーンを揺るがせた関西出身のパンクロックバンド、INU。そのヴォーカルをつとめていたのが町田氏だった。文学的で、鬱蒼と爆発がまじりあう不安定な雰囲気が当時の若者たちの心をつかみ、1981年のメジャーデビューアルバム『メシ喰うな!』は現在も語り継がれる日本のパンクロックの名盤となった。町田町蔵という名で作詞を手掛けていた青年は、’90年代に町田康として文壇デビュー。独特な擬態語や古語と現代語の混在といった言葉づかいで人間の普遍的な心理をコミカルに表現し、小説でも多くの人を“町田ワールド”に引き込んだ。
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そんなパンク歌手としての経歴や、コミカルな文体から考えれば、冒頭で触れた書斎の雰囲気は、いささか意外とも思えるものだった。「わりとアナログで、旧いものを大事にする性格だと思います」という言葉のとおり、書斎の隅で格別の味わいをみせていた木製の書類棚や10年以上愛用している椅子など、使い込まれた品々。熱心な愛猫家として知られる町田氏は書斎に2匹、住居スペースに5匹の合計7匹、そして犬も一緒に暮らしている。その愛するものと作風とのギャップも、また魅力を感じさせる。
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縦横無尽に興味のままに「惰性が一番危険な状況」

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お堅いイメージの文学界の中で破天荒なスタイルを貫き続ける姿は大変興味深い。天井まで届く書棚には、新旧の文学はもちろん、歴史書、宗教書、哲学書、ノンフィクションなどあらゆるジャンルの書籍が見事にランダムに並ぶ。パンク歌手ながら、落語や時代劇、演歌が好きだという町田氏の趣向がよく表れ、予測不可能な言葉づかいが生まれる理由を示しているようだ。
「周りの評価を気にしたり、周りにウケようと思って書いたことはないですね。ある程度の経験を積めば、世の中的にとりあえずOKなものはできてしまうんですよ。惰性というか、それが最も危険な状況だと思うので、常に自分が面白いと思うことを表現するようにしています。もちろん面白ければ何でもイイわけではなく、ピントが合っていることが重要ですが」

歌を唄っている時と小説を書いている時は“ライブ感”という意味で一緒

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しっかりと考えられていながらも二度とない偶然性を大切にする文体により、登場人物たちはさらに生き生きと描かれる。読み手もそのリズムに飲み込まれ、次々とページを繰る。その一体感、躍動感こそ町田作品の醍醐味だ。
「実は唄っている時と小説を書いている時は同じ感覚なんですよ。一度書いた文章がアクシデントで消えたとして、また一言一句同じようには書き直せないでしょう。執筆は緊張感のあるライブなんです。歌詞を書く方がまだ気楽で息抜きになったりして」
今日も熱海の一角で“面白い”思考に耽る町田氏。その頭の中が次はどのような作品となって表れるのか、今から楽しみでならない。
○町田康
1962年大阪府生まれ。1981年にINUのヴォーカルとしてメジャーデビュー。その後いくつかの音楽活動を経て1996年に『くっすん大黒』(文藝春秋)で文壇デビュー。翌年第7回bunkamura ドゥマゴ文学賞、第19回野間文芸新人賞を同時受賞。2000年『きれぎれ』(文藝春秋)で第123回芥川龍之介賞受賞。以後も2005年『告白』(中央公論社)で第41回谷崎潤一郎賞を受賞するなど、日本の文学賞を数多く受賞。俳優経験もあり。
(Photo by Masahiro Nagata 永田雅裕、Text by CLUTCH編集部)

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