「みんなと被るのが嫌やったから初のローファーは『コールハーン』やったな」|「ボンクラ」デザイナー・森島久さんのローファー考

これまでに様々な革靴を目にし、足を通してきた革靴巧者にローファーについて語ってもらうと、それぞれのローファーに対する考え方や認識の違いが見えてきた。今回は、「ボンクラ」デザイナー・森島久さんに貴重なコレクションとともに、存分に語ってもらった。

「ボンクラ」デザイナー・森島久|大阪を拠点に活動するブランド「ボンクラ」のデザイナー。ヴィンテージへの知識は古着だけにとどまらず、メガネや民芸など幅広い。最近は庭園や園芸に興味を持ち、勉強中だという

「みんなと被るのが嫌やったから初のローファーは『コールハーン』やったな」

「初めてのローファーは大阪のアメリカ村で、中学2年生のころやったかな。その時からひねくれ者やったから、みんなと同じものを買うのが嫌で、『ジーエイチバス』よりも少し高かったけど『コールハーン』のローファーを買うたんや」。

自他ともに認める、収集家である森島さん。ローファーだけでも、すべてマイサイズで70足ほど所有しているという。

「アメリカ村に自転車で行ける距離に住んでいたから、小学校6年生の頃から学校が終わると、急いでアメリカ村に向かって色々なものを見にいっててん。その時は、小遣いもそんなになかったから、あんまり買えるものもなかったんやけどね。今から50年近く前の1970年代やね、当時サーフ系のファッションが流行ってて、夏でもコール天、デニムやったらベルボトムとか、そういうものが流行っていて、その中に一部アイビー好きもいたことはいたけど、少数派やった。

高校生になって、バイトをするようになってからもずっとアメリカ村には通っていて、みんなと同じものを持ちたくなかったのと、まだ学生でお金もそんなになかったから、みんなが持っていない、そして買いやすい値段のものを探すと自然とトラッドな革靴とか、そういったアイテムを集めるようになっていったんやね」。

2nd本誌でも取材をしたことがあるが、森島さんといえば「オールデン」。今回、並ぶローファーも大半を「オールデン」が占めている。

「初めてオールデンを買ったのは、高校1年生の頃やね。嘘やないで。その頃、もう10歳上とかやったら『オールデン』履いてても、まだ分かんねんけど、高校生なんて『オールデン』なんか知らへんやろ。俺だって最初は『アルデン』って読んでたからな。ずっと同じやけど、本当にひねくれ者やから、誰も持ってへんものが良かったんよ。買ったのはローファーやなくて『インディブーツ』やったけどね。

ローファーに絞っても、『オールデン』が一番好きやね。種類によってラストが合わないのもあるけど、履きやすいし、一番履いてるのが『オールデン』。その中でも『オールデン』が生産していた頃の『ブルックスブラザーズ』のローファーが一番やな。やっぱり。アメリカントラッドっていう文脈の中でも王道中の王道やと思うし、他と被りたくないって気持ちがあっても、この格好良さには勝てへんわ。

いまはもう廃番になってるけど、ホンマお気に入りやったから、廃番になるって聞いた時に、ちょうど仕事でニューヨークに行く用事があって、履いてた2代目がボロボロになってたから、その時に買い足したんやったね。いま履いてるのが3代目で、あと3足同じもの同じサイズをストックしてあるな。かなりの数を持っているけど、学生の頃に買ったものは別として、マイサイズしか買わへんね。ただのコレクターやなくて、履きたいから買ってるわけで、そこは間違えへんようにしてるつもりやねんな」。

自身のことを「ひねくれ者」と語る森島さんだが、「みんなと同じが嫌やった」という言葉に集約されるように、誰も手にしないものを追い求めてきた姿勢が現在の圧倒的なコレクションへとつながっている。しかもその数は今もなお増え続けており、「履きたいから買う」というシンプルなスタンスからは、“好きな靴を履く歓び”こそが彼の原動力であることが、はっきりと伝わってきた。

「オールデン」に「ブルックスブラザーズ」、「ジーエイチバス」などのアメリカ靴から、「ジョンロブ」まで、国を問わず幅広いローファーを持つ森島さん。すべてサイズはマイサイズの10ハーフ。かなりの数を所有しており、履く頻度があまり高くないことから、状態の良いものが揃う。

「オールデン」のウィークエンドライン「ケープコッドコレクション」と「インターナショナル シュー カンパニー」の「ウィンスロップ」。どちらも、デッキシューズのように気軽に履けるローファーだ。

写真上から、「ジーエイチバス」、「ジョンロブ」、「オールデン」製の「ブルックスブラザーズ」とトラッド好きにはたまらないラインナップ。1番上の「ジーエイチバス」は、60年代頃のヴィンテージ。全体に「ブローグ」が施されている珍品だ。

(出典/「2nd 2025年6月号 Vol.212」)

この記事を書いた人
なまため
この記事を書いた人

なまため

I LOVE クラシックアウトドア

1996年生まれ、編集部に入る前は植木屋という異色の経歴を持ち、小さめの重機なら運転可。植物を学ぶために上京したはずが、田舎には無かった古着にハマる。アメカジ、トラッド様々なスタイルを経てアウトドア古着に落ち着いた。腰痛持ちということもあり革靴は苦手、持っている靴の9割がスニーカーという断然スニーカー派。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

革ジャン職人が手掛ける、経年変化するレザーハット気にならない?

  • 2025.10.31

気鋭のレザーブランド「KLOOTCH」のレザーハットラインとしてスタートした「Brunel & Co.」独学のレザージャケット作りで磨いた革の感覚を、“帽子”という舞台で表現する──。自らの手仕事で理想の革を探求する職人が辿り着いた、新たなレザークラフトの到達点。 革ジャン職人の手が導く、生...

宮城県大崎市の名セレクトショップ「ウルフパック」が選ぶ「FINE CREEK」の銘品革ジャン4選。

  • 2025.10.31

宮城県大崎市に、ファインクリークを愛してやまない男がいる。男の名は齊藤勝良。東北にその名を轟かす名セレクトショップ、ウルフパックのオーナーだ。ファインクリーク愛が高じて、ショップの2階をレザー専用フロアにしてしまったほど。齊藤さんが愛する、ファインクリークの銘品を見ていくことにしよう。 FINE C...

「BILTBUCK」の2025年は新素材によって既存モデルを再解釈した革ジャンに注目だ!

  • 2025.11.03

伝統と革新を往来しながら、レザーの魅力を追求するビルトバック。2025年のコレクションは、オリジナルレシピで仕立てた渾身の新素材によって既存モデルを再解釈。質感と経年変化、レザーの本質的な美学を磨き上げ、洒脱な大人たち〈Hep Cats & High Rollers〉へ贈る、進化であり深化の...

“黒のコロンビア”って知ってる? オンオフ自在に着回せる、アップデートされたコロンビアの名品を紹介!

  • 2025.10.21

電車や車といった快適な空間から、暑さや寒さにさらされる屋外へ。都市生活は日々、急激な気温差や天候の変化に直面している。実はその環境こそ、自然で磨かれた「コロンビア」の技術が生きる場だ。撥水性や通気性といったアウトドア由来の機能を街に最適化し「コロンビア ブラックレーベル」は、都市生活者の毎日を快適に...

渋谷、銀座に続き、ブーツの聖地「スタンプタウン」が東北初の仙台にオープン!

  • 2025.10.30

時代を超えて銘品として愛されてきた堅牢なアメリカンワークブーツが一堂に会するブーツ専門店、スタンプタウンが宮城県仙台市に2025年9月20日オープン! 東北初となる仙台店は北のワークブーツ好きたちにとって待望の出店となった。 珠玉の銘品たちがココに揃う。 ブーツファンが待ち焦がれた東北エリア初となる...

Pick Up おすすめ記事

革ジャン職人が手掛ける、経年変化するレザーハット気にならない?

  • 2025.10.31

気鋭のレザーブランド「KLOOTCH」のレザーハットラインとしてスタートした「Brunel & Co.」独学のレザージャケット作りで磨いた革の感覚を、“帽子”という舞台で表現する──。自らの手仕事で理想の革を探求する職人が辿り着いた、新たなレザークラフトの到達点。 革ジャン職人の手が導く、生...

宮城県大崎市の名セレクトショップ「ウルフパック」が選ぶ「FINE CREEK」の銘品革ジャン4選。

  • 2025.10.31

宮城県大崎市に、ファインクリークを愛してやまない男がいる。男の名は齊藤勝良。東北にその名を轟かす名セレクトショップ、ウルフパックのオーナーだ。ファインクリーク愛が高じて、ショップの2階をレザー専用フロアにしてしまったほど。齊藤さんが愛する、ファインクリークの銘品を見ていくことにしよう。 FINE C...

渋谷、銀座に続き、ブーツの聖地「スタンプタウン」が東北初の仙台にオープン!

  • 2025.10.30

時代を超えて銘品として愛されてきた堅牢なアメリカンワークブーツが一堂に会するブーツ専門店、スタンプタウンが宮城県仙台市に2025年9月20日オープン! 東北初となる仙台店は北のワークブーツ好きたちにとって待望の出店となった。 珠玉の銘品たちがココに揃う。 ブーツファンが待ち焦がれた東北エリア初となる...

「BILTBUCK」の2025年は新素材によって既存モデルを再解釈した革ジャンに注目だ!

  • 2025.11.03

伝統と革新を往来しながら、レザーの魅力を追求するビルトバック。2025年のコレクションは、オリジナルレシピで仕立てた渾身の新素材によって既存モデルを再解釈。質感と経年変化、レザーの本質的な美学を磨き上げ、洒脱な大人たち〈Hep Cats & High Rollers〉へ贈る、進化であり深化の...

生きたレザーの表情を活かす。これまでになかった唯一無二の革ジャン、「ストラム」の流儀。

  • 2025.10.30

生きたレザーの質感にフォーカスし、“バーニングダイ”をはじめとする唯一無二のレザースタイルを提案するストラム。我流を貫き、その意思を思うがままにかき鳴らすことで、オリジナリティを磨き上げる孤高のレザーブランドだ。デザイナー桑原和生がレザーで表現するストラムのモノ作りの哲学、彼が革ジャンを通して描き出...