始まりは50年代製のリーバイス[501]だった
オーベルジュの小林さんは、かつて文化服装学院を卒業後の1988年、21歳でフランスへ遊学している。現地で最初に手に入れたヴィンテージがリーバイス[501]だった。
「渡仏してすぐにパリで知り合ったかっこいい連中が〝アメリカ好きなフランス人〟ばっかりで。彼らがアメリカのヴィンテージを上手に着こなしていたんです。そこから自分も買いまくり、着まくるようになりました。そうした生活の起点になったのが、現地で初めて手に入れた1951年製の[501XX]です。
これをパリで穿いていた当時から、大戦直後のXXは肌触りがしなやかでとても柔らかいと感じていました。その思いはいまでも変わっていなくて、〝この時代のXXこそが歴代のデニムのなかでも最高に穿き心地がいい〟というのが周囲のヴィンテージ好きの間でも定説になっています」
オーベルジュが辿り着いた「最高の生地」の答え
フレンチを軸とした欧州、そしてアメリカ。世界の旧きよきヴィンテージに触発されて、その生地や型紙、縫製、付属品に見られる贅沢・偶然・計算・粗野といった愛すべき要素を独自解釈した後、いま着られるワードローブとして再定義する。それが、オーベルジュの服創りである。
日本の服飾業界を代表する最強粋狂人・小林学さんは、自身の内部でたぎる理想と情熱のおもむくままに、2年前から「シーアイランドコットンデニムプロジェクト」に挑んできた。それは、小林さんがパリで手に入れて寵愛してきた1951年製[501XX]の柔らかい穿き心地を自身のブランドにおいて再現するための挑戦だ。
「シーアイランドコットンの特長は、繊維が長くて、細くて、強いこと。いわゆる超長綿のなかでもシーアイランドコットンのスペックこそ最強と言えるのではないでしょうか。このスペックがあれば、あの穿き心地に並び、超えていくことも可能なのではないかと考えました。
現在、この綿の産地はアメリカとジャマイカの2カ国です。シーアイランドコットンの原種が超長綿に進化したのは、ジャマイカ島を含む西インド諸島でした。すなわち、カリブ海域こそがシーアイランドコットンにとって母なる海なのです。それどころか、地球上に現存するすべての超長綿の源流がシーアイランドコットンだとされています。だから、今回のプロジェクトにおいては、母なるカリビアンシーアイランドコットンを使うことに、全力でこだわりました」
ワークウエアとしての頑強さが求められるデニム生地には、当然ながら太番手の糸が使われる。それに対し、シーアイランドコットンは、その特長からシャツやカットソーなどに使われる細番手の糸が重用されてきた。
「だから、シーアイランドコットンの既製の糸にはデニムに使えるような太い番手のものが存在していないのです。そのため、糸をオリジナルで紡ぎ出すところからスタートするしかなかった。今回のプロジェクトは、日本におけるシーアイランドコットンの原綿輸入から糸の生産・販売までを手がけているシーアイランドクラブとの共創なくして成立しませんでした。
また、岡山にてデニムを主軸に様々なテキスタイルの開発を行っているワン・エニーとの共創があって初めて、カリビアンシーアイランドコットンを使った前代未聞なデニム生地を生み出すことが可能になりました。1951年当時のXXのネップ感を再現するためにカリビアンシーアイランドコットンの落ち綿も混ぜ込むなど、柔らかさと粗野感のリアリティを追求して、『これは突き抜けたな!』と胸を張れる仕上がりになりました」
セットアップで着用してみると、極上の柔らかさに身体が覆われる
CARIB WW
今回のプロジェクトでは1stタイプのGジャンも製作。フランス人がよく行うセルフカスタムに倣い、左身頃内側にデッドストックのリネン生地を使ったスレーキを配す。13万2000円(スロウガンTEL03-3770-5931)
CARIB XX
4つの糸番手を駆使した綿糸による飾りステッチ、鉄製のタックボタン、銅無垢製のリベットは、鈍く燻された質感へと変化する。型紙の妙でシルエットは現代的に洗練。8万4700円(スロウガンTEL03-3770-5931)
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「2nd 2024年6月号 Vol.205」)
Photo/Yuta Okuyama, Norihito Suzuki, Shigeki Tsuji Styling/Shogo Yoshimura Hair&Make/Kentaro Katsu Text/Kiyoto Kuniryo
関連する記事
-
- 2024.11.20
松浦祐也の埋蔵金への道。第10回 夏季最上川遠征・没頭捜索編 その2。
-
- 2024.11.19
[渋谷]革ジャン青春物語。—あの頃の憧れはいつもVANSONだった。—
-
- 2024.11.17
なぜ英国トラッドにはブラウンスウェード靴なのか? 相性の良さを着こなしから紐解く。