松浦祐也の埋蔵金への道。第3回「ヤられる前にヤルしかねえ」

映画でセリフを言ったり言わなかったりする。俳優業以外での収入を得るために『浪子回頭日記』という兼業俳優の赤裸々な日記を連載しているが、まったくゼニにならず、どうしたものかと焦っているマツーラこと松浦祐也が、本気で(?)お宝探しに挑戦中! この連載もはや第3回、ついに! お宝探しへの第一歩を踏み出した!

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松浦祐也の埋蔵金への道。第1回「やっぱり、 あるとしか言えねぇ」

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松浦祐也の埋蔵金への道。第2回「何を言おうとこっちにゃ証拠があるんだわ!」

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ヤられる前にヤルしかねえ

文・松浦祐也|内装業と俳優業をやったりやらなかったり。寒くなって腰痛が悪化。腰がピキッとするたびに先っちょからチョロっと出てしまう。最近はアジ釣りにハマっている。所沢生まれのライオンズファン

夏から秋にかけてバタバタと映画撮影に追われ、終わればすぐに内装仕事に勤しむアタシでございます。「労働者の本質は労働にあり」というマルクスの言葉を実践しているわけではなく、出演料だけでは家族を養えないという切実な問題から働かざるを得ないので、オールアップの翌日には肉体労働者として建築現場に舞い戻ります。

今日も工房でヒップなジェイウェーブを聴きながら作業をしておりますと、当誌の敏腕編集長ウエダくんから電話がありました。「お、編集長。次回はどうする?」「ええ、次は実際のトレジャー・ハンターの方にお会いしてお話を聞きましょう」「おい、大丈夫か? モノホンのトレジャー・ハンターに会ったら怒られたりしねえか?」「まあ大丈夫だと思いますよ」

ウエダくんは気にしてなさそうだがアタシみたいなインチキ野郎が来たら、マジなトレジャーハンターは不愉快になるんじゃねえだろうか?

「お相手が日本トレジャーハンティング・クラブのヤエノさんって方なんですが」「え? ヤエノさん?」。あら? ヤエノさんって、アタシが読んだ『徳川埋蔵金伝説』の著者名と似てねえか?「ウエダくんよお、ヤエノさんって、まさか八重野充弘さんじゃねえよな?」「えーっと……あ、そうっスね、ご存知ですか?」「ご存知ですかじゃねえよ! 日本のトレジャーハンティング界の第一人者だぞ!」。

この前、八重野さんの本を貸したじゃねえか。埋蔵金見つけようって企画の相棒が、偉大な先人である八重野さんの事も知らねえなんて不勉強が過ぎるぞ。「では、明日の昼に八重野さんのご自宅でお話を伺える事になりましたので」

ちょっと待て、急すぎるだろ! 極めて事務的に物事を進行し始めたウエダくんは、官僚的強引さでアタシの意見を挟む間を与えず「後ほど八重野さんのご自宅の住所をメールさせていただきます。お手数ですが現地集合でお願いいたします」と、急にビジネスマン的言葉遣いをする。

こっちは万全の準備をしなきゃ八重野さんとお話なんかできねえよ。そもそも連載の初回で「埋蔵金を発見したら黙って懐にしちゃうもんね」とか「億万長者になってコロンビアで美女に囲まれながらパライソな余生を過ごすズラ」とか書いちゃってるし、こんなふざけた企画見せたら、人生をかけて探している先人に「テメエ、トレジャーハンティングを根本からナメてやがるな!」って激怒されて、金属探知機でブン殴られ赤城山の巨大な穴っぽこに埋められちゃうかもしれねえだろ! なんてアタシの心配事をヨソに、ウエダくんは極めて一方的に通話を切ったのである。

八重野充弘氏。1947年生。乙女座。熊本県熊本市生まれの純粋肥後もっこす。立教大学社会学部社会学科卒業後、22年の出版社勤務を経て作家活動に専念。1978年より天草四郎伝説を皮切りに日本各地の埋蔵金伝説の調査を始め、実際に多数の発掘調査を実施。1978年「日本トレジャーハンティング・クラブ」を結成し、代表世話人を務める。1977年著作『三角池探検記天草四郎軍の遺宝を求めて』で日本旅行記賞受賞。『桃太郎の黄金』『謎解き・徳川埋蔵金伝説』『埋蔵金探し完全マニュアル』等、多数の埋蔵金に関わる本を執筆されている。日本のトレジャーハンティング界に絶大な影響を与えた伝説的先駆者・畠山清行氏とも交流を持ち、共に発掘調査もしている。

(畠山氏は昭和初期から半世紀以上にわたって日本全国の伝説地を実地調査し、当時生きていた実際の関係者の証言を収録した著書を多数残した埋蔵金研究家。現在のTトレジャーハンティングにおいても畠山氏の著作がバイブルになっているのだ)。

ちなみに『謎解き・徳川埋蔵金伝説』の著者略歴欄には八重野さんの写真が掲載されているのだが、精悍な顔立ちであご髭を生やし眼光鋭い様は、まるで戦国武将。現代であれば神戸製鋼のラグビー部に在籍してそうな顔だ。正直、会うのがおっかねえ。

面会当日。八重野氏のご機嫌を損ねちゃならねえから高級洋菓子屋「ロートンヌ」で献上する焼き菓子を購入し、集合場所に参じた。本日はアタシと編集長ウエダくんの他に、八重野氏との実務交渉を担当した編集ナマタメくんの3人が同道。ヒトの良さそうなナマタメくんは記録用写真係も兼任する。

「やー、ちょっと緊張しますね。あ、マツーラさんビーサンじゃないんスねえ」なんて呑気な事をウエダくんが言うもんだから、緊張でピリピリしていたアタシはそのヘラヘラ顔に全力で右ストレートを叩き込み「相手はトレジャーハンティング界の大親分だ! 軽薄な本性を見抜かれてはならぬ!」と一喝し、気合を入れてやった。もちろんアタシは失礼のないようにビーサンではなく親父に借りた真新しい登山靴を履いてきている。

ウエダくんもいよいよコトの重大さに気付いたらしく、レンズが割れてフレームの曲がったメガネを拾い上げ、小声で「ヤってやる」と呟くや否や「いつまでカメラいじってんだ! このスレイブが!」と、マジメにカメラの調整をしていたナマタメくんの鼻っ柱に突然頭突きをブチ込んだ。

ナマタメくんは『椿三十郎』のラストシーンの如く、大量に鼻血を吹き出しながら路上に倒れ、アスファルトに後頭部を強打した。ウエダくん、これはパワハラを超えて傷害事件になってるんじゃないか? と心配するアタシをギラリと見据えながら、血塗れのナマタメくんがゆっくりと起き上がる。

あらー、ナマタメくんの右眼は右斜め上を、左眼は左斜め下を向いてしまっている。頭を打った衝撃で視覚神経がおかしくなってしまったらしい。ヒアーとゼアーの虚空を睨んでいるから正面に立っているアタシの姿は全く見えていないはずであるが、ナマタメくんは小さな声で「ヤルしかねえ」と囁き、両手で長玉レンズを振り上げ鼻血をドバドバ吹き出しながら「マチューラァ、気合入えおォ」と、アタシの顔面に狙いを定めた。

アタシは冷静を装いながらナマタメくんの頬にゆっくりと右手を当てて「ナマタメェ、お前の目には見えてねえだろうけど、俺ァ気合満タンだから大丈夫だ」と優しく諭す。ナマタメくんは、あれ? 順番で殴るんじゃないの? って不満そうな顔をしたので、「よし、これでみんな気合が入ったな! いざ参らん!」と大声で宣言し、八重野氏宅のチャイムを押したのであった。

(出典/「2nd 2024年2月・3月合併号 Vol.202」)

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