取材したのは・・・「ハロゲイト」松田哲弥さん
2020年に生まれた革靴ブランド「ハロゲイト」のモデリスト。独立して18年目、これまでにおよそ100を超えるブランドの木型を手掛ける。
50年代当時、すでに木型は完成していた。
そう語るのはこれまで100以上ものブランドの木型製作を引き受けてきた木型職人、松田哲弥さん。見てきた木型の数知れず、日々木型の研究に明け暮れる「日本一、木型に詳しい男」と言って差し支えないだろう。彼曰く「木型というものはすでに50年代には完成形ができあがっていた」そうだ。
大量生産の時代が訪れるまでは、ひとつひとつ丁寧に作られていた革靴。そのころの職人たちの熱意は凄まじかった。どれだけ足の構造に沿ったつくりになっているか、つまりどれだけ「実用性」の高い靴づくりができているかをとことん突き詰めた。そして50年代には「答え」となる木型が作られていたらしい。
それを知ったうえでなぜ松田さんは木型を作り続けるのか。「木型ってすごく 難しいから楽しいんです」と言った彼の頭のなかを少しでも分かりやすく伝えられるように、木型のページを作ったのである。
まず知っておくべき“ローリング構造”について。
木型のことを知るうえで必ず押さえておかなければならないのがローリング構造。それは人間の歩行をサポートする構造のこと。これがなければ本当の意味で靴とは呼べない。
足の裏の地面に着く順番 =“ローリング”
歩くときは、足のかかと(①)から小指側(②)に、小指側から親指の付け根(③)といった順で重心が伝わり親指の先(④)から抜けていく。この歩行時の動作は、人間の構造上例外なく行われ、これを専門用語で「ローリング」と呼ぶ。靴関連の仕事に携わっている人ぐらいしか使わないようなマニアックな用語だが、木型のことを知るならマストで知っておかなければならない。
ローリングを助けるための構造 =“ローリング構造”
歩行時のローリングを補佐するための構造を「ローリング構造」と呼ぶ。この構造を入れることで、「足入れ(ホールド力や歩きやすさ)」は良くなるが、そのぶん木型の形がねじれるので、作るのが難しくなる。例えば、木型の小指側が親指側より高いのも、かかとから親指側に向かって踏み込みやすくするためのローリング構造だ。
良質な靴の絶対条件とは?
上のグラフは、松田さんから見た「靴の完成度を表すグラフ」である。まずローリング構造を備えている時点ですでに70%は達成しているという。(その内訳はすべて実用性である)。そこからさらに実用性を追求するのか、デザインの美しさに気を配るかは、木型職人の目的と意気込み次第。すくなくともローリング構造がない靴は、松田さんから見れば及第点以下ということは覚えておこう。
【問い合わせ】
ハロゲイト
https://harrogate.jp/
(出典/「2nd 2022年11月号 Vol.188」)
Photo/Shigeki Tsuji Text/Shuhei Takano Illustration/miltata(shoes), Goro Nagashima(logos)
関連する記事
-
- 2024.11.20
松浦祐也の埋蔵金への道。第10回 夏季最上川遠征・没頭捜索編 その2。
-
- 2024.11.19
[渋谷]革ジャン青春物語。—あの頃の憧れはいつもVANSONだった。—
-
- 2024.11.17
なぜ英国トラッドにはブラウンスウェード靴なのか? 相性の良さを着こなしから紐解く。