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『コミュニケーションロボット博』に行って、日本とコミュニケーションロボットの未来について考えた

GWの初日ともいえる2025年4月26日、お台場の日本科学未来館の7階で、『コミュニケーションロボット博』が開催された。主催は株式会社MIXI。MIXIのRomi Lacatanモデル、ソニーグループのaibo、パナソニックE&CのNICOBO、ソフトバンクロボティクスのPepper、ユカイ工学のBOCCO emo、GROOVE XのLOVOT、シャープのRoBoHoNの他、豊橋技術科学大学ICD-LABの『弱いロボット』などが展示され、それぞれの開発者などが登壇し、トークセッションを行った。『コミュニケーションロボット』という分野が明確に確立しているわけではないし、どのロボットがコミュニケーションロボットなのかも明確に区分けされているわけではないが、そこで展開されたのは非常に興味深い分野の萌芽であると感じられた。

コミュニケーションロボット博
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000639.000025121.html

『コミュニケーションロボット』を愛せるのか?

みなさんは、『コミュニケーションロボット』というものに興味はあるだろうか? 筆者は、正直なところ、今回取材に行くまで、あまり興味を持っていなかった。

機械に愛着は持っている。

たとえば、ほぼ暖気ゼロでクルマを走り出させる人を見ると「ああ! ピストンとシリンダーがかわいそう! 傷んじゃう!」と思うし、冬にバイクに乗るとサスペンションのオイルの固さを感じるし、空冷エンジンなどだとパワーが出ると「機嫌がいいんだな!」と思う。長年使って来たMacにも愛着があるので、これまで使った多くのMacBook(や、PowerBook)は今でも大切に保管している。そこには愛情があると思う。

しかし、愛くるしい目や、毛皮風のポリエステル素材で覆われていると、逆にあざとさを感じてしまって、愛着を感じないような気がするのだ。むしろ、「関節は何自由度?」「バッテリーは何V何Ah?」「通信には何を使ってるんだろう?」「目の部分は液晶?」……というレビュアー目線の分析をしてしまう。

しかし、コミュニケーションロボットに、昔から愛情を持っている人はいる。今回の会場にも、aiboを中心に大事なコミュニケーションロボットを『連れてきて』いる人はたくさんいたし、知人のテックジャーナリスト/クリエイターの弓月ひろみさんも、LOVOTをとても大事にしてコミュニケーションを取っていると聞く。

『コミュニケーションロボットとは何なのか? そこになんらかの可能性はあるのか?』が、筆者が今回このイベントを通して知りたかったことだ。

そのために、朝から終日行われていたトークセッションをすべて観覧し、各ロボットの展示やデモを見て、人に話を聞いた。

機能の高さではなく、『心』に作用するロボット

トークセッションの中ではいろいろと興味深い話が聞けた。そのうちのいくつかのエピソードをご紹介しよう(4回のセッションそれぞれの内容については、上記リンクを参照されたい)。

豊橋技術科学大学ICD-LAB代表の岡田美智男さんの話はとりわけ興味深かった。我々がコミュニケーションロボットに期待する『心』は、内在的に実装されるものではなく、我々ユーザーとの関係性の中で構成されるものなのだそうだ。ロボットに『心があるように見える』状況とは、予想される動きと、『ちょっと違う』ことによって、意図性が感じられるようになるのだそうだ。

岡田さんがICD-LABで作っているロボットの興味深い点は『弱さ』を持っていることなのだそうだ。ところどころ物忘れをしながら昔話をして、子どもに単語を補ってもらうTalking Bone、ゴミの前まで歩いていくけど誰かがゴミを入れてくれるのを待つSociable Trash Box、なんか3つの謎の生命体(?)が、口々に相づちを打ちながら話を聞いてくれるNamida0 Home。完全無敵ではない、人と関わるロボットのヒントがそこにあるように思った。

パナソニックのNICOBOもそれに近い『弱さ』を持ったロボットだ。


ゆらゆら動き、人の顔を認識してそちらに向いたり出来るが、発する日本語はカタコト。基本的には独自の『モコ語』で話すという。ふいにオナラやシャックリをすることもある。何をするわけでもないが、和みを提供してくれるのだという。こちらも不完全さが、親近感を感じさせるキーになっている。

『aiboが夢を見る』という話も興味深かった。ソニーのaiboの商品ソフトウエア設計を担当した藤本吉秀さんによると、aiboは人間の記憶のように、毎日、その日にあったことを夜中に再生してそのうちの重要な部分を深く記憶に刻んだり、一部を忘れたりするのだそうだ。そうした中で、たとえばボールを追いかけて遊んだ時に、オーナーが喜んでくれることが多ければ、そういう記憶を学習して、他のaiboとは違う『ウチのaibo』になってくれるという。

aiboは自律的に動いて人に近づいたり、触れられて、撫でられたというようなことを学習して、感情モデルを持って行動するのだという。

プロダクト企画の松永一樹さん曰く、「癒やしは狙って作るものではなく、関係性やしぐさを通じて自然と生まれるもの」。実際に、ペットを失った人や、家族を失った人を癒す存在になっている例も多数あるという。

 

製品としてもビジネスモデルとしても完成度の高いLOVOT

ビジネスモデルとして、かなり成功していると聞くのがLOVOTだ。移動できて、簡単な声や言葉を発し、さわるとほんのりと温かい。移動は脚による歩行ではなく車輪だが、その分シンプルで、自由に効率的に移動できているようだ。それ以外のメカニズムは、かなり複雑で多彩なセンサーを持ち、複数のカメラやマイクで外界の情報を習得し、それに応じて行動する。お値段も立派で、最新のLOVOT 3.0は価格は57万7500円で、月額費用(ソフトウエアの利用とメンテナンス保証)が9900円/月から。

ただ、それだけロボットとしての完成度は高く、家族と深く関わる存在になってくれそうだ。

LOVOTを販売するGROOVE Xの代表である林要さんがトークセッションの時にLOVOTを連れて上がっていたのだが、LOVOTは興味深そうに(そう見える)壇上をグルグルと移動して、周囲を観察し、みつけた観客席のLOVOTと何やらやりとりをしていたのには感動した。そこには明らかな意思と言うか、生命感を感じたのだ。

ちなみに、LOVOT同士は、通信を通じてコミュニケーションし、見つめ合ったり、時には追いかけっこをしたりするそうなので、他のLOVOTに会わせたくなったり、複数飼い(?)したくなったりしそうだ。

生成AIがコミュニケーションロボットを爆発的に進化させる

主催であるMIXIのRomi Lacatanモデルは、一見して地味だし、移動もしないし(左右に揺れたり、うなずいたりはできる)、お値段もほどほど(9万8780円)。

しかし、生成AIと連携しており、高度な会話が可能だし、目(というかカメラ)を持っており、外界を認識できる。

みなさんも、生成AIと会話していて、人格を感じたりすることがあると思う。Romi Lacatanモデルはいわばボディを持った生成AIだ。しかも、カメラで外界の情報を取り入れることもできる。

もっとも、他の生成AIのように、ドキュメントを作成してくれたり、スプレッドシートを作ってくれたりするわけではない。雑談などの日常的な会話をするために作られている。「今日、どんなことがあったの?」「そうなんだ……」というような、共感ベースな日常的な会話ができるのだという。

心で体験しないと、分からない価値

最初に書いた通り、筆者の一番の疑問は『コミュニケーションロボットとは何なのか? そこになんらかの可能性はあるのか?』というところにあった。

ずっと、そのことは謎のままだったのだが、最後の方にGROOVE Xの林要さんが言ったことには納得感があった。

「コミュニケーションロボットの価値は一緒に暮らしてみないとわかりません。みなさんはすでに、一緒に暮らして、その価値を理解している数少ない人なのですから、ぜひその魅力を、価値を多くの人に伝えて下さい」

なるほど、筆者も自宅では日常的にVision Proを使ってるが、使っていない人にはその価値は分かりづらい。購入してない人が、ちょっと試用して「Vision Proは重くて高価すぎる」などと言っているのを見ると、日常を共にせずして何が分かるものか! と思う。たぶん、コミュニケーションロボットも同じなのだろう。

ましてやコミュニケーションロボットの場合、愛情を持って暮らしてみないと分からないのだ。筆者が、コミュニケーションロボットについて、理解できないのはある意味当然だとも思える。腹落ちした。

日本の産業として、大きな可能性を秘めている

日本だけでなく、シリコンバレーでも、中国でも、フランス(フレンチテック)でも、数多くの企業が、コミュニケーションロボットを作って失敗してきているのだそうだ。簡単なようでいて、必要な技術と、資本は膨大で、理解してもらうのに時間がかかる。

しかし、aiboや、LOVOTなど、数少ない成功(しつつある)例が日本にはある。

召使いでも、人類を征服する敵でもなく、パートナーとしてのロボットという考え方は、日本だからこそ成り立つ考え方でもある。トークセッションにも出てきていたが、ドラえもんがのび太のお母さんの家事を手伝わないのは、彼はコミュニケーションロボットだからだ。もし家事を手伝ったりしたら、相対的に家庭内でのび太の価値を下げてしまうことになる。寄り添っているからこそ、ドラえもんなのだ。

ロボットに対する日本独特の考え方は、日本の産業に新たな可能性を生み出すかもしれない。アニメ、マンガ、ゲーム、初音ミクなどと同様に、ネオジャポニズムとして、コミュニケーションロボットは日本の新しい産業になるかもしれない。高齢化先進国でもあるし、高齢者の方のコミュニケーションサポート用としても役立つかも。

生成AIもそれを後押しするだろう。そんな可能性を感じるイベントだった。

(村上タクタ)

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村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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