もしかしたらリン・ミンメイみたいになれるの?
ーー2008年に放送された『マクロスF』が、今年で15周年を迎えました。
「ですね!」
ーー『F』でランカ・リーを演じる前、『マクロス』シリーズにはどんな印象をもたれてました?
「正直に言うと、当時は『マクロス』というタイトルは知らなかったんです。高校2年生の時で、5年ぐらいなんのオーディションも受からなくて、そろそろあきらめようかなって話をしてたら、当時の事務所から、最後にこのオーディションだけ受けてほしいって言われたのが『マクロス』のオーディションだったんです(2007年開催の
「Victor Vocal&Voice Audition」)。そこで『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を観て、初めて、あっ、こんなにてんこ盛りの作品なんだ! って知ったんです」
ーー『愛・おぼえていますか』をご覧になった感想はいかがでした。
「オーディションも最初は『これは記念受験だ』という気持ちだったんですけど、『愛・おぼえていますか』の衝撃がすごくて、もしかしたらこの作品のリン・ミンメイみたいになれるの? という気持ちもあって。そこでちょっと心が動いたというか、楽しそう、でも期待しちゃいけない、という感じでした」
ーーオーディションはどんな様子だったんですか。
「ビクタースタジオの3階の大きなスタジオで、遠くのミキサールームに大人が30人ぐらいいるのがぼんやり見えるんですよ。そんな心細いなかで課題曲の『愛・おぼえていますか』を歌って、セリフをしゃべって、その時はもう手応えがなくて、あぁ…っていう感じ。ただその後面接があったんですね。そこで大人たちがじっと私を見ているなかで、河森(正治)さんとフライングドッグ社長の佐々木(史朗)さんとの面談が楽しかったっていう思い出で。すごく朗らかな雰囲気で、なんでもしゃべっちゃっていいかもって、女子高生のノリでペラペラしゃべって(笑)、『ありがとうございました!』って帰って、すごく楽しかったんです」
ーーその面談が合格の決め手だったのかも知れないですね。
「最終審査が高3の4月で、結果がきたのが6月だったと思います。放課後に携帯が鳴って、受かったらしいと。さらに8月18日に『マクロス25周年記念ライブ』で歌っていただきますと。……2ヶ月後? って(笑)」
いろんな意味が含まれた『あまり練習しないで』
ーーまさにランカを地でいくステップアップ感でしたが、ランカ・リーというキャラクターの第一印象はいかがでしたか。
「オーディションのキャラ設定の絵と、短いキャラ紹介が書いてあって、それを見て、アニメでキャラクターを演じるというよりは、ひとりの女の子として共感できるかもって無条件に思いました。こんなかわいらしくはないけど、少し共通点はありそうだし、自分も女子高生だしって(笑)」
ーー中島さんの等身大感がランカにも投影されたわけですね。
「キャラクターとして歌を歌ったり、演技をすることにも初挑戦だったので、がむしゃらにやったことが等身大だった、というところからのスタートだったと思います。河森さんから、1話を録り終わった後だったか『次の台本を開くのは、どんなに早くてもアフレコの2、3日前にして、練習もあまりしないで』って言われたことを覚えて います」
ーー作り込みすぎない演技を求められていたと。
「そうなのかな? って受け止めました。あとは演技も始めたばかりなので、先を知ってしまう お芝居を懸念していらしたと思うんですけど、『あまり練習しないで』という言葉にはいろんな意味が含まれていそうだなって思っていましたね」
ーー当時のアフレコ現場はどんな雰囲気でしたか?
「6話ぐらいだと思うんですけど、それまでは先輩方のアフレコを見学だけして、その後別に、一人で抜きで録っていたんです。それで『私ってずっと一人で録るのかな?』って思っていたんですけど、6話ぐらいで音響監督の三間(雅文)さんが、『今日から中島くんも一緒に録ります』っておっしゃって、えっ……? って(笑)」
ーーそれまで誰からも知らされていなかったんですか。
「ブースで隣りに座っていた遠藤 綾(シェリル・ノーム役)さんも『そうなの?』って(笑)。『F』の現場は予告もなくというのがよくあって、最初は驚きましたけど、『こういうものなんだ』ってだんだん慣れていきました(笑)。現場ではそういところも鍛えられたのかなって」
ーー収録で印象に残っている思い出はありますか?
「これはもう反省で、『蒼のエーテル』が流れる回(21話「蒼のエーテル」)で、『さよなら……大好きでした!』と言うシーンを、30テイクぐらいやらせていただきました。その間、先輩方は待っていてくださったと思います。 あれは忘れられないですね」
ーー30テイクはすごいです。
「ただただ申し訳ないって気持ちでいっぱいでしたけど、こうして振り返ると、そこまでていねいにやっていただけることってないですよね。そこまで真正面から向き合って、『まだこの子から何か出るかもしれない』って根気強く粘ってくださったスタッフさんやキャストさんがいてくださって。そのシーン以外にも失敗もあれば、一発でOKだったものもあるし、なんと幸せな環境なんだって思います」
怒涛のレコーディングと“超時空シンデレラ”
ーーそうした演技の一方で、数々の楽曲を歌ってきましたね。
「最初は2007年の9月か10月ぐらいに『愛・おぼえていますか』のカバーのレコーディングがあったんですね。そこから怒涛の、『デモテープあがりました』って言われてビクタースタジオに行ってレコーディング、また『デモテープがあがりました』という繰り返しに入っていったという感じです」
ーー音楽を担当された菅野よう子さんとの制作はいかがでしたか?
「菅野さんの曲は、『アイモ』のアカペラとか『ニンジーンLoves you yeah!』とか振り幅が広すぎて、『この方は宇宙人なのかな?』って(笑)」
ーー初期はシェリルという絶対的な歌姫がいて、ランカは彼女に憧れる存在。楽曲もCMソング的なものもあったりとバラエティに富んでいて。
「そうですそうです。シェリルさんはカッコよく、私はこういう感じの立ち位置なのかなって。その時には台本も開いていないので、どういう話になるのか知らなかったんですよ」
ーーランカが”超時空シンデレラ”と言われるようになるのも知らなかったわけですね。
「彼女がアイドルを目指す流れを台本を開いて初めて知るという。それこそ『星間飛行』もそうですけど、どの曲がどこで使われるのかもわからなかったし、CDデビューするなんてのもあまり聞いていなかったんですよ。続々と神曲がくるわけですから、 どれが私の推し曲になるかわからないまま、どれもいい曲だなって(笑)」
ーー「星間飛行」はアニメ史を 代表する名曲ですけどね。
「12話で曲の前に『みんな抱きしめて! 銀河の果てまで!』ってセリフを言うんですけど、どういうこと? って」
ーーまさに「ご存じ、ないのですか 」(第12話での名ゼリフ) ですね(笑)。
「ご存じ、ありませんでした!(笑)」
ーーあの12話を境に、現実の世界でも「星間飛行」がヒットして、ランカフィーバーが訪れます。それについてはどうとらえていましたか。
「最初にランカとしてのデビューステージが、2008年6月にお台場のヴィーナスフォートで開催されたイベントだったんですけど、ステージ上の扉が開いた瞬間、ものすごい人で。レストランから観ている人もいて、人 、人 、人……。あの瞬間に『あっ!』って思って。その後12話が放送されて、イケるというよりは、みんな『キラッ☆』って 言ってくれているし、『イケてる……っぽい?』というぐらいでした(笑)」
ーーそこから数々の作品でランカを演じてきましたけど、やはりご自身のなかでもあまり客観的に見られる存在ではない?
「一昨年に『劇場短編マクロスF〜時の迷宮〜』が公開されて、時が経った『F』の世界で大人になったランカを見た時に、そこでやっとちょっと俯瞰で見られたのかなって。まだそこまで客観的には見えていないんですけど」
ーーある種、ランカと中島さんは非常に近いと言うか、まさに”=”で結ばれているというか。
「それを受け入れられたのも、オーディションに受かって25周年ライブまでの間で、『超時空要塞マクロス』から『マクロス ゼロ』まで全部観たんですけど、初代のリン・ミンメイから『マクロスってこういうものだな』って思ったからだし、実際に飯島真理さんにお会いした時に、キャラクターとイコールになることの心構えとかもお話いただいたので、そこで構えすぎずにやれたのかなって思います』
ーー『マクロス』の歴史を身体に入れたことが大きかったと。
『いや、観始めたらおもしろくて(笑)。作風もさまざまですけど、三角関係、歌、メカとすべての作品に一本筋が通っていて、そこに純粋にハマれたんですよね。それがなかったら、ランカとの関係性は最初から悩んでいたと思います」
ーー歴史をつないでいく存在として、ランカと共に中島さんも『マクロス』の一員として存在し続けるんですね。
「この前『ニンジーン』がTikTokで使われているのを知ったんですけど、そうやって時を超えて古さを感じさせない音楽が、ネットを通じて若い人にも届いたらいいなって思います。どの作品も、どの世代にもまっすぐすすめられるものですし、最近のものも昔のシリーズもまた観てみてほしいですね」
※情報は取材当時のものです。
(出典/「昭和50年男 2023年7月号 Vol.023」)
取材・文 澄川龍一 撮影 松蔭浩之
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