1970~1980年代の”音楽”に欠かせないカセットテープ
1969年、NHK–FMが実験放送を終え、日本で本格的にFM放送がスタート。1970年にはFM東京も開局、FM放送時代の幕開けとなった。FM放送局は、開局当初、クラシックやジャズといった趣味性の高い大人の音楽を流していたが、次第にロックやポップスなどを番組で取り上げられるようになる。
60年代半ば頃から各社から発売され始めたカセットテープも世に浸透し始め、AMより高い音質のFM放送で流行りの音楽を録音できると、若者の間で、〝エアチェックブーム〞が起こる。ちなみにこの〝エアチェック〞という言葉、本来、「電波状況をチェックする」という意味だったのだが、やがて、「リスナーがラジオ番組を録音する行為」という意味で使われるようになっていったという。
エアチェックブームと共に誕生したのが、FM放送の番組表が載ったFMレコパルや『FM STATION』といったFM雑誌だ。当時の若者たちは、これらの雑誌で事前に番組をチェック(曲名、曲の分数まで掲載されていた)。それに合ったカセットテープを用意して、放送を待ち構えていたものだった。
FM雑誌と共にエアチェックブームのもうひとつの立役者とも言えるのが、カセットテープだ。当時、その拡大する市場に、オーディオメーカー、家電メーカー、フィルムメーカーなどなど…さまざまな会社がこぞって参入したが、70年代の早い段階で、勝負は決してしまった。3つのブランドが、カセットテープの終焉に至るまで、市場における絶対的な地位を確立。それがTDK、SONY、maxellだ。
88年末、ブームとも呼ばれたエアチェックが大きな曲がり角を迎える―J–WAVEの開局である。DJのトークが曲とかぶる新しい番組スタイルは、リスナーの人気を集め、やがて他局も傾倒。同時期、簡単に高音質で曲が録音できるレンタルCD店の普及も、エアチェックの衰退に輪をかけた。もはや細かく曲名を掲載していた番組表の存在理由も希薄となり、90年代に入ると、FM雑誌が次々に休刊。エアチェック文化の終焉を迎える。
そしてカセットテープもMDといった新たなデジタルメディアの普及と反比例するように、90年を境に市場が一気に縮小していった。そこで昭和50年男になじみのある3大メーカーの代表的な製品を紹介する。
TDK(ティーディーケイ)
1960年代から製造を始め、70年代にはSONYからシェア1位の座を奪ったカセットテープの名門、TDK。2007年にイメーション社にカセットテープ事業を譲渡するまで業界をけん引し続けた。
1.AD[ノーマル]
1977年に誕生したADは、「つき抜ける高音の冴え。」のフレーズで80年代初頭に空前の売上を記録したTDKの顔とも言えるモデル。写真は86年発売の5代目。安さも人気の理由だった。
発売年:1986年
価格:470円(46分)、500円(50分)、570円(60分)、780円(80分)、890円(90分)、1,250円(120分)
2.SA[ハイポジ]
1975年以来、22年間にわたり販売され続けたTDKを代表するロングセラー、ハイポジカセット。写真は87年に発売された7代目。デジタルにも対応したモデルとなっている。
発売年:1987年
価格:600円(46分)、700円(54分)、800円(60分)、900円(80分)、1,000円(90分)
3.MA-XG Fermo[メタル]
ダイキャストフレームと高価格(2,000円/60分)で衝撃を与えた1979年発売のメタルテープ、MA=Rの最終進化形。流通数も少なく現在のオークションでも高値に。
発売年:1990年
価格:1,800円(46分)、2,000円(60分)、2,300円(90分)
4.AR[ノーマル]
1984年に上位モデルとして誕生したAR。当時のロックミュージックなどに対応すべく、中音域を強調したモデルとして開発され、ロングセラーへと成長。写真は85年発売の2代目だ。
発売年:1985年
価格:500円(46分)、570円(54分)、630円(60分)、940円(90分)
5.SF[ハイポジ]
TDK初の低価格ハイポジとして1985年に誕生したSF。88年には後継のSRになってしまった比較的に短命なモデルだ。特に初代(写真)は、翌年にはモデルチェンジしているためレアだ。
発売年:1985年
価格:500円(46分)、570円(54分)、630円(60分)、940円(90分)
SONY(ソニー)
3大ブランド唯一、カセットテープだけでなく、ハードも製造していたのがSONYだ。とりわけウォークマンの誕生~普及は、カセットテープ文化の発展、隆盛に多大なる影響を与えた。
1.Super Metal Master[メタル]
1986年に発売された白いセラミック製のハーフを持つメタルマスターのマスターの後継機としてすでにカセットテープの需要が下がり始めた93年に誕生。高品質・高価格の究極のカセットテープだ。
発売年:1993年
価格:2,000円(46分)、2,300円(60分)、2,600円(90分)
2.HF-X[ノーマル]
ベストセラーのHF-SとHF-ESの中間に位置するモデルとして「明るくキレのいいサウンド」をコンセプトに1985年に誕生したHF-X。写真は89年発売の最終モデルとなった3代目だ。
発売年:1989年
価格:430円(46分)、450円(50分)、480円(54分)、530円(60分)、620円(74分)、720円(90分)、910円(120分)
3.HF-ES[ノーマル]
高性能ノーマルテープのAHFの後継機として1984年に誕生。SONYを代表するモデルで「音、バランスがいい」と人気を博した。イメージカラーは青。写真は87年に発売された3代目。
発売年:1987年
価格:500円(46分)、550円(54分)、600円(60分)、750円(80分)、800円(90分)
4.HF-PRO[ノーマル]
HE-ESの上位機種として1984年位発売されたSONYにおける最上位ノーマルテープ。写真の2代目まで採用されていた白いハーフがトレードマークで、独特の高級感を醸し出していた。
発売年:1986年
価格:550円(46分)、600円(54分)、700円(60分)、900円(80分)、1,000円(90分)
5.UX[ハイポジ]
前年に発売された「Do」をマイナーチェンジするような形で1986年に誕生。当時、SONYで最も安価なハイポジで、気軽に使えるのがうれしかった。90年頃まで市場に流通していた。
発売年:1986年
価格:500円(46分)、550円(54分)、600円(60分)、800円(80分)、900円(90分)
maxell(マクセル)
1960年代から21世紀の今に至るまで、3大ブランド中、唯一、カセットテープを販売し続けているmaxell。山下達郎のCMで人気を博したUDやUDⅡといったベストセラーを生み出してきた。
1.UDⅡ[ハイポジ]
1984年に発売された低価格のハイポジの走りとなったベストセラーにして2000年頃の9代目まで作られたmaxellを代表するモデル。写真の初代は、3年以上もモデルチェンジなしで売れ続けた。
発売年:1984年
価格:480円(46分)、550円(54分)、600円(60分)、900円(90分)
2.UDⅠ[ノーマル]
1970年代後半から80年代初頭にかけてベストセラーとなったUDの後継機として83年に誕生したmaxellの看板商品。UD-Ⅰ-Nなどの派生モデルもある。写真は88年発売の2代目だ。
発売年:1988年
価格:320円(30分)、400円(46分)、430円(50分)、450円(54分)、500円(60分)、600円(80分)、650円(90分)、900円(120分)
3.XLⅡ[ハイポジ]
maxellの最も古いハイポジ(当時はクロムと呼ばれていた)、CHROME DIOXIDEの血を引き継いだUD-XLⅡの後継。1978年に誕生し、写真は85年発売の3代目だ。80年代末に姿を消した。
発売年:1985年
価格:570円(46分)、680円(54分)、780円(60分)、1,100円(90分)
4.XLⅡ-S[ハイポジ]
XLⅡの上位モデルとして80年に誕生したmaxellにおけるハイポジのハイエンドモデルだ。写真は、シックなデザインが高級感を感じさせる共振を徹底的に抑えた超高精度ハーフを採用した3代目。
発売年:1985年
価格:680円(46分)、890円(60分)、1,250円(90分)
5.Metal Vertex
TDKのMA-R、SONYのMETAL MASTERに並ぶmaxellのハイエンドカセットテープが、89年に満を持して発売。当時のmaxellの技術の、すべてを過ぎ込んだとされる最高傑作モデルだ。
発売年:1989年
価格:1,500円(46分)、1,700円(60分)、2,000円(90分)
※撮影した製品は全て個人所有の物で、現在は取り扱われておりません。
(出典/「昭和50年男 2024年1月号 Vol.026」)
文・資料提供:藤本晃一(開発社)